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『後日談』の42

 「日本人をワガハイ、絶対に許さないッ!ころっせ!ころっせ!」

 「シルヴェスター様……恐縮ですが」


 軍服を来た集団の中の1人が、シルヴェスター総統に何か耳打ちしている。俺に向けられている銃口は未だに下がってはおらず、1歩でも動けば命をとられかねない。この人たちが何者で、なんで学校の上空を飛んでいたのか、何をするつもりなのか。1つとして解らない今、どうすれば助かるのかについても、やっぱり解らない。解らんづくしである。


 「……」


 銃を構えている男たちの中に……どこかで見た事のある人を発見した。いや、顔や姿はシルエットになっているから知らないんだけど、見た目は近所のオジサンや校長先生と同じだ。この人は……照也の話してくれていた、モブ彦さんだ。


 「……モブ彦さんですか?」


 「……」


 「お前、この小僧と知り合いか?」


 「いいえ……私は秘密国家ストロガノフの一般兵、モブリセフ・モブリチェンコ。このような子ども、存じ上げませぬな」


 ああ……完全に役に入り切っている。ダメだ。この人は俺の知ってるモブ彦さんじゃない。助けを求めるのは無理と見て、別の案をねりつつ周囲に目を向けた。すると、総統がダンディボイスで高笑いを始めた。


 「ふはははは!それはいい!日本国をほろぼす余興として、この小僧を見せしめ拷問の刑に処してやる。牢へ入れておけ!」


 日本を……ほろぼすだって?どうして……理由を聞こうにも、エリザベス先輩は俺の方を見てくれない。声を出そうと頑張るが、背中につきつけられた銃口に阻まれた。自動ドアが開き、総統と先輩が行ってしまう。最後に見えた先輩の横顔は……泣いているように見えた。


 「牢へ連れて行け。お前は拷問の準備だ」

 「はは!」


 中年の男が兵士たちへと命令を出している。俺に銃口を押しつけている男も指示を受け、俺の背中を強引に押しながら移動を始めた。


 「いまいましい日本帝国民め!歩け!」

 「は……はい」


 エリザベス先輩たちが出て行った方とは違う方向の扉へと連れて行かれ、右側の壁がガラス張りになっている通路へと出た。窓の下には雲が見え、雲間には街並みの色が透けている。そちらをながめながら、俺を連行している兵士は小さく笑い声を出した。


 「くっくっく……見ろ。あの平和な街が、あと数刻で地獄と化す。想像しただけでよだれが出るだろう?」


 「どうして、こんな……日本人が何をしたっていうんだ」


 「全ては、お前たちが悪いのだ!あの非人道的かつ、非道な行い……我が国を侮辱した重い罪、絶対に忘れない!」


 あ……この人、聞いたら色々と教えてくれそうな人だ。挑発を織り交ぜつつ、俺は情報を引き出そうと試みる。


 「でも、エリザベス先輩は優しかった!みんなと仲も良かった!こんな俺を愛してくれた!」


 「それはかりそめの顔だ。エリザベス様は我が国のスパイとして、日本帝国に侵入していたのだ!」


 「なん……だと!じゃあ、先輩は知っていたのか!秘密国家が攻めてくることを!」


 「そう!そして、今日!体育祭から日本帝国民の平均的能力値を計り、エリザベス様のチームが優勝したのを機として、日本帝国殲滅作戦の合図とした!」


 まだ、うちのチーム負けてないんだけど、まあ……勝てるかと言ったら微妙なところだったし、あまり強気には出られない。男は言いたい事があるらしく、くやしそうに壁を蹴って俺に伝えた。


 「今日この日まで……俺たちが、どんな苦しい気持ちだったか。日本帝国人のお前には解らない!」


 「解りません……なんですか?」


 「……」


 「……?」


 全く想像もつかなかったから率直に聞いてみた。男は頭をおさえながら、苦しそうに俺へと告げた。

 

 「日本帝国語……日本語!日本帝国殲滅作戦にあたり、昼も夜も……日本語の勉強!勉強!あのつらさ!日本人のお前には解らない!」


 「そう……ですか」


 日本語を勉強させられたらしい。そのかいあってか、日本に住んでいたエリザベス先輩より、この人の方が日本語がうまいくらいに思える。俺だって英語の授業は得意じゃないし、若干ながら気持ちは解る……。


『後日談』の43へ続く

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