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『後日談』の24

 「なんか画面に出て来たぞ……」


 ステージの奥にある画面に、ずらっと色とりどりの文字が表示された。それは競技名と、フロアのナンバー、それと時間。この時間に、この場所で、この競技が行われますよ……というスケジュール表だと思われる。


 「世紀末リレーは……ないか」


 まだ午前中の競技までしか案内が表示されていないから、ラストの方の競技は場所も時間も表示されていない。俺、マジで最後の方まで出番ないのか?じゃあ、午後から来てもよかったのではなかろうか……なんて甘く考えてたら、照也が何か紙をくれた。


 「ほら、これ」

 「……校内の地図か」


 こんだけデカく改装された……いや、改造された校内だ。時間内に競技の実施場所が解らずに脱落する人も出そうな予感。そうだ。出番は遅いけど、俺も応援せねば。よし!同じクラスの生徒が出る競技にしぼって応援に行こう。ええと……最初は、太郎だ。パン食い競争。


 「まずは、太郎の応援に行こう!」


 「太郎の種目が終わったら、すぐにヤチャだ。俺と友世で応援に行くから、アップすませておいていいぞ」


 「おおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!」


 ヤチャの競技も早い段階で行われるようだな。太郎の応援は俺と照也で行くことにした。生徒が一度に移動できるよう、運動場には広い階段がある。地図とステージ上の電光掲示板から知る限り、5つ下の階でパン食い競争が行われると見られた。


 「そういや、照也。今日はゼロさんと一緒じゃないのか?」

 「なんか、ゼロさんは障害物競争に出ることになっちゃって……」

 「……大丈夫なんか?」

 「その為の情報収集と視察で忙しいと思うんだ……」


 クロル先生の作る障害物競争は死ぬほど楽しいという触れ込みだった訳で、ゼロさんが出場するとあって珍しく照也が心配そうな顔をしている。俺から見ると照也って、どんなことにも動じないタフなやつのイメージだったから、こうして不安を露わとする様子は新鮮に映る。


 「……」


 大勢の生徒たちにまじって階段を降り、パン食い競争の行われるフロアへと到着した。部屋の入り口に貼られたプレートには、『調理実習室』と書いてある。部屋は会議室くらいの広さしかなくて、どうにも走りまわれるような場所には見えない上、オーブンや調理器具、パンの材料などもそろっている。そこに太郎と、あと3人の生徒が待機している。


 「おーい!太郎!」


 まだ競技は始まっていないと見て、俺は大きく手を振って太郎に呼びかけてみた。あちらも俺に気づき、小さく手を上げてくれる。見物人はちらほら多くて、体育会系の人や太った人が多い。恐らく、あまったパン目当てだと予想……。


 「……」


 グロウさんがいた。見つかると厄介ごとになりそうと判断し、俺は自分の体で絶妙に照也を隠す。まあ……どちらにせよ、グロウさんはパンのイラストを見ながらよだれをたらしてるからして、照也の方には気づかなそうではある。


 『メンバーそろいましたので、そろそろ競技を始めさせていただきます!』


 妙にナレーション慣れしたオジサンがマイク片手に現れ、競技の取り仕切りを始めた。簡単にパン食い競争の解説もしてくれる。


 『ルールは簡単です。自作のパンを持って、部屋の向こう側にある赤いラインへ向かい、パンを食べ終わればゴール。用意はいいですか?』


 ここで作るのかよ……どんなパン食い競争だ。焼けるまで待たなくてはいけないとすれば、少なくとも結果が出るまでに30分はかかるだろう。参加者の準備はOKらしく、とりあえず競技スタートとなった。


 『よーい……どん!』

 

 「こうなると予想して、先に生地を作っておいたよ!」


 『3組』と書かれたゼッケンをつけている人が、布をかけて隠していたパン生地をジャンと披露した。それを型に入れながら、オーブンも温め始める。


 「そう来ると思って、わいはオーブンも温めておいたんや!お前には負けへん!」


 今度は2組の選手が、すでに温まっているオーブンへとパン生地を投入。生地も型に入れられていて、焼く準備まで万端であった。


 「こうくるのは解っていたさ!俺のパンはもう、焼き上がっている!」

 「なんやて!」


 今から焼き始める2組の選手を横目に、4組の人はもう焼き終わっている。確かに……ルール説明では自作のパンとしか言われてないから、先に完成させておくのもありっちゃありだ。2組の関西弁の人が驚きの声をあげているけど、生地を作ってオーブン温めるとこまで気づいたのに、なぜ完成まで頭が回らなかったのか。


 「よし!この勝負、俺の勝ちだ!」


 4組の選手がパンの入ったバスケットを持って、部屋の逆側にある赤いラインへと走り出す。太郎もパンを事前に完成させてはいたようで、小さなカゴを持って駆けだした。ちょっとだけ、4組の人の方が早い。


 「あとは俺が、これを食べ終われば勝利だ!」


 そう言っている4組の人のバスケットにはフランスパンが2本もさしてあって、それにマーガリンもバターも塗らずにかじりつきだした。その横で、太郎は一口サイズのパンを1つ、楽に口へと押し込んだ。


 『勝者!1組!』

 

 「しまった!俺は、パンを大きく作り過ぎた!くっ!」 


 ナレーションおじさんが、太郎の右手を持ち上げて勝利を告げた。その横で、4組の人がフランスパンをかじりながら悔し涙を流していた。太郎が勝ってくれたのは喜ばしいのだけど……これ、パン食い競争なのか?そんなパン食い競争らしき何かを目の当たりとして、俺は困惑をかくしきれなかった。


『後日談』の25へ続く

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