第44話の1『血煙』
《 前回までのおはなし 》
俺の名前は時命照也。恋愛アドベンチャーゲームの主人公なのだが、気づけばバトル漫画風の世界に飛ばされていた。血の海という場所を探るべくして、今はクジラ丸さんに乗って進んでるところ。
「俺、ヤチャを探してきますよ」
「迷わず戻ってこれるのん?」
「一人で歩けるか?」
「おっと、俺の役目ではなかったようですね」
ここで待っているだけというのも気が引けたので人探しに立候補してみたが、ルルルとゼロさんに切実な心配を突き付けられた。そんな俺に代わって、金ぴか仙人が来た道を戻っていったので、きっとヤチャを探しに行ってくれたのだろう。さて、こんな俺に今、出来ることは……。
「……そうだ。ルルル。キメラのツーさんに反応はあるか?」
「……ほら、反応して見せるんよ」
「……まーまー、ちょっとはするよねー。ちょっとっていうとちょっとだよねー。それそれ」
ルルルの腕に装着されているキメラのツーさんが、いつも通りのラフな話し方で告げる。しかしまた、見事に曖昧な答えである。まだ敵が遠いから鈍い反応なのだろうか。そうも思った……が、キメラのツーさんが次に発したセリフで、なんとなくだが考えていた予想にリーチがかかった。
「この前の方がスゴカッタ。タツマキタツマキ!」
「……やっぱり、ジ・ブーンがいて、城があるとすれば、あの水流の中が怪しいよなぁ」
「お兄ちゃん。なんで、そう思ってるのに血の海を探索しようと思ったんよ……」
「だって……入り方が解んないんだもん」
万全な状態のヤチャが入れなかった水流だ。バリアもなく突っ込んだら、今度こそ俺が粉々になる。それくらいならば、レベル上げの気持ちで別のクエストをこなしてみようというものだ。
「姫様、どうぞ。お外へ」
「ありがとうございます……」
点呼の際に名前を呼ばれなかったせいか、ルッカさんの手をとって宝箱から出てきた姫様は声静かである。もう宝箱から出ても大丈夫なのだろうか。ああ……そうか。
「なるほど!ここはクジラ丸さんの体内じゃないので、間違って姫様が消化されてもクジラ丸さんが不老不死にはならないからですね!」
「いえ、この場所には敵がおりません故、安全ですので」
「私を食べれば不老不死になるなんて、誰かが流した嘘です……海では誰も信じておりません……」
俺の予想は全否定されたわけだ。まあ、クジラ丸さんが敵をわざわざ飲み込んでくれでもしなければ、こんな場所までジ・ブーンはやってこなかろう。
「メダカ、飯を食うでごわす」
「コンブもどん」
「食うのはいいけどよー!こぼすんじゃないぞー!」
メダカさんとコンブさんは部屋の隅にある箱を開け、中に入っていた生魚をガツガツと食べ始めた。すかさずクジラ丸さんが注意を呼び掛ける。確かに……頭の上で食べこぼされるのは気持ちも悪かろう。
「……チカイ!チカイチカイヨ!」
「……ん?キメラのツーさん。何かいるんですか?」
「ヤババババババ!チカイチカチカチカ!」
突如、ルルルの腕についているキメラのツーさんが奇声を発し始め、俺が的確に質問を投げるより少し早く、外の景色は見る見る内に赤く変わっていった。これは……まるで血の色だ。ルッカさんが外の様子へ目を凝らしつつ、クジラ丸さんに何が起こっているのか確認している。
「目標地点・血の海へは程遠いようですが、クジラ丸さん。何か探知は可能でしょうか!」
「あぎゃああああぁぁぁ!」
「……!?どうされましたクジラ丸さん!クジラ丸さん!」
クジラ丸さんが悲鳴をあげている!これは……この血の色、もしや!
第44話の2に続く






