第8話『調査(何か方法はあるはずだ…)』
《 前回までの 》
俺、時命照也は恋愛アドベンチャーゲームの主人公。でも、気づいたらバトル漫画風の世界に飛ばされていたんだ。そして、修行仲間だったらしいヤチャ、ヒロインらしき謎の人物と共にパワーアップの塔という場所に向かっている。そして。
「着いた……」
「着いたー!」
近くの村で一晩を越し、朝から出発して昼過ぎ頃にパワーアップの塔へと到着した。塔の外観はというと、陶器のように滑らかな装いで、その中に金色でイバラ柄が施されている。
塔の二階あたりまでを見れば低い円柱の形なのだが、その中央部分からは細長い棒状のものが天高く伸びている。たぶん、あれの中に長い長い階段があるんだろう。階段を使ったとしてもテッペンまで行くにはタフネスを消費しそうと見て、『着いた』の声に覇気がない方が俺である。
「入り口が4つあるが……どこから入る?」
建物の周りをぐるっと歩いてみると、東西南北の向きに1つずつドアがあった。
「解ったぞ!中にボスがいて、4人全員を倒せばパワーアップできるんだな!」
「だとすると、建物の異常な高さが無駄だな……」
ヤチャの希望が叶ってボスと4回も戦ったら、コンテニューが幾つあってもたりない。それなら階段を上がり続ける方がマシである。外から見ていても仕方がないと思い、手身近にあったドアを開けてみる。
「……?」
ドアの内側はというと、中央にある螺旋階段以外は特に何もなくて、広々とした堂っぽい場所となっている。床には青と金の綺麗な模様があって、その模様は、どことなくマッスルな男の人にも見えるし、雲を割って飛ぶ龍とも見て取れるが、俺には昨晩の食事で出たアッチャガオッチャガとかいうやつに見える。
アッチャガオッチャガで思い出したが、村でマントの人を食事に誘ったものの、巧妙に仮面の下から食べていた訳で、素顔を拝むには至らなかった。無念。
俺たちが開けたドアの他、残り3つのトビラも各方面に見えている。つまり、どこから入っても一緒だったんだな。
「あの階段を上ればパワーアップできるのかあ?」
「……ヤチャ。ちょっと中で待っててくれないか?」
「あぁ!」
とりあえず、目的地であるパワーアップの塔までは到着だ。だから、案内してくれたマントの人とも、このままではお別れ。それについての話をすべく、俺は彼女を誘って塔の外へと出た。
そういや、こうして改まって二人きりで話すのは初めてだ。なんだか緊張するが……なにはともあれ、礼儀が第一だ。
「……まず、ここまで案内してくれて、ありがとう。君がいなかったら、おそらく塔までは来られなかった」
「……気にするな」
……ここで一旦、俺が彼女を旅に誘った文句を思い出す。『一緒に来て、塔の場所まで案内してほしい。でも、理由は、それだけじゃない』。その理由はといえば、もちろん俺がマントの人に運命を感じたから、ヒロインになってほしかった訳なのだが……うう……告白するには、まだ好感度が足りないような気がする。
『ここで、テルヤは言った』
仮面越しにマントの人の表情を透視しようと試みていると、それに耐えきれずか向こうは視線を斜め下へと落とした。その時、世界が時間を止め、俺の目の前にメッセージウィンドウのような青い四角形が現れた。
『1.愛してる 2、一緒に世界を救おう 3、ここでお別れだな 4.俺のこと、好き? 5.素顔が見たい 6.ご苦労様』
うわあ……また選択肢が無駄に多い。でも、思わせぶりなセリフを残しておいて、3は選びたくない。ついでに4と6を臆面なく言う男がいるとすれば、そいつは俺ではない。すれば、残るは1か2か5だろう。
5は言ってみたい気持ちも強いが……仮面をつけている道理が解らない以上、あまり詮索するのはよろしくない。かといって、1は……うん。2から話を繋げよう。そう選んで決めつつも、なんだか勇気が出なくて決定できない。
前みたいに強制タイムリミットがあればいいのだが、今回のような時にして悠長に待っていてくれるから気が引ける。選択肢が出るって事は、この中のどれかを選べば彼女といられるはずだ。落ち着け。俺。
『一緒に世界を救おう』に続けて、なんと言おうか。「君とならできる」?「僕と君なら無敵さ」?いや、どれをとってもヒドイ……思考を巡らせても何も思い浮かばず、一瞬だけ思いとどまってから、半ば勢いに任せて決断した。
「……一緒に世界を救おう」
「……私?」
「……うん」
ダメだ。ここで沈黙を作ったら。上ずってしまう声を正しながら、俺は間を空けずに続けて言う。
「なんっていうか、旅は仲間が多い方が楽しいし……じゃなくて、えっと……君みたいな不思議な力が……ってのも変だな。なんだろう……いい言葉が出ないけど」
「……」
「……もっと君のことが知りたいから……かな」
もう一つ。何が足りないのかを必死で考え、脳を介さずに口から出した。
「俺のことも、もっと知ってほぴ……うん」
噛んだ……なんて情けないんだ俺は。顔だけは決めているが、もう心臓と胃が同時に潰れそうな心境だ。せめて涙が流れないように天を仰いでいる。
「……君は、面白いな」
「……ん?」
「……」
そうポツリと言ったっきり、あとは何も答えをくれない。これは……OK……なのか?う~ん。いや、よく解らないってことは、もうコッチの解釈で推し進めてしまおう!
「よーし!この塔もパパっと攻略だ!行こう!」
ほんとは彼女の手をとっていきたかったけど、振り払われるのが怖かったんだろう。わざとらしい大声を出しながら塔の中へと戻る。ただ、ドアだけは開けっぱなしにして、中へ来るよう促してはいる辺り、俺は自分で思う以上にチキンなのかもしれない……。
「テルヤ、なんの話をしてきたんだ?」
「マントの人が仲間になってくれたぞ!」
「やったな!ボクも頑張るぞ!」
見たところ塔の一階に敵はいないようだし、中央にある螺旋階段以外に上へ行く方法も知れない。俺が先頭になり、三人で階段へ足をかけた。ぐるぐると登っていくこと3分、二階……っていうか立派な手すりがあるだけで、ここ屋上だな。
「ありゃりゃあ?もう階段がないぞお」
「どうやって上るんだろう……あ」
階段がなくて、屋上からは円柱が天まで伸びている。これは……まさか。
「……のぼるのか?この柱を。素手と素足で?」
「ええ!?よーし!」
「えええ!?いくの!?」
驚愕したと同時にヤチャが靴を脱ぎ始め、ぺたぺたと柱に引っ付きだした。マジか。この人、俺が思っていた以上に無鉄砲だな。
「じゃ、ボク先に行ってるぞ!」
「お……おお」
途中、何度かズリ落ちそうになりつつも、ヤチャは塔を順調に登っていく。彼が天空の白もやに隠れていくのを見送りつつも、俺は塔へと手をついてみる、登るのは絶対に無理だ。ツルツルとした滑らか質感から、それがヒシヒシと伝わってくる。腕組しつつも、マントの人と向き合った。
「一緒に世界を救おうと行った矢先、君を置いていく訳にはいかない」
「いや、構わないが……」
「考えても見てほしい。これだけ高い塔だよ。いちいち登らないといけないなんて不便だと思うんだ。なにか方法がある。そう予想して違わない」
「……ほお」
仮面とマントに隠されているせいもあって、相手のリアクションはよく解らない。だが、何となく反応が良かったから理解はして頂けたと考えておく。
「ひとまず、一階へ降りてみよう」
とはいったものの、楽にテッペンまでいく方法なんてあるのだろうか。ワープ?塔が縮む?乗り物が出てくる?いやいや、バトル漫画の世界なら、力技で登るのが最も有力だ。でも、さすがにヤチャだけが頂上まで着いたからといって、それでOKとはならないだろうし……なんとか、他の方法を探さないといけない。
「おや?」
螺旋階段を下りている途中で、改めて一階の床に描かれている絵を見た。なんだろう……少しずつ絵がズレている気がする。さては!
「この絵の描かれているパネルをなおせば、何か装置が現れるはず!少し待っててくれ!」
ズレ合っているパネルを一生懸命に押したり引いたりして、パネルとパネルの線をキレイにあわせていく。2時間くらいかけて、ようやく床はキレイになった。
「よーし。これで何かが起こる……」
手をはたいて様子を見守るが、一向に何も起きない。ああ、見誤ったか。
「……キレイになったな」
「あはは……道場での修行も、雑巾がけからっていうからね」
床がガタガタになってただけみたいだな。彼女の言う通り、キレイになっただけ。ん?あれは!?
「むっ!部屋の四隅にクリスタルが!あれを使えば……ッ!」
これみよがし、部屋の壁にクリスタルが付けてある。何かカラクリがあるのではないかと思い触ってみると、ぼやっとした光がクリスタルの中に生まれた。これだ!俺は急いで四隅を巡り、全てのクリスタルに光を灯した。
「完璧だ!きっと中央にワープが……」
ヴーンというクリスタルの音は聞こえるが、他には何も起きない。
「……明るい。夜が来ても安心だな」
「次は寝床と食事を探してみようかな……」
なにかと失敗をフォローしてくれる。優しい。その優しさは嬉しいが、俺が不甲斐ないばかりに心はズキズキする……その後、俺は有言実行し、保存食と簡易ベッドを壁の裏から発見した……。
結局、ワープや特殊ギミックなどというロマンティックなものは全く見つからず、その日は成す術なく夜を迎えてしまった。ヤチャは何処までいっただろうか。試しに外へ出て塔を仰ぎ見ているが、やはり姿は雲か霧の向こうである。落ちてきていないということは、そういうことなのだろう。
「……美しいものだ」
「……ああ。世界が平和になったら、観光地として振興したい」
いつの間にかマントの人が俺の後ろにいて、同じく塔の様子をを下から伺っている。確かに……ところどころライトアップされていて、どこかしらトーキョータワー感がある。ちょっとしたデート気分にもひたれるが、その塔をヤチャがよじ登っていると考えると複雑である。
「いいんだぞ」
「……ん?」
「……頂上へ行かねばならないのだろう?」
「……ああ。下で待っていてもらうのも、やむをえないかもしれない」
物語の流れからして、この塔には何かがある。俺が勇者と呼ばれるからには、俺にとって大切な能力……または出会いがあるのだろう。ていうか、パワーアップの塔って名前からしてさぁ……安直すぎるだろ……。
「今日は寝るよ。明日のことは明日、かんがえる」
「そうか」
再確認しよう。あの塔を俺が登るのは、はっきり言って無理だ。それでも登らねばならないとあらば、他に方法があるはずだ。むしろ、それしか方法はない。優しい仲間に見捨てられる前に、それを探しだそう。
解決しそうにない問題を残して眠る不安感と、無駄に塔を整備した倦怠感から逃げるようにして、俺は横になって何分としない内に眠った。
次の日、塔の窓から差す日光に起こされ、すっきりとした気持ちで朝を迎えた。まあ、次の瞬間には昨日の宿題を思い出してゲンナリするのだが。
マントの人は既に目を覚ましており、ナイフを磨いたりなどしている。ベッドを使った形跡はあるから、寝たのだとは思う。よし!昨日は塔の中を探したけど、今日は外を調査してみよう!
「塔の外に何かあるかもしれない。何もなければ、強行突破しかない」
「なるほど」
などと最後の望みとばかり太陽の下へ出たものの、外から見ると本当に何もない。ただの壁だけ。どうしたものか……。
「勇者君。あれはどうだろう」
「え?」
マントの人が指さした方向には石でできた灯篭……のようなものがあり、古ぼけてはいるが火は入りそうだ。それはともかく、名前でこそ呼ばれないものの、明確に俺を呼んでくれた。それが嬉しくて、気分が高揚してしまう。
「まこと、あなたは目の付け所がいい。えーと」
灯篭は塔を取り囲むようにして置かれており、今は灯りを包むという役目を果たしてはいない。そうか!
「これの中に火をつけて回れば、きっと何かが起こる!火の魔法をかしてくれないか?」
「……私は以前、君に火の魔法を見せただろうか?」
「え?いや……できるだろうなって思ってさ」
「不思議な人だ……」
そうだった。俺が火の魔法を見たのは、死ぬ前のことだ。洞窟の焚火の時は俺たちが来る前からつけてあったし、うかつだったな。とはいえ、不思議そうにはしつつも、マントの人が灯篭に手をかざすと、赤い炎が石灯篭の中に残った。
「……これが最後か」
「ああ、他にはなさそうだよ」
これで最後、16個目の灯篭に火が入る。お疲れ様です……。
「ありがとう。助かったよ」
全ての灯篭に火がつき、準備は万端。これで何も起こらなかったら、非常に恰好が悪い。祈る気持ちで塔を見つめているが、異変らしきは微塵もない。
「う~ん……これも……違ったかな。あらら?」
俺が諦めの言葉を出した……その時、塔の一階部分が発光を始めた。やった!狙い通り!
「やった!さあ、ワープでも乗り物でも、どんと出てこい!」
上がったテンションに任せてマントの人の手をとり、ぎゅっと握ったままイベントを待つ。俺の期待に応えるようにして、塔の一階部分は強烈な光に包まれていく。そして、そのまま大爆発した。
「……や……ヤチャー!!!」
第9話へ続く