第38話の1『回想』
《 前回までのおはなし 》
俺の名前は時命照也。恋愛アドベンチャーゲームの主人公なのだが、気づけばバトル漫画風の世界に飛ばされていた。魔王四天王の一人であるジ・ブーンより命からがら逃げ延び、俺たちは姫様たちが住んでいた王国へと急いでいたのだが、国への入り口がないことに気づいて焦っている……。
ルッカさんいわく、王国へ行く為の入り口があったらしいが……それが見当たらないらしい。
「その入り口って、どういうものなんですか?」
「シズマナキャッスルは我が国の王城でございます。海底から海上まで続く巨大な建造物で、陸の民族をお通しする際には、海面を突き出た入り口より入国していただく道筋となっております。なにせ、他国の民は滅多に見えませんので」
なるほど。王国に出入りするのは海の一族だけじゃない訳だし、とはいえ陸の一族が来るとしても各国の首脳陣くらいしか来なさそうだから、じかに王城へ入れるような構造にしていると。しかし、俺の仲間内の誰も海の王国について知らなそうな辺り、外交の余地は残しているが本当に滅多にないと考えられる。
「勇者のお前が窒息するから、安全な方法を画策しているのだ。このドルフィン船をもってすれば、海底へ潜り込むのも難はない」
「エビゾーさん。そのことなんですけど、お姫様がゼロさんに使った魔法みたいなのって、俺には使えないんですか?」
「使わせないし、使ってはならん!」
怒られた……それについてはゼロさんも姫様も無言でいるし、単純に男には効果がない魔法なのかもしれない。俺も無理は通せないため、ここは別の問題へ方向転換する。
「以前、空を移動し続けている街……というのは見た事があるんですが、さすがに城が勝手に移動するわけはないですもんね」
「どうでしょうか。城の上層部が破壊されてしまったのか、国ごと消し飛ばされてしまったのか……私が海底の様子をうかがいましょう。エビゾー殿、姫様のボディガードを頼みます」
「了解」
ルッカさんが船から飛び降り、勢いよく海の中へと潜っていった。海は鮮明な青色なのだが、さすがに底までは見えない。この隙に敵に襲われても困ると思い、ボートの動かし方が解らないものかと遠目に運転席を眺めてみたが、運転席に謎の丸い銀板が浮いているのを見て、直感的に諦めた……。
「勇者。ヤチャと精霊様のことも心配だな」
「……俺も、2人が飛ばされていった方向は見てなかったですから、見当もつきませんしね」
ゼロさんが二人を心配しており、俺は手がかりもなく水平線を見つめた。その後、横で寝ている仙人へと視線を移し……なつかしい記憶を取り戻した。
「……仙人って、ルルルを召喚できますよね?」
「……ホ……ホッヒャヒャ!」
『それだ!』みたいなアクションで仙人が起き上がり、彼は非常食が入っていた貝殻でボートの隅に何かを書き始めた。姫とエビゾーさんに見えないよう俺の後ろで書いているが、きっと落書きはバレてるはずである。ただ、姫もエビゾーさんも必死な老人を怒る気はないと見られる……。
「仲間を呼び出す手はず故、あの落書きらしきものは見逃していただきたい……」
「あの……召喚というと……彼は魔法を使えるのですか?」
「……え……私か?あの……そうだな。だが、仙人は基本的には武術の人だ」
俺のセリフを聞いた姫が、その返答をゼロさんに投げる。俺が嫌われている……というよりかは、知らない男の人には話しかけられないという仕草であった為、特に俺の心は傷つかなかった。
むしろ、姫の容姿が小学生くらいに幼く見える為、ルルルと仲良くなった件がなければ俺も対応に迷ったかもしれない。そんなことを考えていると、今度はエビゾーさんが俺に仙人のことを聞く。
「おい。気になっていたのだが、仙人とやらは謎の言語を話している。どこの出身なんだ?」
「歯がないんです……だから、うまく発音ができないらしいです」
「ファッハ!」
パンッと貝殻でボートを叩いた音がした。仙人の描いていたものが光り輝き、前に召喚を行った時と同じように人影が現れた。
第38話の2へ続く






