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第40話の2『最強』

 王様のいる部屋を出た廊下には大臣っぽい人やら、気難しい顔をした人やらが何人も待機していて、『これから会議をするぞ』という雰囲気が満々である。客室を用意してくれているらしく、俺たちはルッカさんの案内を受けて廊下を歩き出した。


 そうだ。ルッカさんなら国の事情にも詳しそうだし、さっき聞けなかったことを聞いてみるのもいいかもしれない。とはいえ、エビゾーさんの様子を見た限り、非常にデリケートな話題であろう。俺は控え目に控え目を重ねて質問する。


 「先程、血の海について尋ねた際、皆さんの様子が少し変わった気がするのですが……えっと、そんなに怖い場所なんですか?」


 「……血の海には巨大な竜がおります。それは海の生き物を見境なく取り込み、徐々に海の色を紅に変えていきました。これを私は『血の海の謎のバケモノ事件』と名付けました」


 「そんな大変なことが……」


 「以前、王国の周辺にて化け物が確認されたとの報告があり、王国の自衛軍も警戒にあたりました。その一員として動いていたのが、あなたがたもご存知のエビゾー殿、ギザギザであります。あ……これが、『バケモノ王国接近事件』でございます」


 ギザギザさんの名前が出てきたことに驚くと同時、事件の一つ一つに名前がついていて、そこにルッカさんの生真面目さを感じる。この様子であれば、昨日のジ・ブーン襲来にも名前がついているに違いない。恐らく、『ジ・ブーン急に登場事件』とかだと予想する。


 「それは大変でしたね……先日、ジ・ブーンが砦に来た事件も、名前があるんでしょうね」

 「……いえ」


 なかった……。


 「せっかくなので、『バケモノ王国接近事件』について、聞いてもよろしいですか……?」


 「……はい。姫様には兄上である王子様がおりまして、シエル様とおっしゃいます。王子様も軍の士気を高める目的から任務同行されており、バケモノを深追いしたギザギザを止めようと……ああ。こちらが、来客用の寝室でございます。ご自由にお使いください」


 扉が壁に幾つも並んでいる場所までくると、ルッカさんは何気なしに話を切り上げてしまった。いつも険しい顔つきのルッカさんが、『これ以上は勘弁』とばかり苦笑いしているため、俺も先の展開を聞くには至らなかった。


 一つ頭を下げてルッカさんが去っていった後になり、俺たちは客室が4つしかないことに気づいた。いつもならば俺とヤチャが同じ部屋でいいのだけど、ヤチャの容体が大事なので俺と仙人が同室となった……。


 部屋の中には大きな貝殻が3つほど並んでいて、それは俺の体がキレイに収まるほどの大きさである。さてはと思い、それを開いてみる。やはり、身の入っていない空の殻である。


 「仙人!貝のベッドですよ!」

 「ヒョッホッ!」


 俺は体を包んでいる泡ごと貝殻の中へ身を投じ、そっとフタを閉めてみる。すると、自動的に中に置いてあった真珠が光り出し、とても寝心地のよい暗がりを作り出してくれる。いや、ダメだ!ベッドで寝たら次の日になるのはアドベンチャーゲームお決まりである。まだ早い。俺は眠気を振り切り、重たい貝殻を開いた。


 「……仙人。あれ……仙人?」


 仙人がいない。試しに隣の貝殻を開いてみると、その中に仙人がいた。彼は短くテレパシーを飛ばし、こと切れるように意識を失った。


 (勇者よ……召喚は超……疲れるのだ。あまり使いたくない……)

 「やや、すみません……なんか、気軽に頼んじゃって」


 そういや以前、アガンとウガンって敵が四天王のワルダーを召喚しようとして、最期の力をふりしぼり消滅した記憶。ルルル自体の魔力は四天王並みに強くはなさそうだし、体も小さいから仙人でも召喚できるのだろうが、あまり無理をさせると仙人が二度と起きなくなりそうだから今後は気をつけたい……。 


 疲れきった仙人には休んでもらうとして、俺はヤチャの様子を見に行ってみるとする。さっき別れた時、ヤチャは隣の部屋に入ったはず。削った岩で作られた厚い扉をノックし、ヤチャの細い声が 「……はい」と聞こえてきた後、持っている岩も使って体全体で扉を押し開けた。


 「ヤチャ……おっと、着替え中か。すまない」

 「……はい」


 いやはや、男や幼子の裸には鉢合わせするのだが、かわいい女の子の着替えシーンには出くわさない。多分、がっつき過ぎているがよくないのだ。少し、女の子への注意をそらしてみるのもいいかもしれない。それはともかく、俺はヤチャに旅立ってからのことを細かに説明した。


 「俺たちは魔王を倒すため、魔王四天王というのを探しているんだ実は」

 「……はい。最強……です」

 「そして近々、2人目の四天王と戦うかもしれない」

 「……はい。最強……です」


 ヤチャは念押しに最強であることを主張しているが、その声には全くと言っていいほど覇気がなく、音飛びレコードの如く最強を繰り返すばかり。だが、概ね自分が何者かは理解してくれたと見て俺は安心している。すると、唐突に部屋の壁にあったレリーフが外れ、重みで下へと落っこちた。


 「……?」

 「……ごご……ごめんあそばせ。失礼……いたしましたわ」

 「……いえいえ、お気になさらず」


 レリーフのあった場所から、見た事のある人魚姫が顔を出し、俺に一礼して壁の奥へと戻っていった。


第40話の3に続くぞ

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