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第43話の3『搭乗(積込)』

 しばらくは暗い場所を流されていたのだが、徐々にクジラ丸さんの体内は明るさを増していき、その光は体内に張りついている海藻のようなものから発せられていることに気づく。俺たちを取り囲んでいる壁の色も真っ白で肉っぽさがなく、乗り物に乗っている感覚の方が大きい。


 「……うわ」


 飲み込まれた時に岩を落としてしまい、俺を包んでいる泡ごと体が流されてしまう。すると、ゼロさんが俺の泡の中に入って、流されないよう手を引いてくれた。


 「ありがとうございます……」

 「すまない。こうする他ないのでな」


 俺としては手を繋げて得した気分なのだが、ゼロさんの手の繋ぎ方は控え目で、俺の手首を指の二、三本で引っ張る形である。それでも指の柔らかさは感じ取ることができ、そんな彼女の手からは殺人パンチが飛びだす……というギャップにキュンときていいのかは解りません。


 「あっ!大きなショックがあったのに、珍しくお兄ちゃんが気絶してないんよ!」

 「ああ、俺もビックリしている。この調子で頑張るよ」


 ルルルの言う事は基本的に酷いのだが、本当のことなので反論はない。ルッカさんが点呼をまじえつつメンバーを数え、全員いるのが解ると俺たちはクジラ丸さんの奥へと進んだ。


 「ちゃんとクツ、脱いでから入れよなー!」


 どこからか響く形で、クジラ丸さんの声が聞こえてきた。乗せてもらう上での礼儀として、俺達は脱いだ靴を片手にぶら下げ、柔らかく動いている壁や床の上を進む。よく考えてみれば、自分の体の中に生き物を入れるというのも怖い話である。最初、クジラ丸さんに乗せるのを断られたのも納得できる。


 「こちらの通路はクジラ丸さんの頭頂部へ通じております。こちらへ」


 ルッカさんが案内役として前を歩き、コンブさんとメダカさんは運搬係である。しかし、ルッカさんって執事にしては色々と担当外の事に詳し過ぎる気がする。


 「あの……ルッカさんって、元軍人だったりします?」

 「御明察でございます。つきましては、今回の出撃にて隊長を務めさせていただき……」

 「ダメ!ボクが隊長だぞ!ボクが隊長なんだ!」

 「……艦長を務めさせていただきます」


 一応、ルッカさんが作戦の隊長ではあるのだろうが、クジラ丸さんからダメだしが入ったので艦長に訂正となった……まあ、肩書など大した意味をもたないのは、俺が勇者と呼ばれる理由と同意義である。


 「勇者。ここは足元が高くなっているぞ」

 「ありがとうございます」


 ゼロさんにエスコートされつつも、なんとか上へ上へと登っていく。その道中には部屋のような謎のスペースが幾つもあり、なにか膜が張っていたりはするが、特に器官としては機能していない様子である。乗務員が多い場合、休憩スペースとして使用するのかもしれない。


 とても狭い通路を押し広げながら進むと、その先に明るくて大きな部屋があった。その部屋だけは足元がツルツルとしていて、透明な天井を通して海中の様子がうかがえる。


 「こちらがクジラ丸さんの鼻でございます」

 「どう見てもクジラ丸さんの背中なんですが……」

 「クジラ丸さんの鼻は、背中にございます」


 そんなことをルッカさん尋ねてみて初めて、俺はクジラの背中にある潮吹き穴が鼻であることを知った。それを覆うようにして透明な殻がついており、ここだけは空気の流れが非常に激しい。


 「なお、クジラ丸さんや黄金クジラ族は鼻を覆う殻に酸素を貯め込む機能があり、深海まで潜水することが可能……おや、クジラ丸さん。すでに出発されておりますか?」


 「だって血の海に行くんだろ?もう進んでるぞ!」


 「では、遅ればせ。『血の海捜索大作戦』を開始いたします。お気づきになられたことがございましたら、私までご報告をお願いいたします」


 「ちょっとご報告なんじゃが……」


 「どうされました?」


 すでにクジラ丸さんは海中をグングンと進んでいて、ルッカさんの宣言をもって作戦は開始された。そんな説明の折を見て、ルルルがご報告を差し出している。


 「ムキムキがいないんじゃが、どこに行ったんよ……」


 「……これはいけない!点呼!まず、メダカ殿!」

 「メダカでごわす」


 「コンブ殿!」

 「コンブどん」


 「勇者様」

 「はい」


 「仙人殿」

 (ん)


 「ゼロ殿」

 「はい」


 「精霊様」

 「……いるんよ」


 「……ヤチャ殿」

 「はいはいうひひひあひゃひゃひゃ!」


 「……」


 全員の名前などを呼んでみたところ、上々の返事があってしまった為か、ルッカさんが無言で悩みだしてしまった。ルルルの腕に装備してあるキメラのツーさんを静かにさせた上で、さしでがましいながらも俺は申し上げた……。


 「さっきまでは一緒にいたので、クジラ丸さんの中ではぐれたのは間違いありません。その内、見つかるでしょう」


 「さようでございますか」

 「ルッカさん……」

 「どうされましたか。姫様」


 ひとまず、ヤチャの問題を先送りにしたものの、今度は姫様の弱弱しい声が宝箱からこぼれてくる。


 「私、名前を呼ばれませんでした……」

 「……」

 「私、名前を呼ばれておりません……」

 「……申し訳ございません」



第44話へ続く

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