第42話の1『クジラ』
《 前回までのおはなし 》
俺の名前は時命照也。恋愛アドベンチャーゲームの主人公なのだが、気づけばバトル漫画風の世界に飛ばされていた。ジ・ブーンの居場所を探すべく血の海という場所へ行く事となったのだが、その為に使う予定だった乗り物・クジラ丸が暴れ出した……らしい。
(行く?外)
「ですね。ここから避難する必要があるかもしれません。みんなを起こして外へ出ましょう」
俺はヤチャの部屋を岩で叩いてノックし、仙人はゼロさん達がいる部屋へ向かった。なお、テレパシーの疲労を軽減するためか、仙人がセリフを東北の方言ばりに短くしてきたのは地味に気になる。
「はい……」
「ヤチャ!なにかが暴れ出したらしい!外……あれ?」
部屋から出てきたヤチャの姿は、やはり血気のない青年のそれなのだが……今になって気づいたことがある。
「ヤチャ……泡に包まれてないのに普通に喋れるの?前まで、喋れなかったよな」
「……はい。水に……慣れまし……た」
この適応能力の高さ、俺より主人公適正バツグンである。主人公として負けてはいられないので、せめて俺はヤチャの手を引いて走り出したが……男の手を引いて走っても、やはりヒーローらしさは出ない。
「勇者。この揺れ、何があった」
建物の出口に向かって走る俺たちに追いつく形で、ゼロさんとルルルと仙人が合流。なぜかゼロさんの服がはだけていて、一方でルルルの表情は悶々としている……。
「……部屋で何かしてました?」
「……ああ。今回、初めて女の子と2人部屋で休む機会があったわけだが、仲を深めるために何をしたらよいか考えていた。ベッドで取っ組み合いをしたぞ」
「ほほう。そうでしたか」
ゼロさんは俺と出会った頃、密偵……もしくは忍者のような仕事をしていた。だから、同性と宿に泊まることなどもなかったのだろう。で、そういうシチュエーションに気分も高揚したのだろう。その中で慣れないながらも考えたのだろうが、それ故にしても何故ベッドでのレスリングを選んでしまったのかは謎である。
「うわああああ!」
外から多くの悲鳴が聞こえる。真っ先にホッキ貝館を出た俺だったが、濁った土が舞い上がり視界を奪われた。近くに何か落ちてきたらしいけど、俺は泡に包まれているから幸い目に土を入れずに済んだ。
土ぼこりの中に慌てふためく人影が幾つも見え、それが王国の兵隊さんたちだと解るくらい鮮明になってくると、今度は上の方に巨大な何かが泳いでいるのを発見した。あれは……くじらだ!金色の!
「あれが、クジラ丸だタラコ!勇者!クジラ丸を説得して欲しいタラコ!」
「えええ……なぜ俺が」
「ドルフィンに乗り込むタラコ!モズク、ちょっとは運転できるタラコ!」
ここへ来る際にルッカさんが運転していた乗り物に搭乗し、俺たちは街の上を泳ぎ回っているクジラ丸の近くへ。すると、クジラ丸は大きく口を開いて、大きなプールの排水さながら、あらゆるものを吸い込み始めた。
「気をつけるタラコ!吸い込まれると撃ち出されるタラコ!」
「それにしても、モズクさんの運転が荒すぎて……」
「ドライビングテクニックだタラコ!くんっ!」
「ピョ……?」
この荒い運転を体験してしまうと、ルッカさんの運転は非常に丁寧だったのだと実感する。と……モズクさんのドライビングテクニックが凄すぎて、そのUターンした反動で仙人が乗り物から振り落とされた。仙人は一番後ろに乗っていた為、彼が落とされたことに皆も気づくのが遅れてしまい、誰にも手を差し伸べられずに仙人はクジラ丸の口へと吸い込まれていく。
せめてもの抵抗と、俺は手を伸ばしつつ仙人に向けて叫ぶだけ叫んだ。
「ああ……センニーン!」
第42話の2へ続く






