第47話の3『貝殻』
俺の姿が牢屋にないとバレれば、すぐに追手がやってくるはずだ。なぜ俺が生かされているのかは謎だが、今度という今度は八つ裂きにされて殺されるだろう。えぐられて作られた脱獄穴の突起を次々と掴み、なるべく素早く穴の中を進んでいく。
ところどころに進路とは別の穴も開いているが、ひとまず俺はギザギザさんの通ったであろう道を進んでいく。その通路は城壁まで続いていて、そこからギザギザさんは外へ脱出したと思われる。
さっき窓から確認した通り、城の外には水流が渦巻いていて、ここから出たら流されて水流の外まで飛ばされるかもしれない。道中、狭い穴が別の場所にあいていた。そちらへ戻ろう。
目を閉じてマップを確認してみるが、俺の進んでいる道は通常の通路ではない為、やはりマップには記されていない。そして、現在地を示すカーソルは道なき場所を指しており、ちょっとしたバグ技を使っている気分である。この先は……えっと、廊下みたいな通路があるようだ。
敵の居場所はマップに表示されないので、廊下へ出る前に周囲の様子を確かめる。右、よし。左、よし。俺はグイッと穴に体を押し込み、数分の苦労を経壁から脱出。やっとこ廊下に足をつけた。せまい穴を通ったせいで、ちょっと体がしぼられた気持ちだ。
その数秒後、ガガガガガという床を連続で打つような音が聞こえ、すぐに俺は石像の後ろに身を潜めた。通路の曲がり角から、地面を指でつたって走ってくる大きな手が現れた。五本の指で器用に走行する様は、なんというか虫みたいで見ていると背筋がゾワゾワする……。
手の化け物は俺に気づくことなく、石像の前を素通りして過ぎていった。通路の照明が少ないので見落としてくれたようだ。通路には穏やかな流れがある為、俺は流れに逆らうように石像から隣の石像へ乗り移る形で先へと進む。
すると……また、ガガガガガという音がした。まずい!戻って来た!今、俺はタコつぼからウツボが出ている妙な石像の上にいる。そのタコつぼに隠れようとしたが……思いのほかツボが浅くて下半身しか入らない!手の化け物が前を向いたまま、バック状態で戻ってくる!
「……」
化け物が俺の目の前で止まる……こうなったら、石像に成りすますしかない。俺は石像。俺は
石像だ。俺はタコつぼの石像だ!
「……」
早く行け……早く行け……俺はタコの石像なんだぞ。冷や汗が出ている気もするが、水中なので解らない。しばしの緊迫状態を経て、化け物は隣にあるオブジェの前へと移動。そちらを観察したのち、再びガガガガガと道を進んでいった。た……助かった。
タコつぼから下半身を引き抜き、また隣のオブジェへ移動する。それは化け物が観察していたものであり、見た目は鎖に繋がれた大きめの巻貝なのだが、その近くを通った際に何か聞こえた気がした。
「……くっ……くっ」
「……?」
よく見ると、貝殻は小さくゴトゴトと動いている。中身があるのだろうか。敵ではない気はするが、念のため貝殻に耳を近づけて声を聞いてみる。
「くっ……!解放するんだ!僕は……くっ!僕は……くっ!」
僕は……なんなのだろうか。もっと耳を近づけてみる。
「僕は……くっ!化け物め!くっ……!」
「……?」
「僕は……僕は……」
「……」
「くっ……!僕は……くっ!」
気になるから早く言ってくれ……。
第48話に続く






