『後日談』の36
「もう、俺やヤチャにできることはない。あとは任せた」
「照也は十分、がんばった……あとは俺が頑張って1位を取るぜ」
綱引きが終了し、もう体育祭にチーム対抗の競技は残されていない。照也やヤチャのおかげもあって、4組チームにリードされていた点差が、また少し縮まった。その後も午後の競技は順調に進み、残すは体育祭の最終種目、世紀末リレーを残すのみとなる。そして、現在の点数は……。
『1組 368点』
『4組 369点』
よくまあ、ここまでの接戦でラストを迎えたものだ。なお、この後……最終種目で勝ったチームが1000000点という古き良き指向が働き、2組と3組チームにも優勝の可能性が残された。そうしないと、リレーに出る2組と3組の生徒のモチベーションが上がらないので、それに関して俺は納得している。まあ、勝てばいいのだ。
『リレー参加者は各自、スタート地点に移動してください』
リレーの準備のアナウンスが聞こえてくる。俺はアンカーだから、天空運動場から3階ほど降りた場所で待機する。そして、ゴールは天空運動場。走る距離としては、さほど長くはない。つまり、全力疾走で勝負を決める役割だ。その他、リレーについての情報は太郎が教えてくれる。
「リレーの第1走者は学校の入り口にいる。そこから第2走者、第3走者とバトンを渡しつつ、この学校を上がっていく」
「ずっと登り坂か……ちなみに、エレベーターは使っちゃダメなの?」
「エレベーターは閉め切られてるけど……友世、照也みたいなことを言うようになったな。普通、エレベーターはダメだろう……」
ダメもとで言ってみたのだが、たしかに照也が言いそうなセリフのような気がする。その点、やや感化されてきたのかもしれない。とにかく、勝負は最後まで気を抜けない。できるだけ思考は柔軟に。俺も自分で考えて、困難を乗り切っていこう。
「じゃあ、俺たちは観客席で待ってるから」
「あれ……照也。ヤチャは?」
「疲れて医務室で寝てる」
あれだけ事あるごとに大声を張り出していたら、そりゃあ疲れるに違いない。綱引きでも力を出してくれたし、あとは休んでいてもらおう。照也や太郎、ゼロさんは俺に手を振って、一足先に天空運動場の観客席へと向かった。
最終走者のスタート地点には今、俺1人しかいない。そこへエリザベス先輩がやってくる。
「……」
「……」
また何かお叱りを受けるかとも思ったのだけど、彼女は無言で俺の横に立った。
「……」
話しかけようかとも考えたが、空気がピリッとしていて声が出せなかった。そうだ。今の内に走者の順番を確認しておこう。えっと……第1走者はウライゴさん。2番目が満里奈ちゃん。3番目がカルマさん。次が夢子さん。その次が生徒会長。最後が俺だ。満里奈ちゃんの足が遅いのはお兄さんから聞いているけど、それ以外の人については未知数だ。
「これこれ~。友世よ。準備はできておるか~?」
突然、誰かに名前を呼ばれた。どこかで聞いた声だ。体育祭のパンフレットから視線を上げると、白衣を来たお姉さんがピョンピョンしながら走ってくるのが見えた。
「だ……誰?」
「わらわじゃ。大・賢・者・先・生!」
……大賢者先生って、保健室にいた赤いキツネだよな?だが、俺の目の前にいるのはボンキュッボン体形のセクシーお姉さんだ。え……嘘でしょ。
「ぬふふ……監督として来てやったぞ。大賢者先生監督にしてほしいことはあるか?」
「してほしいことっすか?」
「はずかしがらすに、なんでも申せよ」
こんなエロいお姉さんにしてほしいことなんて……たくさんあるに決まってる。しかし、俺の恋はエリザベスさんに向いているのだ。その人を横にして、浮気は厳禁である。
「……」
先生監督の髪は柔らかそうだし、胸はエリザベス先輩より大きいし、顔も声も可愛らしい。まあ、『頑張って』と言ってもらうくらいなら……いや、ダメだ。1つ甘さが出てしまうと、おさえがきかなくなりそうあ。必死に理性を取り戻そう……取り戻そうと頭の中で葛藤した末、俺はくちびるを噛みながら答えを返した。
「いえ……べつにねぇでふ」
「おぬし……腹でも痛いのか?」
『後日談』の37へ続く






