『後日談』の27
「あったぞ!オーブだ!」
「それを渡せ!」
オーブ?今、俺が持っている玉のことか?周囲にいた生徒たちが一斉に、俺を捕まえようと詰め寄ってきた。エレベーターを使っている余裕はない。階段だ!
「任せろおおおおおおおぉぉぉぉぉ!」
高波を立てるように襲い掛かってくる他クラスの生徒たちの前に、ヤチャが体を張って立ちふさがってくれた。今の内だ!俺と照也、ゼロさんと太郎で逃げ道を探し始めた。一応、他の生徒に見つからないよう、赤いオーブはポケットに忍ばせておく。
「しかし、ここ……どこだ?」
一目散に逃げだしたものの、もう学校は俺たちの知っている場所ではなく、バキバキに改造された謎の城である。建物内の道も把握していないし、玉入れのゴールだって見当がつかない。そういう時は、ひとまず相談!
「照也!太郎!ゴールは?どこに玉を入れる?」
「学校で玉を入れる場所といえば……うわあっ」
横道から現れた人たちに流されて、太郎の姿が見えなくなった。学校で玉を入れる場所……そんなのあるか?ただ、照也は玉入れ競争のゴールに見当がついたらしく、校内の地図を広げながらも、俺を案内するようにして更に下の階へ向かう。そして、通路へと進み出た。
「あいつ!エリザベス様へ変態発言をしたやつだ!ゆるさん!待て!」
「玉を奪うに乗じて殺せ!」
「げ……エリザベス親衛隊!」
玉を取ろうと迫る生徒たちにまじって、エリザベス親衛隊の何人が俺に殺意を向けている。もし追いつかれたら……俺の魂も取られちまう!なのに、照也は通路の奥の方へ奥の方へと、せまい方へと走り続けている。
「照也。こっちでいいのか?」
「玉入れ競争……目指すは体育館だ!友世!行け!」
「お……おおお?」
鉄の扉を急いで開き、4畳くらいの小さな部屋に入る。照也が俺の背中を押して、部屋の壁にある穴へと押し込もうとしてきた。
「なに?なんなんだ?この穴?」
「俺も、すぐに追いかける!先に行け!」
「うわ……うわあああああぁぁぁぁ!」
暗い穴へと無理やり頭から落とされる。中には滑り台みたいなものが作られていて、点々とついている照明の中を俺は物凄い勢いですべっていく。俺の意思とは無関係に、どんどんスピードが上がっていく。
「うあ!あっつ!」
本来なら尻で滑る……もしくは、ビート板でも敷いてすべるであろうものを腹ですべっているから、段々と摩擦で熱くなってきた。もうダメだ……死ぬ。そう覚悟したところで、スピードがゆるんだ。そのすきに、腹ばいの姿勢から尻すべりの体勢へと持ち直す。
「……た……たすか」
次の瞬間、すべり台が建物の外へと続いているのが見えた。遥かな空と、広がる街が遠くまで、ずっと見通せる。高い……手すりはあるけど、すべり台にフタはされていない。スピードが上がったら、外へ飛び出す危険がある。なのに、斜面は急になっていき、今となっては、ほぼ壁だ。斜度80度か70度はかたい。
「……ぐっ!」
「……おお。友世か。ごめん」
気づいたら、すべり台の最下層へと到着していた。追突してきた照也に背中を蹴られて、失神していた俺も意識を取り戻した。
「て……照也。これ……な……なんなの?」
「火事が起こった時に、脱出するすべり台あるだろ?あれだよ……うっ!」
「テルヤ。すまない」
照也に続いてゼロさんが降りてきた。その勢いに突き飛ばされ、俺と照也はすべり台の脱出口から押し出された。こんな危険な脱出口では、むしろ火事の中を突っ切る方が安全な可能性すらある。などと考えている中、すべり台の奥の方から、ざわざわと何か聞こえてくるのが解った。
「……?」
「……こせ」
「……」
「玉!よこせ!」
……やばいっ!他の生徒たちが、すべり台で追いかけてきた!俺たちもすぐに部屋を出て、広い通路を走り出した。体育館……どっちだ?
「いた!あいつが赤い玉を持ってるぞ!」
通路にいた生徒たちも、俺に気づいてあとを追ってくる。玉は隠してるのに、なんで俺が持ってるって解るんだ?そう思って視線を上げると、校内のいたるところにある画面に、バンと俺の姿が映し出されていた。そういうことか……。
「へい!パス!」
「……?」
遠くの方で、俺にパスを呼び掛けている人物がいる。同じチームの仲間か!俺は追ってから逃れたい一心で、そちらへと玉を投げようとした。
「へい!」
「……」
……ふと、俺にパスを呼び掛けている人のゼッケンをよく見る。そこには4組と書かれていた。しまった!別チームのやつだ!
「あ……あぶねぇ」
敵は狡猾だ。俺は気を引き締め直し、走るスピードをさらに上げた。
『後日談』の28へ続く






