『後日談』の34
「さすがテルヤだ。楽勝だったぜ」
「ほぼ、相手の自滅じゃなかった?」
太郎の言う通り、普通にやったら誰でも勝てた気もしないでもないくらいの圧勝であった。借りものとして呼ばれていたヤチャが、ギュインギュインと体から光を発しつつ飛行し、俺の隣へと戻ってきた。
「テルヤァ!オレサマたちの勝ちだぞおおおおぉぉぉ!」
「テルヤ……私だってカワラくらいは割れたのに」
ヤチャが雄たけびをあげている横で、ゼロさんの残念そうな声が聞こえた。とはいえ、女の子にカワラを割らせて、手にケガでもさせてしまったら、お父さんに申し訳が立たない。カワラ割りにヤチャを呼んだ理由に関しては、そういった理由もあったのだろうだと勝手に察した。
借りもの競争は照也の1位が決定したのち、20分ほどの激戦の末に2位から3位が決定した。借り物のお題が出るたび、ゴールに行くのが最も速いのはグロウさんなんだけど、結局は彼が4位に落ち着いて可哀そうである。あの人、がんばっても空回りするタイプみたいだな……。
障害物競争が無事に終了し、観客席にいた生徒の多くは立ち上がって移動を始めた。あと1時間くらいしたらリレーが始まる。そのアンカーが俺……考えただけで緊張してきた。冷や汗を体操服のソデでふきつつグラウンドを見ていると、長い綱のようなものが運ばれてきたのに気がついた。
「太郎……あれ、なんだ?」
「チーム対抗、綱引き」
「綱引き?」
体育祭のスケジュールを確認する。あ、ほんとだ。次は綱引きと書かれている。場所は天空運動場。チーム対抗ということは、つまり俺も参加だ!リレーの前に一仕事あったとは。
「綱引きか。勝てるかな……」
「でも、僕たちのチームはヤチャがいるし」
「そ……そっか。ヤチャがいれば負けないな」
「任せろおおおおおおおぉぉぉぉぉ!」
4組チームにはグロウさんやシオンさんはいるが、どちらも細身で腕力自慢の人たちではない。エリザベス先輩や親衛隊の人たちだって、体格はどうあれ一般人の域は出ない。簡単に負けることはないはずだ。そうして不安を振り払いつつグラウンドに向かい、1組と書かれている綱の位置に立った。
「……」
なぜか綱は運動場の中央でむすんであり、そこから十字の形に伸ばしてある。1組チームの向かい側には4組チームの生徒たちが集まっていて、俺たちから見て左側と右側に2組と3組のチームがある。こんな4つどもえの綱引きあるか?
「……あれ?」
綱の異様さに続けて気がついた。俺たちのチーム……人数が少なくね?他のチームは100人ほども集まっているのに、1組チームの場所に立っているのは10人いるかいないかだ。俺と照也とゼロさん、ヤチャと太郎と他に数名。生徒会長が俺の前に立ち、キョロキョロしている俺に人差し指を向けてくる。
「ほら、しっかりしなさい!やる気のない態度は許さないぞ!」
「でも……」
「言い訳は聞きたくない!期待はしている」
生徒会長はツンデレだ。俺は後ろにいる太郎に声をかけ、この競技に欠席している人たちについて尋ねてみた。
「なんで、こんなにいないんだ?1組の生徒」
「午前の競技に参加した人たちは、全力を出しきって軒並み倒れたし……」
マジか……総合1位の4組に迫る激戦は、みんなの血と汗によってつかんだものだったのだ。
俺も『でも』とか『なんで』とか言ってる場合じゃない。やれるだけのことをやるだけだ。
『ルールは各チームで綱を引き合い、綱の中央にある結び目を自陣へ引き込めば勝ちです~。それでは綱引き。よ~い……』
マジで俺たちのチーム、他のチームの10分の1しか人数がいない。もう始まってしまう。とりあえず俺も綱を持って、ぐっと足腰に力を込めた。
『どん!』
「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
スタートの合図が聞こえる。1組チームの最後尾に立つヤチャが吠え、それに力添えするように俺たちも綱を引く。しかし、一向に綱は俺たちの方に寄ってこない。気張りながらも俺は目を開き、4組の様子をうかがった。
「……あ!」
4組チームの先頭で綱を引いているグロウさんの足が鳥の鍵爪になっていて、絶対に動かないとばかりにグラウンドへと爪を立てている。同時に、綱を引く手も鍵爪に……いや、待て。鳥だったら足が鍵爪なら、手は羽だろ!あの人、どっちも鳥の足にできるの?見た目、気持ち悪!
「今度は絶対に負けねえええええぇぇぇぇぇ!」
相手チームの綱には100人分の体重が乗っているし、あのままグロウさんが踏ん張っていれば負けないかもしれないけど、4組が勝ちもしないという事実。その鍵爪は、グラウンドの地面に深く埋まってきている。このままでは埒があかない。そんな中、照也が綱から手を離し、4組チームのいる前方へと駆けだした。
「ちょ……どこ行くんだよ!」
「あいつ。グロウの足を蹴ってくる!」
「えええ……」
もう無茶苦茶だよ。これ……。
『後日談』の35へ続く






