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第48話の1『貝の人』

 《 前回までのおはなし 》

 俺の名前は時命照也。恋愛アドベンチャーゲームの主人公なのだが、気づけばバトル漫画風の世界に飛ばされていた。姫様と共に化け物を追いかけていたのだが、気づけば盗まれた王城へ俺ごと連れ去られていたのだ……。

  

 「くっ……いさぎよく殺せ。屈さないぞ……だって、僕は……くっ……」


 謎の貝は何か言いたげに悶えているのだけど、鎖に繋がれていて不自由なせいか最後の言葉が聞こえない。まあ、少なくとも会話のできる相手のようだし、化け物に抵抗する気持ちは持っていると見られる為、助け出してあげた方が良い気もする。


 ずっと貝は鎖の束縛に抗っていたようで、鎖を繋いでいる台座のピンは半分ほど抜けかけている。

試しに両手でピンを持ち、両足にグッと力を込めて引っ張ってみた。ダメだ。ぜんぜん力が入らない。フォークをピンの穴に引っ掛けて引っ張ってもみたが、これも俺の力不足で上手くいかなかった……。


 いや、そもそも変な貝の相手をしている場合ではない。姫様が化け物に連れ去られているのだ。そう、今は一刻の猶予もない。貝はオブジェとして飾られている以上、化け物に襲われることもないだろうし、このサブイベントはスルーしよう……そう考えたのだが、ふと鎖についている大きな錠前が目についてしまった。


 「……これは」


 錠前には大きなカギ穴がある。開く訳はないと思いつつも、鍵穴にフォークを突き刺してガチャガチャやってみた……そしたら、まさかのことに開いちゃったのだ。脱獄といい開錠といい、俺は怪盗キャラでもいけるかもしれない……と、自惚れを言ってみる。


 縛りを失った鎖はジャラジャラと床に沈み、貝殻も台座から浮き上がる。その後、貝はブレイクダンスの如くグルグルと回転し始め、その勢いに押されて俺は反対側の壁際まで流された。


 「見よ!自由だ!僕、解放!」


 貝殻に幾つもある穴の中から、手……足……満を持しての頭が露出する。その姿は肌色の青白い少年のそれで、歳としては姫様やルルルと同じくらいに見える。彼は俺の姿を見つけると、少し驚いたような素振りで指先を向けた。


 「……君は、人間だね!」


 「ええ……そうです」


 「この場所は……我が王国の城と見えるな。水中……ましてや、こんな深い場所で、人間に助けてもらうとは思いもよらなかったよ」


 男の子の言動はキリッとしており、なんとなく話していて気持ちがいい。しかし、こんな場所に少年が飾られているというのは不可解である。そこの謎を明確にしておかねば、王国には生きた少年を飾る悪習があると疑いかねない。


 「ところで……あなたは、どちら様ですか?」

 「おっと、すまない。これがなくては……ねっ」


 貝の人は背中の貝殻から銀のアクセサリーを取り出すと、それを頭のにセットした。どうやら彼のトレードマークのようだが、それが何を意味するのかは俺にはピンとこない……。


 「……ええと」

 「……僕はマリエイア王国の王子シエル。以後、お見知りおきを」


 俺が言葉に詰まっていると、ありがたくも自己紹介をしてくれた。今まで人づてに聞いていた情報から勝手に王子は犠牲になったものだと考えていた為、人物予想から除外していたのである。とはいえ、なぜ……こんな場所に王子がいるのだろうか。


 「俺、テルヤっていいます。ルッカさんたちから、王子様は化け物討伐任務の途中で行方不明になったと聞きましたが……」


 「血の海にて化け物と接触した際、化け物の赤い毛にからめとられてしまった。それからしばらくは身動きが取れず、身を守る為に殻に籠っていたのだけど、家まで送ってくれるとは優しいね。ははは」


 その末、鎖で巻かれてオブジェにされていたのだが、それが功を奏して王子様が無事だったのであれば幸いである。いや……待てよ。血の海でピンチになった化け物と共に王子が城へ戻った……つまり、しばしの時間差はあれど、血の海の化け物は城にやって来たのだ。すると、今も城の何処かにいる可能性は高い。


 「せっかくだ。王国の総力をもって、君をもてなそう。うちのシェフは活け造りが絶品なんだ」


 そうだった。王子様は、まったく今の状況を理解していない。すいすいと泳ぎ出そうとした王子様を失礼にも手で引き留めて、俺は落ち着いた口調を心がけつつ伝える。


 「実はですね……この城は今」

 「……解ったよ。現在、この城は危険なようだ」


 みなまで言わずして、王子様が状況を飲み込んでくれた。しかし、その視線は俺の後ろを見ている。大きな存在感を背後に覚えつつ、俺は急いで顔を後ろへ向けた。


 「……ッ!?」


 そこには、さっき通り過ぎていったはずの手の化け物が存在しており、俺は声にならない悲鳴を上げるはめとなった……。


第48話の2へ続く

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