第40話の1『どうする?』
《 前回までのおはなし 》
俺の名前は時命照也。恋愛アドベンチャーゲームの主人公なのだが、気づけばバトル漫画風の世界に飛ばされていた。海の中にある王国へと到着し、幸いにも仲間のヤチャにも再会できたが、そのヤチャは変わり果てた姿となっていた……。
「ヤチャ……なの?」
「……はい」
俺の知っているヤチャといえば、長い金髪を逆立てて歩いたり飛んだりする、常に白目をむいている筋肉もりもりのマッチョマンなのだが……今のヤチャは気迫が消えて筋肉が細くなった礼儀正しい青年である。しかも、筋肉マッチョになる前のヤチャは更に、こんなじゃなかったから戻った訳でもないという……。
王様の御前で雑談をするのも失礼なので手みじかに済ませたいが、これだけはヤチャに聞いておかないといけない。
「……なんで、そんなふうになってんの?」
「……それは……はい。憶えていま……せん。私が……誰なのかも解りま……せん」
「おぼえてないの?俺たちのことは?」
「……はい。自分の名前と……私が最強だということ……しか覚えていま……せん」
よくある記憶喪失というやつか。だが、最強だった事だけは変に憶えているあたり、根底としての意識は変わっていないとみられる。記憶がなくなった理由……ゼロさんが敵越しに殴った以上の理由があるのだろうか。その内、なにかの拍子に記憶も戻るのだろうが……というか、それに期待する他ない……。
「ヤチャについては心配だが……勇者、これから何をしたらいい」
ヤチャの記憶喪失についても含めて、改めてゼロさんに何をしたらいいかと尋ねられる。今現在、歯のない仙人と、記憶のないヤチャと、不甲斐ない俺がいて、主力は女子メンバーである。その上、敵は何を考えて行動しているのかも解らない。殴り込みにいくには良い頃合いではないが……そうだ。
「ヤチャが記憶を取り戻す手段は正直、荒治療くらいしか思いつかないが……ひとまず、ジ・ブーンがキャッスルを奪っていったと想定して、やつのいるところキャッスルあり。手始めに城を探してみるのがイージーかと」
「なるほど。それだけ大きいものならば、あっという間に見つかるな」
「逆にいえば、それだけ大きいものを、いまだに影も形も見ていないのが難だと思うんよ……」
ルルルに痛いところをつかれた……ただ、それだけ大きいものは、それなりに広い所へしか置けない。幸い、海に詳しい人たちならば、目の前に何人もいる。
「この辺りで、物を隠せそうな凄く広い場所……知りませんか?」
「この一帯の海は深いぞえ。だが、深海に隠したとしても、城を全て隠すには至らないぞえ」
「……あなた。よくは知らないのだけれど、血の海という場所があるのよね?そちらなら隠せるのではないかしら?」
触覚をピンピンさせながら考えている王様に対し、女王様は血の海という場所に隠す案を提示している。どんな場所なんだろう……。
「どういう場所なんですか?その物騒な名前の海は……」
「おお、幾分か前に出現した、海水に赤い靄のかかった区域ぞえ。化け物を見たという噂があり、その……国民には立ち入りを禁止しておるぞえ」
「……化け物め。王様!今、このエビゾーに討伐の命を!すぐに討ちとって参りますぞ!」
血の海という単語が出た途端、王様やエビゾーさんの表情が曇ったり赤くなったりしており、このままいくと二人とも怒りで茹で上がるのではないかと気が気じゃない。ここらで一旦、俺は無理やり話を切り上げた。
「……俺たちには魔物を感知できる仲間がいます。血の海という場所に近づいて聞いてみれば、戦うべきか判別がつくかと。ルルル、キメラのツーさん、まだ持ってるよね?」
「失くしてないんよ……ただ、寝てる」
ルルルの腕には腕時計のような形のものが装着されていて、それがキメラのツーさんである。彼は海水に浸かっていても無事な様子だが、つむったままの目と、寝返りのような動きが見て取れるため、確かに寝ていると思われる。
「う~ん……では、王国側にて対応を検討するぞえ。しばし、解散ぞえ」
第40話の2へ続く






