『後日談』の26
「競技が中止になった場合、点数は……っと」
学校の内部構造を記した地図の裏に、体育祭の詳細なルールがいくつか書かれていた。競技中止の場合……全チームに10点か。全員0点でもいい気がするけど、体育祭の最後に合計点を発表する際、点数が低く出るよりは、なるべく高く出た方が盛り上がるって理由なんかな。
「そういや、照也の競技って何時からだ?」
「俺か?俺は午後1番で借り物競争」
午後か。すると、あと午前中に応援に行けそうな競技は……。
「やあ。勇者よ。元気であったか?」
「あ……どうも。お久しぶりです」
「……?」
エレベーターに向かっていたところ、照也を呼び止める声が聞こえてきた。声の主は色白で、小学生くらいに見える少年だ。良い家の子なのか、なんとなくしゃべり方や身のこなしに気品がある。白い制服は俺たちの学校のものより高価そうだし、おつきの人すら横にいる。きっとお金持ちだろうな。
「リレーの選手を探しているのだが、勇者がそうなのか?」
「いえ、リレーの選手は……こいつです」
「……う……うす」
え……俺に用?なんだろ。というか、見るからに相手は年下なのに、照也が敬語なんだが、どう接していけばいいのか。そう考えてたら、どことなくイルカっぽい雰囲気のおつきの人が、少年に小声で話しかけるのが聞こえてきた。
「王子……まずは自己紹介を」
「……そうだな。僕はシエルだ。体育祭との催しを見に来た」
「心野友世です」
今、王子って言ったよな?どこの王子だ?日本国内には王国があるのか?警戒している俺の後ろから、今度は照也が俺に助言をくれる。
「……こちら、マリナさんのお兄さんだぞ」
「お兄さん?」
「そうだ。妹の件で、注意しようと思ってな」
お兄さんが王子なら、マリナさんは……姫じゃん!これ、あれじゃん。妹君を危険なリレーに誘いやがってと、俺を消しに来た人たちじゃん。すっと身を引こうとした俺の逃げ道を、なぜか照也がふさいできた。王子が俺の前に立ち、真剣な表情で向き合ってくる。端的に俺は、自分の処置について尋ねる。
「俺……今から死ぬんですか?」
「君は死ぬのか?医務室に行くか?」
逆に心配された……すると、俺を殺しに来たわけではないのか。安堵しつつも俺は王子の前にかしこまった。
「いや、妹を競技に誘ってくれたのはいいのだが……」
「……」
「あの子は、すごく足が遅い。おそらく、ご迷惑をおかけしよう。それを先に注意しにきたのだ」
なんだ……そういうことか。リレーに参加できるだけの人数が集まっただけでもありがたいのだから、足の速さは俺がカバーしようじゃないか。それだけ注意を告げて、王子とおつきの執事さんは俺たちに手を振って去っていった。
「……あの人、お兄さんって言ったよな?」
「うん。そうだぞ」
満里奈さんが中学生で、そのお兄さんとしたら……もしや、俺たちと同い年か?いや……お若い。でも、それを言ったら怒られたのか、ほめられたのかも解らん。どちらにせよ、小学生にしか見えないからといって、なめた口をきかなくてよかった……。
『競技開始のご連絡です~』
また校内放送が流れ、食堂のお姉さんの声が聞こえてきた。また別の競技でも中止になったのか?
『これより、全生徒参加、玉入れ競争を開始します~。お手を拝借』
「……?」
玉入れ?全生徒参加?どこに、なんの玉を入れるんだ?疑問を浮かべている俺の目の前に、宝石のような赤い玉が落ちてきた。とっさに俺は球を手に取る。
「……」
周りのみんなが、こっちを見ている。他に玉は落ちてきていない。玉を持っているのは、俺だけだ。
「……えっ……え?」
「友世!それ持って走れ!」
照也に言われて、俺は赤い玉を持って逃げ出した。でも、走れったって……どこに?
『後日談』の27へ続く






