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『後日談』の48

 ここで先輩への告白を諦めれば、生徒会長も思いとどまってくれるかもしれない。でも……。 


 『友世。浮気はダメだぞ……』


 ギャルゲー主人公の先輩である、照也の言葉が脳裏をよぎった。そうだ。これしきで心変わりするくらいなら、好きでもなんでもない。俺は生徒会長との距離を保ったまま、正直な気持ちを伝えた。


 「俺は……」

 「……?」

 「俺が好きなのは、先輩だけだ!先輩がいないなら……俺だって生きてる意味なんてない!」

 「……友世。そんなに、私のこと」

 

 先輩の目に涙が浮かぶ。生徒会長は気が動転しているのか、言葉もなく息を荒げている。ふと、大きく刃物が振り上げられた。自分自身に突き立てようとしているのか、先輩を刺そうとしているのかは解らない。そんな生徒会長を止めようと、俺は一歩を踏み出した。


 「やめてくれ!生徒会長!」

 「そう……ここは、あなたの出る幕ではないの」


 ナイフが振り下ろされる寸前、飛空艇の外に飛行機のようなものが現れ、それに乗っていた何者かが飛び込んできた。その人が、生徒会長の手をつかんだ。図書委員の夢子さんだ。


 「はなせっ!」

 「……ッ!」


 生徒会長の手から刃物をはらい落とし、取り押さえようと夢子さんは試みている。彼女の服装は体育祭で見た体操服ではなく、どこかの特殊機関で使用されていそうなガッチリした防護服であった。


 「うう……あああああぁぁぁ!はなして!」

 「……ああっ!」


 暴れている生徒会長に足をけられ、エリザベス先輩が飛空艇の外へと投げ出されてしまった。


 「先輩!」


 俺は、空も飛べない。助けにいったところで、どうすることもできない。しかし、気づいた時には俺は、先輩を追って大空の中へとダイブしていた。


 「……先輩!」

 「……友世!」


 吹き上がる風にも負けず手を伸ばし、なんとか先輩の手をとった。遥かな眼下には街がある。どこに落ちても助かりそうにない。とにかく、俺は先輩を守るようにして、ギュッと強く抱き寄せた。


 「……!」


 ドサッと音がして、体の落下が止まったのを感じた。なんだ?黒くて柔らかいものが、俺たちの体を受け止めている。現状を把握しようと目を開く。そこへ、聞きなれた声が届いた。


 「友世!無事か!」

 「……あ。照也。ヤチャ」


 呼びかけてきているのは……ヤチャにおんぶされながら飛んでいる照也だ。俺たちを受け止めたのは、黒くて大きなカラス。グロウさんだ。


 「照也。みんな……どうして」

 「いや、勇者がよ。おめぇらを連れ帰らねぇと、体育祭の勝負が決まらねぇって言うからよ」

 「無事でよかった。友世。エリザベスさん。帰ろうぜ。みんなのところへ」

 「……先輩。無事ですか?」

 「……」


 手を握られて顔を真っ赤にしながらも、エリザベス先輩は俺にうなづいて見せた。グロウさんの後ろには小型の飛行機が飛んでいて、操縦席には夢子さんと……気絶した生徒会長の顔がのぞいている。


 「でも、体育祭……変なことになっただろ?照也。学校に戻ったら俺、ど……どうすればいい?」

 「クツは貸すから……ちゃんとゴールすればいいんじゃないか?」

 「……そうか。そうだな」


 船にクツを忘れてきた俺へ、照也がシューズを貸してくれた。段々、雲の向こうに学校が見えてきた。グロウさんでは学校の頂上へは飛び上がれなかったので、ヤチャに抱えてもらって俺と先輩はグラウンドへ戻った。まだ観客席は埋まっていて、大歓声の中へと俺たちは降り立った。


 「ヤチャ。ありがとう」

 「おおおおおぉぉぉぉぉ!がんばれええええぇぇぇぇぇ!」

 「……先輩!行きますよ!」

 「えっ……あ……うん」


 ヤチャの体から降り、俺は先輩の手を引いてゴールへと駆け出した。張り直してくれているゴールテープへ、先輩をエスコートしながら飛び込む。これにて、長かった体育祭は終了した。

 

 『リレーの順位が決定しました~!3位が1組。4位が4組です~』


 「か……勝った」


 『以上で、全種目終了となります~。体育祭の最終結果……優勝は、最終リレーで1000000点を制した2組チーム!2位が1組。3位が4組チームです~』


 「……」


 食堂のお姉さんが、最終的な順位をアナウンスしている。あ……そっか。リレーで1位のチームは1000000点なんだっけ。結局、1位にはなれなかったな。そう考えている内、1組チームや4組チームのみんなが駆け寄ってきて、あれこれ聞かれたり、もみくちゃにされたりした。負けたけど、怒っている感じはない。結果はどうあれ、みんな楽しそうである。


 『えー……すぐ改修に入るので、すみやかに生徒は帰宅してー』


 表彰式や校長先生のお話が終わり、バン先生が生徒の帰宅をうながしている。照也たちと校門を目指して歩いていると、こちらへ走ってくるエリザベス先輩が見えた。


 「友世。ちょっといいか……」

 「先輩……すまんが照也。先に行っててくれないか?」

 「用があるから先に帰る。気にするな」


 気をつかって、照也たちは先に帰ってくれた。先輩が物陰に視線を向けると、見張っていた親衛隊の人たちも背中を丸くして立ち去った。


 「友世……今日は、私の負け」

 「でも、あんなことがあったので、仕方ないですよ」

 「……」


 先輩は俺の手をにぎり、うるませた瞳で俺を見つめる。


 「今回の事件……国、家族のこともある。告白の答え出す。少し……待ってほしい」

 「……そりゃあ、待ちますとも!全然!」


 お父さんや国のこと。警察に事情聴取されたりするのかな。今は、彼女の心が落ち着くまで待とう。何度か俺の方を振り返りつつ、先輩は金色の髪をなびかせて走っていった。


 「……あっ。そうだ。自転車ないじゃん」


 校門まで到着したところで、今日の登校はヤチャに送ってもらったのだと思い出した。疲れたけど……まあ、たまにはいいや。歩いて帰ることにした。


 「……」

 

 遠くの空には、エリザベス先輩の国の飛空艇が飛んでいる。その周りを、夢子さんが乗っていたような飛行機が包囲している。無関係な俺を誘拐したことはさておき、エリザベス先輩は統領の娘だし、大賢者先生のおかげで船が爆発する惨事も避けられた。もしかすると、そこまで重い刑にはならないかもしれない。


 「おーい!友世!友世、こっち!」

 「……?」


 道路の方から母さんの声が聞こえてきた。停まっている車に乗っているのは母さんと……父さんだ。俺は後部座席へ乗り込み、なんでこんなところにいるのかと質問する。


 「父さん……帰ってたのか?」


 「サプライズ帰国だ。またお土産もあるぞ」


 「あんたが変な船に連れ去られたのテレビで見て、心配してきたのに……全然、無事そうじゃない」


 体育祭……あれ、テレビ中継されてたのか。すると、俺が先輩に告白しながら走ったのも……やっぱり家族に聞かれていたらしい。父さんがニヤニヤしている。


 「で、友世。彼女からの答えは?」

 「……保留中」

 「それは……フラれたかな」

 「フラれたわね」


 まだ解らねぇだろ……と反論したかったが、それ上でフラれたら恥ずかしさマックスなので、俺は流れる街並みへと視線を逃がした。自動車は俺が自転車をこぐより何倍も速く、あっという間に家に着いた。


 「母さん……俺、晩ご飯まで寝るね」

 「飛行機で寝れなくてね。僕も寝ておく」

 「お疲れ様。おやすみなさい」


 外国から帰ったばかりだから、父さんも疲れているらしい。俺も疲れた……自室に戻るや否や、着替えもせずにベッドへ入る。目を閉じると同時に、俺は意識を失った。


 「……」


 窓の外が暗い。もう夜か?あれ……俺、フトンかけて寝たっけ?頭の中で情報を整理していると、何か解らない違和感を感じた。女の人の声が聞こえてくる。


 「……友世様。おめざめです?」

 「……うわあぁ!」


 ベッドの横に人が立っており、その人は懐中電灯で自らの顔を照らし出した。エリザベス先輩だ。な……なに?なぜ?


 「パパとも話しました。私、答えを出しました」


 「も……もうですか?」


 「負けた相手に絶対服従……我が国のオキテ。私も大好きだから……今日から、ずっと、よろしくお願いします……」

 

 先輩が蛍光灯のヒモを引っ張る。明るくなった部屋に見えたのは、メイド服を着た先輩の姿だった。金髪に黒メイド。先輩の紅潮したほほ。とてもよく似合う。


 「そ……それ、民族衣装なんですか?」

 「これは趣味……まあ、なんと!体操服でお眠りとは。お着替えをしませんですと」

 「え……ちょ……」


 先輩はニコニコしながらベッドへと乗り込み、俺のジャージを脱がしにかかる。キレイな顔、豊満な体が間近に迫る。俺は嬉し恥ずかし気持ちが高ぶって、ベッドから飛び降りて逃げ出した。


 「そういうの……あの……まだ、ちょっと困りますー!」

 「ああっ。待つのだ!友世様!」


 まさか先輩に、こんな秘密があったとは。これからも、あわただしい日々が続きそうだ……。


お疲れ様でした。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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