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『後日談』の14

 「あの……今、何階ですか?」

 「70階!」

 「何階で降りればいいんですか?」

 「150階!」


 薄暗闇の中、流れるワイヤーにつかまってグングンとビルを上がっている。現在地は俺の下の方に乗っている白衣の人へと聞いている。やっと半分ほど来たらしい。


 ワイヤーには足を乗せるところも、掴まるところもあるから腕は疲れないんだけど、スピードも安全運転だから上がるのに時間がかかる。せまくて高くて底知れない空間に、じっくりことこと10分ほど閉じ込められ、やっとこさ150階へ到着した。


 「結局、最上階だ……」

 「『秘密』のトレーニングルームだからね」


 開いたドアの向こうへと無事に足を下ろし、ほっと一息つく。俺に続いて白衣の人も飛び降りてきた。あれ……レイナさんは?


 「……お待たせしました」


 部屋の隅の方にある別のエレベーターから、レイナさんが出てきた。普通の個室エレベーターあるんじゃん……なんで、そっちを使わなかったのか。


 「うむ。簡易エレベーターの方が、少し速いのだ」

 「速さと引き換えに、閉所恐怖症になるところでした……」


 1階に戻る時は、普通のエレベーターにしよう。そう決め込みつつ、俺は目の前にある3つのトビラと向き合った。左から順に、青、赤、緑色のドアが並んでいる。足元にはサクセスモードと書かれている。これから俺は、どうすればいいのか。すぐに白衣の人が説明をくれた。


 「この先に、様々なイベントが待ち構えている。それらをクリアすることで、君の能力をアップさせることができるぞ」

 

 なるほど。では、足の速さをアップさせるには、どの部屋に入ればいいのだろうか。オススメを聞いてみる。

 

 「足を速くしたいんですが、どれがいいです?」

 「それは入ってみてのお楽しみ」


 ……ん?そういう、ドッキリ的なアレなの?


 「ぜひ、この先は君の目で確かめるのだ。なぁに。ケガはしない」

 「こわくなってきた」

 「大丈夫。命の危険はありませんよ」


 白衣の人の言葉は陰謀めいて聞こえるが、レイナさんに言われると不思議と安心する。では……せっかくだし、すぐ目の前にある赤のトビラを開くぞ。


 「……」


 扉の奥には……電車の中みたいな光景が広がっている。窓の外には流れゆく景色もあり、ガタンゴトンという音や揺れも感じる。ここ、本当にビルの中だよな?両座席の間のせまい通路を進んでいく。


 「……おっと!ごめんなすってぇ!」

 「あ……すんません」


 正面から男の人が来た為、体を寄せてギリギリで擦れ違った。そのまま足を進めていくと、電車の車両の端っこにも2つののトビラが用意されており、その前で俺は立ち止まって白衣の人に声をかけた。


 「……次のトビラに行けばいいんですか?」

 「これで、ここのイベントは終了だ。結果が出たぞ」

 「……?」


 白衣の人が手元のスマホらしきものへと視線を落とし、そこに表示されている文字を俺も横からのぞき見た。


 『友世は300円を失った』


 何が起こったのか。一瞬だけ頭が理解を拒んだが、すぐに俺はポケットの中に手を入れた。あ……財布がねぇ。


 「……さっきの人か!スラれた!」


 振り返ってみるが、もう擦れ違った人はいない。ドアもない。完全に逃げられてしまった。すぐさま、白衣の人に事情を問う。


 「あの……お金を取られた気がしますけど」

 「トレーニングが終わったら、あとで返すから。ほら、能力も上がったぞ」

 「……?」


 『友世はお金を取られた悔しさに耐えた。精神力が1つ上がった』


 別に耐えてないし……精神力とか今はいらない。しかも、俺の所持金が300円しかないことがレイナさんにバレてしまい、やや恥ずかしきであった。なお、お財布は返してもらえると解り、そこだけは安心して俺は次のトビラと向き合う。さっきは赤色のトビラを選んで精神力が上がったから、次は青のトビラを選ぼう。


 「……」


 コンビニだ……なぜか、コンビニの中に繋がっている。すれちがう人に警戒しつつ進むと、レジで商品を精算している、ガタイのいいお兄さんに声をかけられた。

 

 「いけね……1円たりねぇわ。なあ、後輩。1円、かしてくれよ」


 誰だよ……こんなイカツイ先輩は知らん。それになにより、今の俺は偶然にも一文無しだ。1円を欲している人は、顔の怖いお兄さん。下手なことを言うとバトルになるかも解らないと考え、俺は黙って首を横に振った。


 「だよなぁ。負け犬の俺なんかに、お金は貸さねぇよなぁ。お金は大事だもんよなぁ」


 意外とあっさり諦めて、謎の先輩はタナに商品を戻しに行った。すると、白衣の人の持っている端末からピロンと音が鳴った。え……これ、イベントだったのか?なんの能力が上がったのかと気になり、俺はスマホの画面に目を向けた。


 『マッサツダークネス先輩に、強気な態度を見せた。精神力が1つ上がった』


 また精神力が上がった……そして、先輩は1円だけ足りなかったばかりに、プレミアムロールケーキを買うのを諦めたのだ。

『後日談』の15

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