第43話の1『準備』
《 前回までのおはなし 》
俺の名前は時命照也。恋愛アドベンチャーゲームの主人公なのだが、気づけばバトル漫画風の世界に飛ばされていた。血の海という場所を探るべく、近々クジラ丸さんに乗って出発する予定。
ルッカさんがクジラ丸さんへの乗船許可を伝えに来てくれており、同時に出発予定の報告や乗務員の紹介もしてくれる。
「明日、全ての準備が整い次第、血の海へと出発いたします。姫様の護衛も兼ね、乗務員は私とメダカ殿、コンブ殿が務めさせていただきます」
「メダカでごんす」
「コンブどん」
そう自己紹介した二人は部屋には入らず、ドア越しにルッカさんの後ろから俺たちをのぞいている。どちらも名前からは想像もできない大きな体を持っており、両者ともルッカさんと同じく鋭いヤリを携えている。水中では剣よりもヤリの方が水の抵抗を受けなさそうな為、そこは使い勝手の良さで選ばれているんだろうか。
「出発に際して、必要なものがございましたら、なんなりと。最低限の食料などはクジラ丸さんの中に備蓄がございます」
「一つ、いいだろうか」
「どうされましたか?」
いつもは俺たちの話に頷いているゼロさんが、珍しく意見を差し出した。つまり、何か見過ごせない問題があるのだろうと勘づき、俺やルルルは思わず口を閉じる。
「いや……みんなを急かしたい気持ちはないのだが、なるべく出発は早い方がいいだろう。先程、敵の姿を見つけた」
俺たちがクイズしている際、なにやらゼロさんが無口だとは思っていたのだけど、すでに敵が近くまで来ていたらしい。でも、それなら不意をついて攻撃すればよかったのではないかと考えるが、それに関してもゼロさんは俺に説明を始める。
「白くて丸い……目玉のような敵だ。イカダで海に入った時、同じ敵を見かけた。敵の偵察役だと見て良い。ジ・ブーンが王国へ向かっていると考えれば、ゆっくりはしていられない」
「承知しました。勇者様一行の用意が整ましたら、ホッキ貝館前へお越しください」
そういうと、ルッカさんは数秒だけ俺たちを見回し、特に質問がないことを確認してから「失礼」と部屋を出ていった。このままでは姫様一行に建物の前で待機してもらうことになる懸念から、俺たちも手早く身支度を始める。
「お兄ちゃん、オーブ持ったん?」
「ありがとう。ちゃんと持った。ルルル、キメラのツーさん持った?」
「忘れてたんよ……」
俺とルルルで忘れ物しそうなものベスト1と2について声を掛け合い、紛失しないように心掛けている。ゼロさんに頼めば忘れずに管理してくれそうだが、なんだか俺が適当だという事が露呈するようで頼めないのと、格闘の合間に破損しそうな心配の気持ちで半々である。なお、俺は謎解きアドベンチャーゲームの主人公ではないから、持ち物の管理が苦手だったりもする。
いざ、出発……といきたかったのだが、さすがに汚れたまま仙人を乗せるとクジラ丸さんが怒りそうだから、出発前に体を洗えないか兵隊さんに聞いてみる。そして、泥だらけだった仙人は洗浄室という謎の部屋に案内され、仙人の洗浄が終わるまで俺たちは部屋の前で待機。しかし、なんだろう。洗浄室って。ちょっと覗いてみよう。
(勇者……開けるな。中は……おほほぉ!)
両手に持っている岩でドアを小突いてみようかと思ったところ、仙人からテレパシーで忠告がなされた。
(おっほほぉ!)
(おっほほぉ!)
その後も仙人の悲鳴みたいなものがテレパシーで伝わってきて、それのせいで微妙に落ち着かなかった為、俺は先に廊下を歩いている事にした。建物の出入り口へ向かっている途中、メダカさんとコンブさんが大きな箱を担いで泳いでいるのが見えた。
「メダカでごんす!」
「コンブどん」
「あっ、お疲れ様です……」
二人とも忙しそうだったからアイサツだけ済ませたが、あの箱には何が入っているのか気になる。武器や食料の保管箱にしては封が厳重であり、もっと大事なものが入っている様子である。
「……あ……あ」
ちょっと箱が揺れた節、中から女の子の……もっというと、偉い女の子の声が聞こえた……ああ。そういう事か。
第43話の2に続く






