『後日談』の38
『1組チームの第1走者。橋を渡り終えました。第2走者にバトンが手渡されます』
引き続き、バン先生の実況が聞こえている。他のチームの走者が揺れる吊り橋に手こずっている間にも、ウライゴさんがバトンの受け渡し地点に一番で到着する。
『はい!バトン!』
『はいっ!』
ウライゴさんから第2走者の満里奈ちゃんへ、丁寧にバトンが渡された。第2区のコースは……暗い坂道のような場所だ。辺りの景色には建物らしきものが建っていて、夜の街のようにも見える。どや顔でバトンを受け取って走り出した満里奈ちゃんだったが……ほんの数秒も走ると大きく息を荒げ始めた。
『はっ……はっ……』
その走る速度は非常に遅く、歩いているのと大差ない様子。それに加えて坂道。これは完全にコースに対する人選をまちがえたチョイス。むしろ、足が遅い事は事前に知っていたから驚くまでもないのだけど、満里奈ちゃんがフラフラと走っていて、今にも倒れそうなのが心配だ……。
『ここで4組チーム、独走していた1組チームを追い抜きました』
『山岳部主将の足腰を見ろ!これ!』
4組チームの生徒は山岳部の主将と名乗っていて、あの人もエリザベス親衛隊だったように記憶している。もしかして、4組チームのリレーの選手は、全員エリザベス親衛隊なのか?だとしたら、どの人も運動部のリーダークラスばかり。一般人では到底かなう訳がない。
『続けて2組チーム、3組チームが1組を追い抜きます。ええと……1組チーム、今の気持ちは?』
『は……走るの楽しいです!』
バン先生が、なぜか抜かれた満里奈ちゃんにインタビューしている。それはそれとして、満里奈ちゃんが楽しそうで何よりです。そのインタビューをもって満里奈ちゃんの姿は映像からはずれ、バンさんは1位を走る4組チームの元へとカメラを近づけた。
『レジスタ……じゃなかった。この空中都市コースも、やっと中腹に差し掛かります。この先にはハシゴのエリアが待っているぞ』
山岳部主将の実力はかなりのもので、全く疲れを見せずに坂道を登っていく。その顔は笑顔
。全くの余裕である。すでに2組と3組の生徒も後ろには映っていない。完全なるリードだ。
『エリザベス様!見ていますか!この雄姿を!』
「……」
カメラ越しにアピールが聞こえて来るのだが、俺の隣にいるエリザベス先輩は、残念ながら画面の方を見ていない。何か別のことを気にしているのか、もじもじと服のシワを伸ばしたり、天井を見つめたりしている。そして、不意に俺と目があった。
「あ……私、手加減ない。お前も、全力しろ」
「……あ、はい」
怒られるかと身構えたが、それだけ言って先輩はリレーの状況へと目を向けた。やっぱり、様子がおかしい。夢子さんが言っていたことも気になるし、この勝負で俺たちが負ける……もしくは先輩が負けると、何かあるのだろうか。
『第2走者、最後の坂を駆けあがります。4組チームは、一足先に第3区へバトンタッチ』
もう4組チームはバトンの受け渡しにかかっている。速い。そして、第3区間は……海のコースだ。海パンを来た生徒がバトンを受け取り、砂浜から海へ飛び込んでいく。
『絶対勝利宣言!水泳部主将として!』
第3走者も主将かよ……これは、俺へとバトンが渡った時には、もう勝負が決まっている可能性も出てきた。いや……落ち着け。俺がテンパってどうする。冷静になれ……冷静に……。
「……」
冷静に考えてみたら、ふと別の疑問が浮かび上がってきた。今、水泳部主将の姿がモニターに映っていて、バン先生の実況も聞こえ続けている。同時に、バン先生の泳ぐ手も映り込んでいるのだが……これって。
「……」
第1走者のスタート地点から、ずっと1位の選手を追いかけつつ、1人で走ったり泳いだり喋ったりし続けてるんじゃないのか?そうだとしたら、バン先生……一体、何者なんだよ。
『後日談』の39へ続く






