第47話の2『脱獄』
そうだ。他の物語の登場人物が牢屋に入れられていた際、スプーンを使ってコツコツと部屋の壁を気づかれないよう削って、その穴から脱獄を計るシーンを見た事がある。幸いながらフォークは部屋に沈んでいる為、これを壁に突き立ててみようかと思う。
コツ……という弱々しい音と共に、フォークは岩でできた壁に弾かれた。地上ならば掘削も無理ではないかもしれないが、水中にいる時点で俺は無力だ。そもそも、俺は何年かけて穴を掘ろうとしているのだ。この作戦は厳しいな……。
あとは……そうだ。この牢屋には窓がある。窓にガラスなどはハマっておらず、鉄の棒が均等にハマっている。このままでは通り抜けることはできないが、実は棒の何本かが外せる可能性……などというものは一切なく、きっちりと封鎖されている。
と……俺が窓の鉄棒をいじったりしていたところ、窓の外側に何かが現れた。あれは……目玉の化け物だ!目玉の化け物が窓の外から、俺のことを見ている!マズイ!すぐに俺は鉄棒から手を離し、死んだふりを決行した。
「……」
行ったか?いや、もう少し辛抱だ。怪しまれないよう更に白目をむいて、体の力を抜いて、歯茎をむき出しにした方がいいか?俺は死体の気持ちになって必死にやり過ごした。
「……」
その内、ごぼごぼと何かが動く音を聞いた。どうやら、行ったようだな。俺は渾身の死んだふりを解くと、こっそりと窓の外を眺めた。目玉の化け物はいない。なお、建物の外には渦巻きタイフーンのようなものが吹き流れすさんでいて、それは外からの侵入を許さなかった海上の竜巻へと繋がっていると見える。なお、暗くて明確には見えないが、海の底の方には水流を発生させている何かがあると思われる。
外へ出るために残された手段は鍵を手に入れることくらいだが、カギは牢屋から離れた場所の壁にかかっており、フォークで引っかけて盗み取れるほどの距離ではない。思いっきり鉄棒の間から手を伸ばしてみるも、やはり圧倒的に届かない。そんな試行錯誤の中で、とある人のセリフが俺の脳裏をよぎった。
『王子様を死に追いやった罪の意識か、国民からの非難を恐れてか、ギザギザは自分から牢獄へ入り、あまや脱獄したと思いきや仲間と共に船を盗み失踪。乱心に任せて命を捨てに行ったのではと気が気ではなりませんでした……』
これは国を出発する際のルッカさんのセリフだったはずだが……ギザギザさん、どうやって脱走したんだ?再び瞳を閉じ、マップを確認。牢屋らしき小さな部屋は、どうも現在地にしかない。再度、部屋の中を見回してみる。この中で怪しい場所は……貝殻ベッドの下だ!俺はフタを開けた貝殻ベッドの後ろに隠れ、壁を足でけりつつ両腕でベッドを動かした。
……あった!パンチか何かでえぐられたような穴がベッドの置いてある場所の下にあり、それはモズクさんや姫様が通っていた緊急連絡通路のような狭い穴へと続いている。そこもザックリザックリと削られて、穴が広げてあった。俺は管の化け物が見ていない隙を見て、武器代わりといっては何だがフォークを片手に穴の中へと侵入した。
第47話の3へ続く






