第45話の1『装填』
《 前回までのおはなし 》
俺の名前は時命照也。恋愛アドベンチャーゲームの主人公なのだが、気づけばバトル漫画風の世界に飛ばされていた。血の海へ向かう途中で化け物2体に襲われたが、ギザギザさんの乱入やヤチャの犠牲をもって、クジラ丸さんの息も絶え絶え逃げ切った……。
「ヴァあああぁぁぁ!空気うめぇぇぇー!」
海面に到達したクジラ丸さんは水から口だけを出し、ガバガバと豪快に水を飛び散らせながら呼吸している。俺たちはクジラ丸さんの背中にある鼻を覆っている殻の中にいるのだが、酸素が補給されると俺たちのいる場所にもゴボゴボと泡が立ち上った。なお、クジラ丸さんの姿勢が上向きなだけあって、俺たちも壁に立つ形で息継ぎが終わるのを待っている。
空は昼間の明るさで、太陽の光がクジラ丸さんの金ぴか肌に照ってまぶしい。俺も日光浴といきたいところではあるが……ヤチャとギザギザさんたちの安否を確認しないと。そう考えると俺は一つだけ日光に向けて背伸びをして、すぐにクジラ丸さんへ再出発を頼み込む。
「俺たちの仲間を置いてきちゃったみたいで……よかったら、戻ってみませんか?」
「そーいや、ギザギザのやつもいたしなー。しょうがないから助けに行くかぁ」
「クジラ丸さん。あちらの岩礁にて、砲丸の装填が可能かと思われます」
「よし!備えあればってやつだな!ちょっと待てよな!」
ルッカさんの指さした岩山へ泳いでいくと、クジラ丸さんは舐めるか、かじるかという動きで岩を砕き始めた。ゴロゴロという音がクジラ丸さんの体内を流れ、恐らく10と幾つかほどの岩が体内にリロードされたと思われる。クジラ丸さんって……名前の割に体の機能がクジラを逸脱しており、もはや何者か謎である。
「岩って不味いよなー!魚も食べたいんだけど、あんまりいないからなぁー」
空腹のクジラ丸さんは大きな口を開けて泳いでいるが、クリアーな海の中を見渡す限り、お魚らしき影は多く見当たらない。さっきの化け物たちが無差別に食べてしまったのだろう。そんな具合に海の中を見学していると、海の底の方から眩しい光が昇ってくるのを発見した。
「……ん?なんだろう」
「まあ、腕のが反応しないから、敵ではないと思うんよ……」
ルルルは謎の光を敵じゃないと言っているが、クジラ丸さんの殻に戻ってきたルッカさんは新たな武器を箱から取り出している。なんか見た事のある光だな……そう考えている間にも、それが近づくにつれて勝手に俺の中で答えが出た。
「俺様の復活だあああぁぁぁ!」
「ヤチャ!記憶が戻ったのか!」
たぶん、撃ち出されたショックで記憶が戻ったのだろう。都合はいいが……もうちょっと早く戻ってほしかった気持ちがあるのは嘘ではない。
「こいつ、ゆーしゃの仲間かあ?」
「テルヤアァァは俺様の仲間だああぁぁぁ!」
「おい!こいつ、中に入れても大丈夫なのか?ボクを内側から破裂させたりしない?」
「……そこは……う~ん」
「俺様は泳いでいたいから外でいいぞおおおぉぉぉ!」
光を放っているヤチャは非常に高温なので、クジラ丸さんが中から焼けてしまう可能性は否めない。が、ヤチャが外でいいと自己申告してくれたため、このままギザギザさんを探しに向かう事となった。
第45話の2へ続く






