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『後日談』の19

 温泉で身を清めた。というか、普通に朝風呂を浴びていい気持ちであった。もらったタオルで体を拭き、学生服を着直す。準備も整ったところで、いざ訓練開始だ。と……その前に、まずは……。


 「なあ、ヤチャ。道場っていうからには、師範がいるんだろ?あいさつしとかないと失礼だよな」

 「おい、1円の後輩よ。まずはアイサツだ。礼を尽くすことが戦いには必要なんだぜ?」


 マッサツ先輩に礼儀のなんたるかを説かれたが、それは直前に俺が言ったセリフと同意義なんじゃないかと思われた。ひとまず、先輩の言うことなので、そこは首を縦に振っておく。


 「うわ……」


 道場を進んだ先には体育館より広い稽古場があり、200人くらいはいそうな団体が見える。人間の姿をした人や魔物っぽい人、人種も様々だ。拳法の型らしきものを先頭にいる老人が構えると、それをマネして他の人たちもポーズを決めている。


 「太陽凝縮水晶拳たいようぎょうしゅくすいしょうけん!」


 「「「「「太陽凝縮水晶拳!」」」」」


 「赤緑兄弟配管功せきりょくきょうだいはいかんこう!」

 「「「「「赤緑兄弟配管功!」」」」」


 なんかカッコいい技名を叫びつつ、大勢の人たちがポーズをとっている。だが、それはモミアゲをつまんで身をかがめるだとか、鼻を引っ張るだとか、そういう変な格好ばかりである。なのに……みんなの体からは、白いオーラみたいなものがドバァッと発せられている。面白そうだし、俺もやってみよ。


 「連続高確率当選懸翔れんぞくこうかくりつとうせんけんしょう!」

 「「「「「「「連続高確率当選懸翔!」」」」」」」


 紙に文字を書くような動きからの……それを上にまき散らす動作。その技を真似した俺の体からも、白い波動みたいなのが発生して、ものの数秒で空気中へと消えた。


 「おお、できたぞ!俺、すごくね?!」

 「それ、日本人なら誰でも簡単にできるぞ」

 「マジか……」

 

 照也が冷静に、俺の知るよしもなかった事実を告げる。どおりで、ここにいる人たちは子どもでも簡単に、俺と同じことができている訳だ。これで朝の儀式が終わったらしく、師範らしきおじいさんが俺たちの方にやってきた。


 「ウライゴ。ヤチャ。勇者よ。そして、そちらは?」

 「父さん。今日、ここで特訓をするトモヨ君だ」

 「ここでの特訓は厳しいぞ。よいか?」

 「押忍!よろしくおなしゃす!」


 ウライゴさんって、師範の息子だったのか。あんまり似ていない。師範は特徴的な長いモミアゲを生やしていて、電話中に受話器のコードをいじる感じでもてあそんでいる。修行に参加させていただこうと考え、道場にいる他の皆さんについて道場の奥へ行く。


 「……おお。外だ」


 道場の天井がなくなり、空の見える野外へ続いた。道には花が咲き乱れ、下った先には滝もあったりして、非常にいい眺めである。そのまま歩き続けて林へと差し掛かると、師範が道の先を指さして叫んだ。


 「走り込み!道場内を100周!」

 「「「「「「「おおお!」」」」」」」


 走り込み100周。これで午前の修行が終わる。なお、俺は1周半でギブアップした。昼飯は卵とじカツ煮丼というカツ丼っぽい料理をいただく。値段は300円と破格の安さだったが、普通に量があって普通に美味い。


 「午後は重量挙げ!」


 重量挙げと銘打って、みんなは手ごろな岩を持ち上げている。一緒に修行していた皆さんは仕事や学校へ行ったようで、午後になると人数は5分の1ほどになっていた。岩を持ち上げる修行が終わると、今度は石を拳で割る試練が始まった。

 

 「……割れって言われても。手の方が割れちゃうぜ」

 「はあああああぁぁぁぁぁぁ!」


 建物ほどもある大きな岩へとヤチャが一撃を叩き込むと、岩は砂利と見間違う小ささに砕け散った。一方、ウライゴさんは手のひらサイズの石を割るのにも苦戦していて、ヤチャの強さが特別なのだと理解した。


 「終わり!解散だ!」


 午後4時くらいになって、今日の修行が終了した。師範が俺の前にやってくる。


 「トモヨ君。今こそ、波動を解き放つのだ」

 「えっと……はい。連続高確率当選懸翔!」


 朝に見たポーズをマネして、長い技名を唱える。俺だって、素人ながら今日は1日、がんばったのだ。そのかいもあって、体からは朝にやった時とは段違いの白い光が放たれた。


 「うむ。よくぞ頑張ったな」

 「あ……ありがとうございます!」


 ……修行が終了した。その成果を俺は照也に尋ねる。


 「照也。俺、足……速くなったかな?」

 「いや」

 「力……強くなったと思う?」

 「……いや」


 体から強い光が出るようになったが……これがなんの役に立つのか。ちょっと解んない。


『後日談』の20へ続く

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