第7話『宝探し(ちょっと寄り道です)』
《 前回までのあらすじ 》
俺、時命照也は恋愛アドベンチャーゲームの主人公。でも、気づいたらバトル漫画風の世界に飛ばされていたんだ。修行仲間だったらしいヤチャ、ヒロインらしき謎の人物と共にパワーアップの塔という場所に向かっているところ。
「見えてきたぞ!無の境界の向こう岸だ!」
などと俺を乗せてくれている鳥が言っているけれども、俺は飛行の高さに耐え切れず目を閉じているから、会話は他の人に任せる。
「ああ。なんか遠くの空に縦線が入って見えるぞ!」
「あれがパワーアップの塔だ」
そんなヤチャとマントの人のセリフから察するところ、パワーアップの塔は空を割って見えるほどの細くて高い塔であるらしい。そこを登らないといけないとなれば、つまり高い所である。高い所のことを考えただけで怖くて目まいがしてきた……。
それはそうと、俺の後ろに乗っているマントの人から、なんだか花のような良い香りがする。だが、それをかき消すほど、俺の前に乗っているヤチャが臭うのは非常に悔やまれる。いい匂いと悪い臭いがあわさって、それはもう目まいがしてきた……。
「俺ができるのはここまでだ。魔王軍の皆には内緒だぞ」
「ありがとう。達者で暮らせよ」
鳥から降りて半日ぶりに土を踏み、ようやく俺も気が楽になった。鳥へと述べた感謝の言葉とは裏腹、今にも吐きそうな顔で俺は飛び去る鳥を見送った。
崖の方から陸地へ視線を移せば、そこにはなだらかな丘がある。産毛のような芝が生えそろっていて、ピクニックをするのならば最適だ。その向こうに塔らしきものが薄く見えるが、夕日の輝きに阻まれていて遠いのか近いのかは判別できない。ただ、その塔の高さが雲まで達していることは夕日を見るより明らかであった。
「……う~ん。塔には食堂とか宿とかあるんだろうか」
「どうだろう。テルヤ、腹減ったのか?」
夜までに塔へ到着したとして、腹が減っては塔を登れないし、眠れる場所があるかも定かでない。いや……そもそも。
「ヤチャ。お金とかあるの?」
「あるぞ。少しなら持ってる」
そういうと、ヤチャは水色とピンクのコインをポケットから取り出してみせた。傍目に見ると、オモチャのお金に見えるが……使えるのか?
「これで、なにが買えるん?」
「みかん3個」
ダメだ。塔へ行くにしろなにしろ、まずは所持金を増やさないと。あまりみすぼらしい生活をしていると、マントの彼女にも見放されそうだ……。
「ヤチャ。まずは、金策を練ろう。どうしたら、お金が手に入るんだ?」
「魔王軍のやつらを倒して奪う!」
「……他には?」
「闘技大会に出て優勝!」
「……草とか刈ってたら出てきたりしないかな。お金」
「テルヤは、お金をなんだと思ってるんだ……」
思った以上にバトル主義な世界だな……いや、この世界感でバトル主義じゃない訳もない。あの鳥を倒して、持ち金をいただいておくのが最適解だっただろうか。まあ、今さら嘆いたところで仕方もない。俺は地図を広げて、最寄りの町をマントの人に尋ねた。
「ここから近いところに町はないかな?」
すると、マントの人は地図にある丸い印を無言で指さした。ヤチャには口をきいてくれるけど、俺が話しかけると何も言ってくれない……なにかしら嫌われてるんだろうか。
「よし。ひとまず、ここに向かおう!それから一仕事して、宿で寝てから塔だ!」
町は無の境界に沿って歩いた先にあるらしく、地図の縮尺から察するに1時間くらい歩いた場所と伺える。とはいえ、道のりは長い。建物の灯りが見えてきた頃には、すでに日が沈んでいた。
「……ん?」
無の境界……その崖際に男の人が2人いて、何か探すようにして崖下を覗いている。何か下に落としたのだろうか。俺が声をかけてみようとしたところ、急に二人の内の一人が崖から飛び降りた!
「ちょ……なにしてんの!?」
「あ……旅の人?村ならアッチだよ」
「え……あっ……どうも」
村の方向を教えていただきつつも、飛び降りた人がつけている命綱を見てしまい、なんだかおせっかいな自分に恥ずかしくなった。1分くらいして飛び降りた人が回収されると、その手には光る宝石が握られていた。
その日の仕事は以上で終わったらしく、俺たちは仕事をしていた2人組と共に村へと向かった。村はオトナリの村よりも小さく、民家は5件ほどしかない。それでも民宿や食堂は機能していると見られ、俺たちは2人組の案内で宿へと入った。
「ヤチャ……念のために確認なんだが、さっき見せてくれた金銭で泊まれるか?」
「……物置部屋が一つ借りられる!」
「すみません。何か仕事はありませんか?」
マントの人はお金を持っている様子だったが、せめて夕飯くらいは御馳走したい。パーフェクトの実しか食べていない俺も一端の食事にありつきたい訳で、先程の2人組の男の人へ仕事がないかと問いかけた。すると、あちらは命綱やロープの巻取り金具が入った袋を持ち上げた。いやな予感をおぼえつつも、宿の外に出て二人の話を聞いてみる。
「この村で、仕事と言ったらコレな。流宝探し」
「流宝ですか?」
「無の境界に沿った崖際には地層があってな。一般的な地中に比べて流動が激しい。そこに流れる宝石を採るため、これで飛び降りて探すのな」
「う~ん……素人に見つけられますかね。しかも、夜ですし」
「宝石は光るから、あとは勇気な!」
なるほど。大方の仕事内容は理解した。大きな宝石を見つけられれば一攫千金。あとは勇気……高い所から飛び降りられるかは解らないが、勇気は後からついてくるはず。考えるより早く、俺は仕事に挑戦してみることにした。
「マントの人は、ここで待っていてください。今夜は食堂で、一番いいものを食べよう!」
「いや……私の事はいいから」
「助けてもらったし、恩も返したいんだ。なあ、ヤチャ!」
「そうだよな!やってみなくっちゃ!」
「というわけで、期待していてください。行くぞ!」
仕事道具を拝借し、いざ出発。村の人たちも同行してくれたから、村の門を出た場所で道具の使い方についてレクチャーを受けた。一人が紐をつけて飛び降りる役、一人が引き上げる役である。さて、すると問題は俺とヤチャ、どちらが飛び降りるかだ。
「ヤチャは上半身裸だし、飛び降りたら寒いか……ここは俺が」
「テルヤは途中で気絶するかもしれないだろ!ボクが」
と、普通なら嫌がるであろう飛び降りる方をどちらも率先して引き受けようとする気質である。本当ならば高い場所からのダイブはやりたくない気持ちNO1なのだが……それがバレると恥ずかしいから虚勢をはっているのだ。
村の人いわく、体の軽いヤチャは風に流されるとの事から、やはり俺が飛び降りる方をやる事となった。バンジージャンプの準備さながら伸縮性のある紐を3つ体に装着し、金具も念入りに仕掛ける。あとは勇気……。
「ヤチャ……頼む。背中を押してくれ」
「おうっ!」
「うわ……ああああああぁぁぁ!」
まさか二つ返事で押されるとは思わなかったが、ある意味では好都合であった。俺は舌を噛まないよう歯を食いしばったまま、頭を下にして無の境界へと落ちていく。耳を切る風音、強い重力を感じて吐きそうになったが、吐くべき物が体に入っていなかったのは幸いであった。
紐の限界まで落下し続けたのち、ロープの揺れがおさまるのを待ってから、一息ついて体勢を整えつつ地層の方を向く。なるほど。今の時間は月が良い角度らしく、あちらこちらで小粒がキラキラと目立っている。その中でも割と大きめの光を見つけると、俺はロープを手繰って上りつつ、右手に持っていたシャベルを突き付けた。
「おっと……危ない危ない」
危うく宝石を落としそうになるも、なんとか慌てて拾い上げゲット。それを上にいる人たちへと掲げて見せると、空気の擦れる音に交じって村の人の声が聞こえた。
「それで小ライスくらいは食えるなー!」
「もう少し探してみますー!」
さっき手に入れた宝石は人差し指と親指でつまめる程度の大きさだったが、これで茶碗飯くらいにはなるらしい。もっと大きな宝はないかと周りを見渡してみると、少し横へズレた場所で、とてつもなく大きな石が光っているのを発見した。
それに指が届かないものかと崖に足をかけるが、それを待たずして村人たちはロープを引っ張り始めた。ちょっと待ってもらえないかと訴えるつもりで見上げるも、なにやら様子がおかしい。その時、どこかから土の削れる音が聞こえ、次の瞬間には鋭い爪らしきものが崖から突き出した!
「うわっと!」
危うく首元をかすめたが、なんとか爪の切っ先をかわした!数秒後、伸びた爪がググっと引っ込むと、今度はモグラのような顔が覗き出た。
「ぐしし!おっきな流宝、渡さないぐし!」
「くっ、敵か!?」
「おいっ!地層の上流を譲る代わり、村には来ない約束だなー!」
「ここは村の外ぐし!村には入っていないぐしし!」
どうも、村の人の言葉から察するに、大きな宝石が多くある場所は魔王軍に明け渡していた様子だ。大きな宝石を追いかけて、手下が村の近くまで……などと冷静に思考を巡らせている内、二回目の爪攻撃が崖から突きだしてきた!なんとか回避したが、ロープの一本が切られてしまった!
命綱は残り2本。なんとかしないと……俺は冷や汗を崖下へと落としながら、必死に生き延びる術を探した。
「落ちろぐし!」
「くっ……!」
また一本、綱が切られた!もう後がない!よく考えろ……そういや、どうして俺は爪をかわせているのか。落ち着いて、耳を澄ませた。
そうか!音か!やつが土の中を進む、その音でザクザクと聞こえる。逆に言えば、やつも俺も居場所は音で探しているんじゃないだろうか?命綱が切られたって事は……上に綱の切れっ端が2本ある……試してみよう!行くぞ!
「ヤチャー!こっちきてくれー!」
「お……おお!」
まずは大声だ。土を掘る音が聞こえてくる。俺は、その場で待機。爪が来る!
「当たれぐし!」
「そうはいくかよ!ヤチャー!今だー!飛び降りろー!」
「……わかった!おおおー!」
綱をスイングさせ、俺は爪をかわす!長く突き出した爪の上へ、ヤチャが勢いよく落ちてくる!ヤチャの体重と重力に踏みつけられ、テコの原理で地中よりモグラが飛び出した!
「あっ……ああああああああぁ!」
野太い声で絶叫しながら、モグラはパラシュートを開いて闇の中へと降りていった。いくらモグラとはいえ、これだけの深い谷に落ちたら戻ってくるのに苦労するだろう。落下経験のある俺が言うのだから間違いはない。
一段落したところで、俺は手早く大きな宝石を取り出す。それは人の頭ほどもある大きなもので、その輝きも流れる水のごとくであった。
戦利品を携え、上にいる人たちに綱を引き上げてもらう。ヤチャの崖上に戻る姿が見え、完全に緊張の糸が切れていた……そこで、俺の真上に何かが現れた。
「よくも相棒を!落ちるくじ!」
「えっ……うわああああ!」
もう一人、モグラに仲間がいた。そいつの爪が、俺の命綱を断ち切った。落ちる!前に死んだ時の衝撃が頭によぎり、もう何も頭が働かない。俺は強く目をつむった。
「……?」
「おい、勇者!目を開けろ!」
なんだろう……なにか、柔らかいものが俺の体を受け止めている。瞳を開く。月の灯りを受け、見覚えのある黒い翼が輝いた。
「俺を倒したやつが、あんな小物に負けるのは許さねぇぜ」
「カラス!た……助かった。あんた、夜目が聞くの?」
「ニワトリと一緒にするな……」
俺を背に乗せた大きなカラスは旋回しつつ、地中にいるモグラを探している。そいつが顔を出すと、互いに睨みあわせた。
「カラスのグロウ!裏切りやがったな!この村のやつらもまとめて、魔王様に言いつけて締め上げてやるくじ!」
「虎の威を借るモグラ野郎が!勇者、あれを放っておくのか?」
「そうは、いかない……よな」
「よっしゃ!」
グロウと呼ばれたカラスは俺を乗せたまま、足の爪で勢いよく土をえぐる。すると、敵のモグラも一瞬だけ影を見せるが、すぐに土の中へと入り込んでしまう。にっちもさっちもいかず、グロウが苦い言葉を吐く。
「あの爪さえなけりゃ……ちまちま逃げやがって!」
言われてみれば、あいつは逃げようとしてるんだよな。なのに、なぜ地中深くを進んで逃げないんだろう。例えば、そちらへ進めないからか、はたまた掘れないからか。
「あいつ、深い場所は掘り進めないのか?」
「崩れた土砂に閉じ込められないよう、脱出しやすい場所を進むらしい」
「……そうか。じゃあ、やつの居場所を探してくれ。あと、これ持っておいてくれ」
「よし!」
音を頼りに崖の側面を飛び、どこにいるのか索敵。掘削音の大きな場所を発見すると、グロウは敵の動きを追随する形で飛び始めた。俺も敵の位置を耳で把握すると、敵の姿があるであろう場所、その手前を指さし指示を出した。
「そこだ!頼む!」
「うらあ!」
グロウが足に持っていた大きい宝石を土へと突っ込む。ズッゴッという生々しい響きと、痛みを訴えるような悲鳴が聞こえてきた。
「ああああああぁ!」
「行き止まりだぜ!うりゃあ!」
グロウの足が崖を打ち、石土に交じってモグラが無の境界へと飛び出した。モグラの右手についていた爪は突き指によって割れており、もう土を掘ることはできないだろう。無の境界へと落下しながらも、敵はなんとかパラシュートを開き、遥かな闇の中へと消えていく。それと同じく、大きな宝石が光の軌跡を残しながら落ちていってしまったのも、俺はハッキリと確認した……。
「あああ……」
「上に戻るぜ!勇者!」
逃した魚ならぬ落とした宝石は大きかったが、もう今から取り戻しに行く事も叶わない。月の角度が変わってしまったからか、もう崖には宝石の輝きも見当たらず、宝石探しは諦める他なかった……。
「勇者!さっきは宝石を紛失してすまなかったな。はした金だが、受け取れ!」
「……これで何が買えるの?」
「みかん2個!」
「……ありがとう」
ヤチャが持っていたのと大差ないお金を置いて、グロウはヒラヒラと飛び去って行った。小ライスくらいの価値がある宝石1つを手土産にして、俺たちもトボトボと村へ戻る。
「……」
「……あ……その、ごめん。ダメだった」
村の門の近くではマントの人が待ってくれていて、それはそれで残念ここに極まった。ヤチャの所持金、グロウのお金、小さい宝石を換金したお金、あわせて宿部屋を二つ借りるだけはあったが、食費までは賄えないな……。
「腹減ったなー。テルヤ、草でも採ってくるか!」
「まあまあ、旅の衆。粥ぐらいならゴチソウするとも」
ヤチャのあまりの言い草に村の人は情けをくれたが、ただ恵んでもらうのも悲しい。
「こうなったら、学生服を売ってでも……」
「そこまでしなくても……薄着だと結構、寒いぜ?」
なにか質にいれられるものがないかとポケットを探るも、野口さんの描かれたシワシワの紙しか出てこない。これが使えたら……などと思いながら見つめていると、それを指さしヤチャが言った。
「テルヤ、お金もってんじゃん!」
「……ええ?これ、使えるの?」
「当たり前だろう?よかったー!これがあれば、みんな腹いっぱいだ!」
どうやら、結構な額のお金であるらしい。しかし、不思議だ。一応、この紙に描いてあるオジサンが誰なのか、何気なくヤチャに質問してみた。
「ヤチャ。この人、知ってるか?」
「もちろん!大昔に竜を倒して回った、最強のバーサーカーだよ!」
どう考えても違う……が、結果よければ、よしとしよう。ヤチャの返答にツッコミをいれつつも、俺はマントの人を食事に誘うことができた。やはりマントの人は仮面をつけていて顔が見えないけど、どことなく喜んでくれている気は……する。
第8話に続く