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『後日談』の41

 「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」


 やや通路は左に曲がっているが、走っている体感としては直線と大差ない。ゆるやかな坂道が続いており、ややカカトの辺りに負荷がかかってきている。前を走っているエリザベス先輩を追い越そうとは頑張ってはいるのだが、すでに全身がしびれるほどに力は出しきっている。追いつけねぇ……むしろ、じわじわ引き離されているようにも思える。


 「おっ。ここで、1組の友世君。体が光り始めたぞ」


 後ろからバン先生の声がする。全力で手や足を動かしつつ、俺は視線を下げてみた。本当だ!俺の体が光ってる!道場で修行した成果が出たのか?よしっ!いけそうな気がする!


 「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」


 ……。


 「おおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 体は光ってるけど……全然、速くなってねー!まったく順位に変動がないまま、道の向こうに光が見えてきた。光の中へと飛び込むと、そこには天空運動場のグラウンドがあった。大歓声を受けて体がピリピリしている。グラウンドの先にゴールのテープが張ってあり、そこまでの距離は500mといったところ。リレーはクライマックス。ラストスパートをかけるべく、俺は大声を張り上げた。


 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 やっぱり追いつけない。どうする……どうする。このまま走っていても勝てない。照也……太郎……観客席に仲間を探してしまう。


 「……」


 ダメだ!今は、俺が主人公なんだ。勝つ方法は必ずある!考えろ……普通に走って、体力で勝てないなら……こうだ!


 「え……エリザベスせんぱああああぁぁぁぁい!」

 「……?」

 「す……す……好きでええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇす!」

 「……!」

 

 何か悪口でも叫ぼうかと頭によぎったが、なぜか告白のセリフが自然と俺の口から飛び出した。こんな大勢の見てる中で、思い切りよく告白してしまった。エリザベス先輩が足を止める。彼女は俺の方へと振り返るが、すぐに空へと目を向けた。


 「……?」


 なんだろうか。俺も天をあおぐ。天空運動場の上にある太陽。その更に上を大きな物が飛んでいる。その何かは白い空を隠すほどに大きいが、形からして雲ではない。飛行船か?そこから機械でできた巨大な手が伸び、エリザベス先輩の体を強引に捕まえた。


 「うわっ……せんぴゃい!待って……」


 先輩が連れ去られてしまう。そう考えると同時に、俺は先輩の下半身にしがみついた。もちろん、俺の体重程度で機械の手が止まる訳もなく、俺は先輩ごと空へと引っ張られていく。手を離してたまるものかと、俺は必至で先輩の尻に顔を押しつけていた。


 会場からは拍手が巻き起こっている。それが段々と遠ざかっていく。あれ……もしかして、これって、体育祭の演出なんじゃないのか?先輩の尻の柔らかさと、突然の緊急事態に張り詰めていた心臓が安定してきた。よかった……事件じゃなかったのか。


 「……」


 そんな安堵も束の間……飛行船の中へ引き込まれた俺は、軍服を着た男たちに銃を向けられた。これも体育祭の演出か?凝ってはいるけど、もうバン先生もいないし、観客らしき人たちは周りにいない。軍服の男たちが道を開けると、右手がフックになっている海賊の船長みたいなオジサンが現れた。


 「貴様。うちの娘に、何をした?」

 「……え?」


 オジサンの後ろには、悲しそうな顔をしたエリザベス先輩がいる。うちの娘……うちの娘?というと……あっ。


 「ワガハイは秘密国家ストロガノフの総統・シルヴェスター。娘に卑猥なマネ。許さん。死ね!」


 娘ってことは……この人が、エリザベス先輩の……お父さん!


 「ご……誤解です!お父さん!」

 「貴様に、お父さんと呼ばれる筋合い無し!死ね!」

 「だ……ダディ。ぱ……パパ」

 「言い方を変えてもダメ!」


 外国の方のようだから言い方を変えてみたが、なんかダメそうだ。なんだ、この状況は。とりあえず……俺、殺されるかもしれない……。

『後日談』の42へ続く

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