『後日談』の3
「普段、自転車こぐぐらいしかやってない人が、短期間で猛特訓してもケガするのが関の山だろ?」
「まぁなあ。一理も二理もある」
「体育祭には競争だけじゃなくて、対戦競技もある。敵チームの様子を探りに行こう」
照也の言う事にゃ、敵を知ることが勝利のカギ……ってことらしい。どんな人が同じチームなのか、はたまた別のチームなのか知っておけば、当日の戦い方も変わってくるに違いない。放課後、俺は照也とゼロさんと学校を歩いてみることにした。
「テルヤアアァァ!今日、なにをするだああああぁぁぁぁぁぁ!」
「ヤチャ……俺、ちょっと野暮用だ。1時間したら校門でおち会おうぜ」
「おおおおおおおぉぉぉぉぉ!」
一応、対戦相手の視察に行く訳だし、ヤチャに来てもらうと悪目立ちし過ぎるかもしれないな。俺の用事が終わるまで、どこかで遊んでいてもらうと決めた。照也とゼロさんが別れ際にヤチャとハイタッチしたのに続いて、なんとなく俺もやってみたんだけど……手が大きすぎて体ごとはたかれた。肩がハズレそうになるくらい痛ぇ。
「照也。俺……やっぱりヤチャに憎まれてるのか?」
「安心しろ……俺も痛い」
照也の一言に安心しつつ、俺たちは学校の3階へと向かった。3階の廊下の奥の奥、隅っこの方には物置みたいな小部屋があって、そこの前に立って照也がドアをノックする。俺たちと同い歳の女の子がドアを開いた。
「はい……ああ、勇者さん。お久しぶりっす」
「どうも。俺とゼロさんと……魔王です」
「ども……魔王の友世です」
この子は……ミオさんだったな。ヒロインの1人らしいんだけど、会おうにもいる場所に規則性がなくて、なかなか会えないレアな人である。だから、俺の中では隠しキャラの可能性を考えている。それはともかく……照也が簡潔にミオさんへと要件を伝える。
「ミオさん。体育祭特集号って、もうできてます?」
「今、カルマ隊員が貼りに行ってるところっす。愛羅部の人たちは、今日は何用で?」
あいらぶ……愛羅部?I・LOVE?
「えっと……照也。愛羅部ってなんだ?」
「俺たちの部活だ」
「……なにする部だ?」
「……」
小声で聞いてみたところ、意味深な沈黙が返ってきた。そういや、俺たちがいる世界の作品タイトルって『愛羅部メモリーズ』なんだよな。改めて気づいたけども……愛羅部ってなんだ。メモリーズって、何をメモリーするんだ。全く解らない。怖くなってきた。考えないようにしよ。
「まあまあ、中にどうぞ」
ミオさんが俺たちを部屋に招いてくれる。連結させた勉強机には大量の紙の束が乗っている。掲示板や黒板にも文字がいっぱい。雰囲気からして、ここは新聞部らしいな。デスクの中央に広げてある大きな文字を指さし、ミオさんが見出しを読み上げた。
「エリザベス軍VS愛羅部部長。ついに体育祭で全面対決。これっす」
「へえ。俺以外にも、エリザベス先輩と対決するやつがいるんだなぁ」
「……」
など口をついて出たものの、みんなの視線が俺に向いているのに気づいた。俺、なんか変なこと言ったか?
「……」
もしや、この愛羅部の部長って……あれか?
「……俺?」
「うん」
照也とミオさんから、一瞬で答えが返された。なんと……俺は愛羅部の部長だったのか。で、それってなんなの?
「照也。愛羅部って……なに?」
「部活自体は、ただの設定の名残だから大した意味はなんだけど、改変前の世界で、部長のお前が言うはずだったセリフによると……」
「うむ」
「『真実の愛を見つける部』らしいぞ」
創設者も発案者も俺かよ……そして、死にたくなるほどアレなキャッチコピー。はずかしいなあ……おい。はずかしいよ。
『後日談』の4へ続く






