第6話『再戦(今度は負けられない……!)』
《 前回までのあらすじ 》
俺、時命照也は恋愛アドベンチャーゲームの主人公。でも、気づいたらバトル漫画風の世界に飛ばされていたんだ。そして、あっけなく第5話にして死んだ。
い……いっ……いってええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!
『勇者テルヤは第三の力、コンテニューをおぼえた!』
いてえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!
『コンテニュー・・・残り1回』
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁ!あっ!#‘$**%+#”{$**#*$*#!
『1.使用する 2.使用しない』
ああああああああ*+$*#{”*#”””#!”$*#*$#$”}}$!‘=!!!!
『2.使用する!』
うあああ!あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
「なんだ、テルヤ。怖いのかあ?」
「……え?」
気がつくと、俺は吊り橋の前にいた。ヤチャが何か言っている。もちろん、マントの人も近くにいる。さっきのは夢だったのか。などと思った矢先、頭の後ろがズキズキと痛んだ。
頭を触ってみてもケガはないし、どこからも血は出ていない。そういや、さっき何か、コンテニューとかなんとか聞こえた気がする。なるほど、読めたぞ。死ぬ直前ギリギリになって、俺は死ぬ少し前の状態へと戻れる能力に目覚めたんだと思う。
ところで、残り何回……とか言ってた気がするが、そこはよく聞こえなかった。たぶん、もう1回か2くらい生き返ることができるのだと予想できる。かといって、何度も死にたくはないものだ。
「テルヤ、まさか……高い所が無理なのかあ?」
「そ……そんな事……」
……試しに崖の下を覗いてみる。頭が痛む。体中から汗が滲みだす。急に意識が遠のいた。
「お……おいっ!危ないぞ!」
ヤチャが俺の服の背中を引っ張り、俺は手をつくことも出来ずバタリと背中から倒れ込んだ。体の震えが止まらない。ヤチャが引っ張ってくれなかったら、確実に二度目の死が待っていたに違いない。
「高い所を歩かせると、テルヤが可哀そうだなぁ。なあ、マントの人。ここ以外に向こうへ行ける方法ってないのかあ?」
死ぬ前に俺が尋ねていたことを今度はヤチャが口にし、あの時と同じくマントの彼女も首を横に振る。俺は持っていた地図を見つめ、別の案を取り出した。だが、それにヤチャが回答をくれる。
「……このまま海まで出れば、船で穴の横を通れるとかは?」
「そりゃあ無理だと思うぞ。だって、海も穴になってるらしいし」
「そんな……それじゃ、ここは隔離された世界じゃないか」
そう言ってみて、だから今まで魔王軍の手が及ばなかったのかと、一人で合点がいった。とにかく、ここを渡るしか方法はないのだ。両方のほほを同時にパシッと叩き、俺は目を細くしながらも橋へと踏み出した。
地面へ叩きつけられた痛み、命が途絶える際の絶望感が思い起こされる。今にも気絶しそうな精神状態だが、恐れる体に鞭打って足を引きずり吊り橋へと臨んだ。
そもそも、なぜコンテニューできるのが死んだあとなのか。死ぬ直前じゃダメなんだろうか。悶々としつつも、カラスが現れるポイントまで進んだ。今度は出てくるな……出てくるな……と願掛けするが、やはり巨大カラスは颯爽と登場した。
「橋をおとしてやる!お前たちは一貫の終わりだ!」
「なんだって!?テルヤ、大変だ!」
「させるかよ!」
咄嗟に木の枝を握ろうとするが、そういや今回は持ってきていないことに気づく。そのタイミングで世界は時間を停止させ、以前と似たような選択肢の群が現れた。
『1.ヤチャを投げる 2.走る 3.敵に飛びつく 4.マントの人に魔法を頼む』
なにかが足りない。そうか!『枝を投げる』がないのか!じゃあ、この場の攻略に枝は必要なかったんだ。つまり、俺は自衛心を強く持つあまり、下手に選択肢を広げてしまったのだろう。とほほ……。
まあ、気をとりなおして……なにがなんでも、今回は生き延びる!たしか、マントの人が魔法を使ったら、燃えた鳥が橋に乗りかかってきたんだ。となれば、この選択はなしだ。
残るは『ヤチャを投げる』『走る』『敵に飛びつく』だが……何かヒントはないだろうか。すると、俺はオトナリの村での戦いを思い出した。
『どけどけぇー!必殺・岩石落としいぃぃー!』
確か、ヤチャは『岩石落とし』という必殺技を使えて、すると頭が巨大になるんだよな。
『よくもやったな!食い殺してやる!』
俺が枝で攻撃した時、こうカラスが言っていたはずだ。
う~ん……なんだろう……あ……あっ……あああああぁ!これは、解ったかもしれない!多分、これが答えだ!俺は躊躇ながらも、作戦をシミュレートしつつ行動を決断した!世界が動き出す!
『走る!』
「おいカラス!俺が勇者だ!」
「お前が勇者か!お前だけは殺す!」
「……マントの人、戻って戻って!」
俺は前……ではなく、すぐ後ろにいるヤチャを持ち上げ、来た道を急いで戻り始めた。したらば、鳥は橋を落とそうと降りてくる。そこで再び、選択肢が現れた。
『1.ヤチャを投げる 2.敵に飛びつく 3.マントの人に魔法を頼む』
やっぱりきた!ここで……これだ!
『ヤチャを投げる!』
カラスが橋に乗りかかったところで俺は再び鳥の方へと向き直り、やつの頭へと目掛けてヤチャを投げた!
「すまん!ヤチャ!」
「テルヤ……えええええ!?」
「な……パクッ」
投げつけられたヤチャを咄嗟に避けられず、カラスはヤチャを口に入れた。そして、俺は喉が潰れる勢いで、鳥の中にいるヤチャへ向けて叫ぶ。
「ヤチャー!今だ!岩石落としだああぁー!」
「そっか!そういう作戦か!おおおおぁぁ!」
「……ちょ……ま……おおふっ」
食べられたヤチャの頭が巨大化し、カラスを突き破って出てくる……はずだったのだが、なぜかカラスはフラフラと脱力し、そのまま仰向けに倒れ込んだ。白目をむいたカラスの口からヤチャが脱出を果たした後、カラスはバッと起き上がり谷へと口を向けた。
「……もう、無理……うえええぇ!」
唐突にカラスが嘔吐を始めてしまい、俺はハンカチをヤチャに渡しつつもカラスに近づく。すると、小さな声で鳥は何かを言っていた。
「にが……にが……うっ……吐く!うええええぇ!」
「……ヤチャ。なんか苦いものでも持ってたのか?」
「別にないけど」
と言いながらヤチャから返されたハンカチはベージュを通り越して、もはや黒色に染まりきっていた。つまり、吐き気の元は、お前だな。
「ヤチャ。いつから風呂に入ってないんだ……」
「いやだな。二週間前に入ったぞ」
それに加えて、さっき濡れて生乾きの状態でもある為、もはやヤチャは生ゴミのヤバいやつ程度には熟しているであろう。昨日、近くで寝た時も臭う臭うとは思っていたが、さながら毒物状態だったとはこれいかに。
「吐いちゃダメだ……吐いちゃ……おえええぇ!」
「……あの、マントの人。毒消しの魔法とか、使えないかな?」
「……あれは敵ではないのか?」
「まあ……気の毒だし」
「回復程度ならば……」
そういうと、マントの人はカラスへと手を当て、そこに淡い光の痕を残した。カラスは戦闘不能の様子だし、俺たちは回復途中のカラスを乗り越えて先へと進んだ。本来ならば倒した方が後々で不安もないのだろうが、無駄にカラスの好感度まで上げようとしてしまうあたり、これが俺の本来の気持ちなんだろうとも思う。
「……おい、テルヤ。うしろうしろ」
「ああ?」
20分くらい歩いただろうか。後ろにいるヤチャが何か話しかけてきたが、俺は高所を歩くのに必死で生返事を返していた。すると、羽ばたきの音と共に何か、大きな黒いものが俺たちの横へと飛び出した。もちろん、それは先程のカラスだ。
「……乗れよ。勇者」
「いいよ……」
「いいから!借りを返すだけだ!ここ、歩くと向こう岸まで丸一日かかんだぞ」
「いいってば……俺は何も貸してないし」
どうして敵が助けに来るというベタな展開に釣れない答えを投げつけているかというと、あいつに乗って飛ぶのが心の底から怖いのである。それでも横を飛びながら乗れ乗れ言ってくるから、俺は下を見ないよう目を半開きにしたまま、すっと立ち止まって言った。
「……ヤチャを口に入れて飛ぶっていうんなら、乗っていってもいいけど」
「う……うえええええ!」
「吐くな吐くな……」
「……乗ってやろうぜ。ほら、テルヤ」
思い出し吐きしている鳥に情がうつったのか、ヤチャが先にカラスの背中へと飛び乗った。俺はマントの人に目線を投げる。
「マントの人……疲れてたりする?乗りたい?」
「……任せる」
どうするかを任せられ、再び俺は鳥の方へと目線を戻した。鳥は既に仲間キャラみたいな顔で不適に笑っている。なぜか、ヤチャも鳥に乗ってご満悦だ。こうなったら、たまには主人公としてカッコいい行動を選ぼう。となれば、選択肢は一つだ。
『敵に飛びつく』
第7話へ続く






