『後日談』の10
俺たちは高校の校舎を出て街を歩き、すぐ近くにある中等部の校舎へと向かった。校門前にて照也が携帯電話で誰かに連絡すると、数分後にはランドセルを背負った女の子が街の方からやってきた。
「……お兄ちゃん。なんなんじゃ?」
「ごめん。マリナ姫、呼べないかなって」
「呼ぶのはいいけど……別にリレーの選手なんて、誰でもいいと思うのん……」
不思議な雰囲気の女の子で、見た感じは外国人っぽい。長い髪はツインテールにしてまとめており、髪留めには時計に似た装飾がついている。照也に呼び出されたせいでけだるいのか、やけに眠そうな目をしている。会話の途中ながら、俺は照也に声をかけた。
「えっと……誰だ?」
「近所の子Aだ……マリナ姫と仲がいい。マリナ姫とお近づきになるには、この子がキーなんだ」
なるほど。満里奈さんは学校が違うから、別の女の子に仲介してもらうストーリーなのか。彼女を呼んだ理由を知り、俺はどうぞどうぞと2人の会話をうながした。女の子は俺から視線をはずし、照也との話を再開する。
「そもそも、体育祭の参加者がたりてないって、おかしくないのん?」
「そりゃあ、おかしいところもあるよ……俺と魔王が数時間で作った世界だもん」
「で、高校の体育祭に中学生を勧誘するって、どういう発想なのん……」
「主要人物以外の人は、あんまり俺たちに関心もってくれないから……」
小声で相談しているが、照也のメタ発言がすごい。こういうおかしな点や矛盾があるのも、元はといえば世界を壊してしまった俺が原因なので……その点、文句は言えない。主人公として、がんばって物語を成立させよう……。
「あの……テルヤ。いいか?」
「あ……はい。ゼロさん」
「マリナ姫様の件なのだが……」
女の子との交渉を照也に任せて話を聞いていたところ、久々にゼロさんが会話に参加した。こちらも満里奈ちゃんとは知り合いのようだ。
「姫様は……走ろうにも、足がないだろう」
……え。
「ああ……大丈夫です。歩けるようになったんですよ」
歩けるように……なった?俺が会った時は普通の可愛い女の子だったけど、なんか悲しい過去のあるヒロインなのか?気になる……。
「ギョハハハハ!」
「……?」
野太い笑い声が聞こえてくる。な……誰だ?
「おおい!勇者だ!どうした!ギョハハハ!」
青い肌をした大きな人……いや、人なのかすらも解らない。体はウロコだらけだし、見たところは魚みたいだ。そんな姿の人物が、親しげにヤチャと照也の背中を叩いている。ヤチャは平気そうだけど、照也は酷く痛そうな声で返事をしている。
「ぎ……ギザギザさん。どうしたんですか?」
「このあと、海賊団で回転ずしってやつに行くのだ!姫も連れていくぞ!ギャババ!」
「いいですね……お寿司」
「勇者も行くか?ギャババババ!」
海賊団って……この人、海賊なの?そこへ、今度は校内から女の子の声が聞こえてきた。
「お待たせしました!ギザギザさん!帰りましょう!」
満里奈さんだ。見た目は小学生くらいに見えるけど、本当に中学生だったのか。足は……ある。というか、このギザギザさんって人、満里奈さんと、どういう関係?
「勇者さん。こんにちは。どうしました?」
「いや、マリナ姫……走る競技、リレーに出てもらえないかと思いまして」
「ギャババ!姫が出なくても、勇者とヤチャがいれば負けない!ギザギザ、知ってる!」
「俺は、借りもの競争に出ないとダメなんで……人員が不足してるんですよ」
照也、借りもの競争なの?その競技、本当にお前じゃないとダメか?
「解りました。魔法で人間の足に変化できるようになって、歩くのも走るの楽しいです」
「えっ……いいんですか?」
「友世さん。よろしく、お願いします!」
「おい、船長!姫は来たタラコ!?」
「おお!出てきたぞ!ギャババ!じゃあな!勇者たち!」
うわっ……イソギンチャクみたいな人とか、タコみたいな人とかいっぱいきた!ギザギザさんが満里奈ちゃんを抱えて、海賊仲間たちと共にお寿司屋さんへ行ってしまう。そのお祭りみたいな光景を見送って、照也が交渉の結果を告げた。
「マリナ姫も出てくれるなら、あと1人で選手がそろうな」
「そうだな」
「……」
結果よければ全て良しだが……結果的に呼び出されただけで何もすることがなかった近所の少女Aが、ただ疲れたような目で照也を見つめていた。
『後日談』の11へ続く






