第40話の3『説得』
「それでだ。ヤチャの記憶を戻す方法について考えたんだが、前に食らったショックと同じ強さの衝撃を受ければ、ワンチャンあると思うんだ。もしくは、以前に体験したことを再体験するとか」
「私は……誰に殴られたのです……か?」
「それは難しい話になるんだけど……俺たちの仲間のゼロさんが敵を殴って、その敵にヤチャが殴られたと見て大差ないと思うんだ」
「……はい」
この件についてはゼロさんにもヤチャにも非がないもので、俺が言い訳する理由も何もないのだが……ひとまず、敵が悪い感じにしておいた。したら、ヤチャも特に怪しむ様子はなく、むしろ壁から外れて下に落ちているレリーフの方が気になる模様である。
「……先程の人はいいの……ですか」
「……やっぱり気になる?」
ちょっと女の子離れしようと数分前に決意した手前、壁から顔だけ出して戻っていったマリナ姫を静観したのだが……やはり放っておくのは主人公としてよろしくない。俺は落ちたレリーフを近くの台へと乗せ、マリナ姫が出てきた壁の穴へと顔を突っ込んでみる。手足の出張った俺の体では通り抜けることはできないが、その隠し通路が部屋の裏をつたって続いていることは解った。
「となりで何か……聞こえ……ます」
ヤチャが部屋の壁に耳をつけ、隣室から何か聞こえると教えてくれる。俺は身を包んでいる泡と水のゴボゴボという音で何も聞こえないが、相変わらず生身のヤチャは水の中でも自由である。
「勇者の話をしてい……ます」
「気になるな……やむをえまい。突入しよう」
隣……というと、ゼロさんかルルルがいる部屋である。俺の話をしていると噂でもある為、ちょっとオジャマしてみる次第。ヤチャに隣室のドアをノックしてもらうと、扉を引いてゼロさんが顔を出した。
「……ああ、いいところに来た。今、勇者の話をしていた」
「もしや、マリナ姫が来てます?」
「よく解ったな。超能力か?」
「いえ、つい2分ばかしの記憶力です……さっきヤチャの部屋にも来たので」
ゼロさんの部屋にはルルルも一緒にいて、あと……奥の方の壁穴に上半身を突っ込んでいる魚が見えた。このままでは姫が逃げ帰ってしまいかねないもので、俺とヤチャは彼女に近づかないよう壁に背をつけて扉の横に立った。
「俺たち、ここから動きませんから……お話の続きをどうぞ」
「まあ……そうでなくても、お兄ちゃんはザコっぱだから、きっと姫様よりも弱いんよ。怖がる必要はゼロじゃ」
ルルルが微妙なフォローを入れてくれているが、割と事実なので俺は黙って頷くほかない。すると、壁の隠し通路にいた姫も怖々と戻ってきた。ヤチャが非戦闘モードなのもあって恐怖が薄まったのか、姫はペタリとベッド貝の上に座ってゼロさんに告げる。
「勇者様は……血の海へ行ってしまうでしょう。し……死んでしまいます。どうか、お止め下さい」
「大丈夫だ。勇者は如何なる困難にも何かしらの力で上手い事、対応してくれる。心配ない」
「でも、お兄様……王子様は血の海に行き、ギザギザさんも……私を気遣って国を去りました。もう、誰も犠牲になってはいけません。私は、もう……」
以上の姫様の話をもって、『バケモノを深追いしたギザギザさんを助けて王子様が犠牲になり、王族の方々に負い目を感じてギザギザさんは国を去った』という一連の流れが理解できた。そこで、姫様は俺たちに二の舞になってほしくないのだろう。その気持ちを察してか、ルルルが俺に判断を投げる。
「血の海に四天王が城が隠しているかは解らないんよ。後回しにして、他の場所を探すのも手じゃ。まあ、あたちは、どっちでもいいんよ」
それも一理ある。ジ・ブーンを倒せば結果として国の脅威は一先ず去る訳で、率先して血の海にいる謎のバケモノを探る必要はないのだ。城を隠してありそうな怪しい場所だって、思い出せば何処かあったはず。ここは普段通り、ぼやかしたセリフで逃げ道を作っておこう。
「心配するなって。俺が血の海のバケモノも、ギザギザさんもなんとかしてみせるさ」
……おや?。
「……んん?」
なんだろう。俺の声で、物凄く主人公らしいセリフが聞こえたぞ。よほど予想外だったのか、ルルルも俺の方を見てポカンとしている。
「お兄ちゃん……正気か?」
ひどい……が、もしや正気ではないかもしれない。そう思いながらも俺は、まるで自信満々に笑っていた。
第41話へ続く






