『後日談』の22
「むう……」
「ヤチャ。あそこから入れそうじゃないか?」
学校の面影はないにしても、校門だけは形を変えずに残っていて、そこから入城できないかと考え地面へと降ろしてもらった。大きなトビラをくぐって城へと入る。城の中には各競技に使うであろうコースができあがっており、1年生の生徒たちは俺と同じく、学校の変貌ぶりに戸惑っている様子であった。
『順次エレベーターに乗り、天空運動場へ移動してください』
天井についているスピーカーから男の人の声でアナウンスが流れ、俺も運動場へ向かうためにエレベーターを探し始めた。大勢の生徒が列を作っている。あそこがエレベーターの乗り込み口だろう。一度に30人は乗れそうな大きな部屋がトビラの向こうから現れ、体操服を着た生徒たちが中へと入っていく。
「……」
ヤチャと一緒に周囲を探るが、知っている人はいないみたいだ。エレベーターは1つだから、まだまだ順番待ちが終わらない。あと5回はエレベーターが戻ってくるのを待っていないといけないだろう……あれ?
『設備関係者用エレベーター』
部屋の隅の方に小さな扉があり、関係者用と書かれたプレートが貼られている。そちらは誰も使っていない。こっそり近づいて、ボタンを押してみた。
「……ダメか」
やっぱり開かないか。諦めかけたところで、トビラの上に『魔力式』と書いてあるのを見つけた。魔力か……ヤチャにお願いすれば開けてくれそうだけど、ここは昨日の訓練の成果を試してみよう。
「太陽凝縮水晶拳!」
俺の体がパッと光ると同時、ポーンと音がしてエレベーターの扉が開いた。もしや俺、魔法の才能あるんじゃーん。そうして浮かれながらにエレベーターの中へと入り、どうぞどうぞとヤチャも招き入れる。ヤチャは背が高すぎるから、かがみ腰で室内に収まってもらった。
「よーし。上に行くぞ」
上へ向かうボタンを押して……再び波動みたいなものを体から発する。エレベーターが上に動き始めた。このまま最上階まで行くぞ。
「……?」
部屋の外は見えないのだけど、どんどんとエレベーターの速度が上がっているような気がする。力の入れすぎかな?弱めようとするのだが、逆にエレベーターはガタガタと揺れ始めた。あれ……やばくねえか?
「ごめん。ヤチャ、止まんなくなっちゃった」
「任せ……ろぉ!」
ヤチャが強引にエレベーターのトビラを左右にこじ開けると、ものすごいスピードで通過していく各階があらわとなった。新幹線に乗って上にのぼってるような感じだ。そんな刹那を見極めて、ヤチャは両手をエレベーターから突き出した。
「ぬうう!」
ガンと音がしてエレベーターが急停止する。俺は反動で勢いよく天井に背中をぶつけ、そのまま床へと転がった。
「いたた……ヤチャ。ケガないか?」
「問題ないぞぉ……」
エレベーターの外にある通路の天井をつかんで、強引に動きを止めたらしい。しかし、太い2本の腕にケガは見られない。そんな俺たちを……エレベーターの外で待っていた作業服の人たちが、唖然とした表情でながめている。
「少年とヤチャよ。どうした?」
「仙人!うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」
仙人と呼ばれた犬みたいな人は、ヤチャと知り合いらしい。獣人なのだろうか。それなりにお歳をめしているようだけど、ガタイがよくて身長も高い。その隣にいるオジサンも同じく作業服を着ているが、ヒゲが伸び放題でいて、まるで海賊のような風貌をしていた。
「少年よ。すまんが次、使っていいか?」
「あ……どうぞ」
「ヤチャも、また今度、お茶でもしようぞ。じゃあ、操作を頼む」
「魔法が使えないあわれなセンニーンよ!俺の操縦に感謝しろ」
仙人たちにエレベーターをゆずり、交代で俺たちは部屋から出た。操縦は仙人ではなく、もう1人の人がするらしい。海賊みたいな人は愚痴をこぼしながらも、手から光を発してエレベーターのトビラを閉める。
「……ったく。こんな仕事、めんどくせぇ。前の世界の方が断然、楽しかったのだ」
「ブシャマシャよ。戦いは終わったのだ。わしらもまた、新しい生き方と向き合う時なのだ」
かすかにだが、エレベーターの中からブシャマシャと聞こえてきた。えっと……ブシャマシャさんっていえば、俺が魔王をしていた時にシモベをやってくれてた人と同じ名前だ。声での連絡しかしてなかったから顔は初めて見た。こういう姿をした人だったのか。
「それもまあ、魔王様が復活するまでの辛抱だぜ!今に見ていろ!」
そんな声と共に、エレベーターの下がる音が鳴りだした。残念だけど、もう俺が魔王になることはないんだ。こんな俺がいうのもなんだけど、真っ当に生きてください……ブシャマシャさん。
『後日談』の23へ続く






