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第44話の3『膨張』

 「でも、クジラ丸さん。敵の居場所は解るんですよね?撃ち落せないんですか?」


 「大体の居場所が解っても、こんな視界じゃ当たらないよぉ!射撃は先を読んで撃つもんだろー?」


 つまり、おおよその位置は超音波的なもので察知できるが、どんな泳ぎ方をしているのか解らない以上は当たらないということかな。となれば、この赤く染まった水がジャマなのは間違いない。大量の水で赤い水を押し流すか、視界がなくても敵に当てる方法を考えるか。そうして作戦がまとまらない内にも、またしてもクジラ丸さんの悲鳴が聞こえる。


 「うぎゃあああぁぁぁ!尻尾をかまれたああぁぁぁ!くらえええぇぇぇ!」


 何かの筋が締まるようなギュウギュウという音がし、そちらへ向けてクジラ丸さんが大砲を撃ち込む。ただ、やはりヒットした音は響かず、やみくもに逃げる形でクジラ丸さんは前進を始めた。


 「まずい!息が減ってるッ!どっちだ……海面は!?」

 「方向が解らないのですか?少々、お待ちください。調査いたします!」

 「息……息……あっ」


 息苦しさと、姿の見えない敵に混乱しているのか、クジラ丸さんは上に泳いでいるのか下に泳いでいるのかも解らない状態。急遽、ルッカさんが時計みたいな道具で方向を調べてくれている。そんな中、俺は一つだけ苦しくも打開策を思いついた。すぐさま、俺はルルルに確認を投げる。


 「あれって、仙人がいなくてもできるかな。イカダを包んだ時の大きな泡」

 「それだけの息を吹きだせるならいけるんよ……どうするんじゃ?」

 「なるほど。クジラ丸さん!ここに溜まってる空気、一気に吹きだすことってできますか!?」

 「うん……1回なら」


 酸素が温存しているせいか、クジラ丸さんの承諾も短めである。成功するか否かは解らないが、すぐには他の案が出てこない。俺はクジラ丸さんの鼻を覆っている殻の上側にある穴を指さし、ルルルに合図を出す。すると、ゼロさんも俺が何をしたいのか理解してくれたようで、姫様が入っていた大きな宝箱を開いてくれた。


 「勇者。押し流されないよう。ここへ避難しよう」

 「解りました!」

 「敵、きてるんだぞ!おい、ゆーしゃ!どうするんだよう!」

 「クジラ丸さん!もう少し、待ってください!」


 微妙に泣きそうな声でクジラ丸さんが危機を訴えているが、まだ今じゃない。もう少しだけ耐えてくれ……。


 「……うわあ!?いったああぁぁぁ!かまれたあぁぁぁ!」

 「クジラ丸さん!今です!空気を!」


 クジラ丸さんの噛まれた悲鳴と同時、俺たちのいる部屋の空気は一気に外へと流れ出した。このままでは外に流される!俺とゼロさんは先に宝箱へと非難し、ゼロさんは箱の隙間から片腕を出して、ルルルの手を握り繋いでいる。


 「……なんだこれ!?泡がボクを……おおおお!?」


 ルルルの作った泡はクジラ丸さんの押し出した空気で膨らみ、その勢いは人間の呼吸で膨らませるよりはるかに絶大。分厚いコーティングを施したように泡はクジラ丸さんの巨体を包む。泡が赤い水を追いやり、その中に残った薄赤い空気の中で、俺たちはクジラ丸さんの尾びれに噛みつく……いや、吸いついている、大きなヒルみたいなものを見た。臓物みたいな見た目で、とっても気持ちが悪い……。


 「……見えたぞ!ボクの一撃をくらええぇぇ!」


 ……。


 「……くらええぇぇぇ!」


 ……?威勢のいいクジラ丸さんの声とは裏腹、彼の肌から露出している砲台からは何も出ない。


 「……」


 ……?


 「……し……しまったあぁぁぁ!弾切れだああぁぁぁ!」

 「ええええぇ?」


 間違いなく勝てた展開、いい流れ。そんな中で、以上のセリフがクジラ丸さんから発せられた。思わず俺も面食らった……。

 

第44話の4へ続く

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