『後日談』の39
『うおおおおおおおおおほほほほほおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!』
水泳部主将は海らしき場所へと飛び込み、バタフライ泳法で水平線を目指して爆進していく。室内なのに海があるんだが……ここは本当に学校なのか?水泳部主将に水泳で追いつける生徒が学校にいるのか。バタフライなのに、なぜあんなに速いのか。やべぇ。1人でいると疑問が疑問で終わる。誰かと会話がしてぇ……。
『おっ。竜巻だな。飲み込まれないよう気をつけてくださーい』
海から大きな竜巻が上がっている。それをカメラで映しながら、バン先生が生徒に注意をうながしている。水泳部主将は竜巻に引き込まれないよう迂回していく。
『あ……今、2組チームと3組チームが第3走者へバトンタッチしましたー。水泳ゾーンに入りますー』
カメラの向きをグルッと回して、海岸でバトンを渡している生徒が映し出された。1位からは引き離されているが、やっと2組と3組も第2区の坂道を走り終えたようだ。なお、満里奈ちゃんの姿は全く見えず、受け渡し地点ではカルマさんが無気力そうにボーっとしている……。
『見えた!風の向こう側!』
水泳部主将の声がした。カメラが正面に向き直ると、海の真ん中に出口のような大きな穴が浮かんでいるのが映った。そこには待機している生徒が見えていて、つまりはここで第3区は終わりということになる。ついに俺たちのチームと1位チームとの差が、1区分以上の距離にまで広がってしまった。
『はい。第3区走者、お疲れ様でしたー。4組チーム、バトンタッチでーす』
『エリザベス様!我が軍の圧勝でござい!』
水泳部の主将がカメラに笑顔を見せるも、やっぱりエリザベス先輩の表情は浮かない。親衛隊の人たちって、エリザベス先輩のことが好きなんだろうか。そうだとしたら、高身長で役職も立派な上、一途な先輩たちが俺のライバルということになる。なかなかの激戦区に飛び込んだ気持ち……。
『4組チームが第4区コースをスタート。ここで1組チームも、第4走者にバトンタッチでーす』
「……」
4組が水泳部主将から、白衣を来た男の人へとバトンタッチ。それに続けてアナウンスされたのは……1組だ。1組?1組って……俺のチームじゃん。4組チームの生徒を追って、夢子さんが走り出している。あれ?カルマさんは?
『たたたたたた……大佐ァ!ぼぼぼぼ……ぼくぼく……僕の走り、撮ってくれましたかあああぁぁぁぁ!』
『……あ。ごめん。撮ってないや』
『ひどいいいいいいぃぃぃぃぃ!』
カルマさんがバンさんにくってかかっている。服も濡れていないが、どうやって海を渡ったのか……それは映像におさめられていない為、謎のままである。とはいえ、これでかなり追いついたので、カルマさんには感謝しておこう。
『第4区コースは精霊山……じゃなかった。改造された山コースです』
バンさんは山コースと言ったが、山というよりは補強された鉱山の中といった場所だ。下水道、その脇にある道を選手が走っていく。1位を走る白衣の人が、抑揚のない声で独り言を始めた。
『この先は複雑怪奇な迷路。算数部の部長である俺が、最短距離を駆け抜ける可能性……100%』
4組チームとして出場している白衣の人は、算数部の部長らしい。走りながらも片手でパソコンを操作し、第4区コースのデータを分析している。セリフは天才っぽいのだが、算数部という名前は微妙に小学校感ある。パッと算数部の部長は進行方向を変え、唐突に細い横道へと入っていった。
『……』
夢子さんは4組チームについてはいかず、正面にある広い道を走っていく。一体、どっちが近道なのだろうか……。
『ん~。でも、こっちが最短なんだよなぁ』
そう言って、バン先生は天井にあるハシゴにつかまって上に登り始めた。いや、先生はショートカットしなくていいので、どっちかの生徒を撮影してください……。
『後日談』の40へ続く






