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『後日談』の32

 天空運動場には天井がなく、白い空が開けっぴろげになっている。常に太陽は運動場の上に浮いており、でも時間と共に位置は変化しない。暑さも感じないし、もしかしたら太陽じゃないのかもしれない。


 「友世。あれ、なにかな?」

 「ん?鳥じゃないか?」


 遠くの空にある雲をズンズンと押し広げながら、勢いよく何かが飛んでくる。それを見つけた太郎に俺は適当な答えを返したのだが、こんなビルより高いところに鳥なんてくるのかは自分でも疑問である。数秒後、飛来する者の正体がヤチャだと発覚する。


 「戻ったぞおおおおおぉぉぉ!」

 「結局、何が足りなくて持ってきたんだ?」


 弁当の量が足りないと言って帰ったヤチャは、スイカを一玉も持って帰ってきた。デザートが足りなくて帰った模様である。なお、俺の弁当にも生ぬるくなった小さいゼリーが1つ入っている。甘味があるとないとでは満足感が違う。それは非常によく解る。


 スイカをまるかじりしているヤチャを見ている内、段々と観客席に人が増えてきた。あと少しで午後の競技が開始になる時間だ。借りもの競争の会場は……この天空運動場だ。ここで待ってれば観戦できるはずだ。


 「おい!勇者が次の競技に出るらしいワン!」

 「飯を食べてる場合じゃないぞー!」


 先ほどのマントの集団が、あわただしく戻ってきた。ゼロさんだけじゃなくて、照也の知り合いでもあるらしい。


 「ほら、ルールルル!リリーは見つかったの?」

 「そもそも、神殿に忘れて来てたのに気がついたのん……」


 リリーさんという子を探しに行った幼女の集団も戻ってきた。そもそも、連れてきていなかった事実が発覚したらしく、これで万事解決である。それから少しして、今度はゼロさんが1人でやってきた。なにやらキョロキョロしているから、手を振って呼びかけてみる。


 「どうしましたー?」

 「ああ……魔王か」


 そう言って、ゼロさんは俺の隣に座っているヤチャの、その隣に座った。スイカとヤチャの体がデカすぎて、その向こうにいるゼロさんの姿が見えない。タネも皮も残さずにスイカを食ってるヤチャを見ながら、俺はゼロさんと会話を始める。


 「ゼロさん1人ってことは、照也はスタンバイしてるんですか?」

 「ああ。彼女として、いい応援の席を取りに来たのだが……魔王の方が早かったようだ」

 「俺、1時間以上も前からいたんで……」

 「まさか……魔王。そこまでして、テルヤを見たかったのか?」

 「そういうのじゃないです……」


 確かに仲間内では一番乗りだった気はするが、別に照也の彼氏になりたい訳でも彼女になりたい訳でも、ファンになりたい訳でもない。そこは誤解がないように言い訳しておいた。


 『まもなく、借りもの競争が始まります~』


 ステージの上でマイクを握り、食堂のお姉さんが次の競技のアナウンスをかけている。運動場の中央には参加者も準備していて、そこには照也の姿も確認できる。2組と3組の生徒は知らない人だが、4組チームの参加者はグロウさんだ。


 「グロウさん……この競技だったのか」

 「照也が出ると聞いて、借りもの競争に変更したらしいぞ」

 「あの人、一周まわって照也のこと好きだよな……」


 太郎からリークが入った。わざわざ照也と勝負をするために同じ競技に参加するとは、これなかなかの執着である。


 「あ……友世」

 「……?」


 俺の隣にいる太郎が、ヤチャの方を見て困った顔をしている。どうしたのか……いや、これはヤチャを見ているのではない。ヤチャの向こうにいる人を見ているのだ。


 「あ……あの黒い人も、テルヤのことが好きなのでは……私は、どうしたら……」


 ……ゼロさんが動揺している。フォローの言葉をかけようかとも思ったが、グロウさんの真意が解らない今、もしかするといけないので……ここはあえて静観した。


『後日談』の33へ続く

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