第37話の3『消失』
ふと気づくと、俺はボートの上に仰向けに横たわっていた。それをゼロさんが相変わらずの無表情で覗いている。
「目覚めたか。勇者」
「……あれ?俺、また?」
またまた俺は気絶したらしい……いや、旅に出て以来、何度目になるだろうか。
「姫様より食料を頂いたというのに、すぐさま食べて寝るとは……不届き千万な奴だ」
エビゾーさんが怒っているが、寝た……という表現には少々の語弊がある。俺の意思とは別に意識は失われたのである。
「勇者は、どんな過酷な環境でも見事に眠るぞ。体力の消耗を防いでいるに違いない」
「……そういう考え方もありますね」
ゼロさんのフォローも的を得てはいない気がするが、そちらの方が面目がたちそうだから便乗してみた。精神的なものを犠牲にしても腹は膨れた訳で、それに関しては幸いである。そういや、ギザギザさんが食べ物について何か言ってたな。試しにエビゾーさんに聞いてみる。
「ギザギザさんが食べ物を求めて人間をおど……助けを求めていましたが、そんなに食料が不足しているのですか?」
「全部、ジ・ブーンの仕業だ。やつめ。手あたり次第に海の生き物を喰らっている!」
「はい。その為、海底は骨が積み上がり墓場より酷い有様。早くジ・ブーンを止めなくては、私どもの生きる場所は失われることでしょう」
エビゾーさんの台詞をルッカさんが継ぎ足し、なんとなくだが事の重大さが伝わって来た。にしても……なぜか姫様を狙う上、急に姿を消したり、謎の化け物たちを呼び出したり、挙句は海の生き物を喰らいつくす勢いのジ・ブーン。巨大な水流に守られた謎の場所。あれこれ謎である。不気味でならない……。
「……ルッカさん。ふたご岩が見えました。そろそろ、王国が近いでしょう」
「どのような危険が待ち受けているとも解りません。皆様、ご注意ください」
姫様が遠くの岩山を指示していて、ルッカさんに王国が近いことを教えている。今まで以上ボートのスピードを上げつつ、ルッカさんは水中へと視線を向けている。
「……おや」
「……えっと、どうしました?」
……不穏である。戸惑いがちにも、俺はルッカさんの『おや』について真意を問う。
「……どこにも見当たりません。海面からの入り口が。我が国のシンボル・シズマナキャッスルが」
「えええ?」
シズマナキャッスル……ッ!事の深刻さは伝わってこなかったが、妙に楽し気な城の名前だけは俺の脳裏に焼き付いた。
第38話の1へ続く






