『後日談』の44
乱暴にも、偉い人を説得してこいなどと言われてしまった。詳しい事情を大賢者様に問う。
「わらわが魔法で兵隊たちを眠らせておけるのは、30分が限界だ。それ以上やると、ちょっとよくないことになる」
「30分を超えると、どうなるんですか?」
「兵隊たちは地獄の悪夢にとりつかれ、夜に1人でお手洗いに行けない体質になってしまう」
それは大変だ……いや、大変か?いや、大変だな。もう兵士の人たちって、眠ってるんだよな?じゃあ、実質あと30分もないじゃん!考えてる場合じゃない!
「わらわは乗り物中のトビラを開けたり、まだ起きてるやつを眠らせたりするから、おぬしは偉そうなやつを探して説得し、戦争を止めてくるのだ」
「そんなこと言われても……俺、一般人だし」
「たぶん、きっとできる。任せたぞ」
俺に無茶振りだけ残して、大賢者先生はスッと暗闇へ消えてしまった。説得しろってったって、国際規模の事件となると、それは警察や政治家の対応する案件だろうに。
「……」
でも、もしそうなったら……戦いは避けられない。戦って勝ったとしても大変な被害が出るし、一味の仲間だと知れたら、きっと先輩は戻ってこない。先輩は泣いていた……こんなこと、本当はしたくなかったと考えられる。
「よし……」
行こう。説得しろと言っていたから、先輩のお父さんは今も眠らせられずに起きているはず。そう意気込んで牢屋のある部屋から足をふみ出したところ、ドアの外に軍服を着た人が倒れていた。さっき俺を連れてきた兵隊の人だ。
「ぐがが……母ちゃん。父ちゃん……俺、ピーマンはキライだって言ってるじゃん……」
体を痛めそうな体勢で倒れてはいるが死んではいないらしく、両親にピーマンを食べさせられる悪夢にさいなまれている。俺は通路を進み、階段を上がっていく。あちこちで兵隊の人が倒れて眠っている。起こさないように足音を殺しつつ、エリザベス先輩やお父さんと別れた部屋まで戻ってきた。
「……?」
何か声がする。まだ意識を保っている人がいるのか?部屋へと入り、バタバタと倒れている兵隊さんたちをまたいで奥へ向かう。ボタンがたくさんついた機械から、女の人っぽい声が聞こえている。
『潜入捜査中のブレイドです。つい先程、学園へ敵国の飛空艇の接近を確認いたしました故!』
『ブレイド君。被害は?』
『生徒が2名、連れ去られましたが、学園側は体育祭の催しの一環と勘違いしているようでいて、現状を把握していないと見られます』
声はスピーカーから発されている。話の流れからとすると……これは警察や政府の通信を傍受しているものと推察される。学校の人たち、これを体育祭の出し物だと思ってたのか。どおりで誰も助ける素振りもなかった訳だ……。
『生徒が連れ去られたと?まさか、その生徒。レイナとゼロでは!?』
『姫様……デスクが壊れるので、叩かないでください』
『アマラさん?これが叩かずにいられるの?ええ……すぐに制圧せよ!』
姫様と呼ばれる人物を男の人がたしなめているのだが、デスクをバンバンと叩く音はやまない。レイナさんとゼロさんの名前が出たけど、あの2人と知り合いなのだろうか?
『いえ、誘拐されたのはエリザベスさんと……ゆ……ゆうよさん?という方です。姉さま』
『……みなのもの。落ち着きなさい。ここは様子を見ましょう……ええ。それがいいわ』
俺とエリザベス先輩については心配の範疇にないらしく、いますぐに武力行使とはならなかった。それはいいんだけど……俺の名前はゆうよじゃなくて、友世だ……。
『後日談』の45へ続く






