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第123話の4『ギャルゲー〇〇ポジションの俺が〇〇〇になってみたら』

 「……ええ?元通りったって、そんなの厳密に覚えてねぇよ!」

 「元の世界設定なら、大体は俺が憶えてる。細かなところは、お前に質問しながら書く」

 「……じゃあ……元の世界に戻れる……のか?」

 「……うん」

 「……家族や、学校の友達とも、また会えるんだよな?」


 この世界がバトルものになってしまうより前……恋愛アドベンチャーゲームの世界だった頃の記憶を持ってそうな人と、トチューの町で一度だけ出会ったのを憶えている。となれば、世界が書きかえられたことで、それにあわせて人々の設定も自然と改変されたと考えられる。


 「……」


 実際のところ、世界の改変なんてしてしまったら、どうなるか俺にも詳しく解らない。でも、このまま世界を消滅させる訳にもいかない。俺はメモ帳の空白となっているページを開き、物語の導入から順に文脈を書き連ねていった。


 「ええと……友世。学校って、ここの下の階にあった学校と同じでいいんだよな?」

 「大体、同じだと思う」

 「……学校の校門って、どのくらいの広さだったっけ?」

 「あー……車が2台は通れるくらいあったはずだけどな」


 俺は学校には行ったことがないから、そのあたりは友世の方が詳しい。俺が憶えている物語の全体的な設定と、その世界に実際に住んでいた友世の記憶、二人三脚でシナリオを修正していく。メモ帳の内容をひとまず保存してみたところで、世界に地震のような揺れが起こった。慎重に、誤字を出さずに作業を進める。


 「……」


 学園恋愛アドベンチャーゲームなので、主要な場所は学校と主人公の自宅、公園、喫茶店とか、ヒロインの家くらいなものだ。そこまで修正に時間はかからない。けれど……全てを元通りにしてしまうと、俺には不都合が生じてしまう。最も大事な部分へ着手する前に、俺は書く手を止めて静かに友世へと告げた。


 「なあ……1つ、頼みがあるんだ」

 「な……なんだよ」

 「……」


 どうしても、最後まで魔王にはなりきれなかった友世。だが、これからは俺がフォローしてあげられる。意を決して、俺は言葉を続けた。


 「お前に……恋愛アドベンチャーゲームの主人公を、やってほしいんだ」

 「……な」


 予想していなかったであろう俺の発言を受け、友世は返答できずに息を飲んでいた。彼は主人公の『友達』であって、主人公を務めるにあたっての知識なんて頭にはないはずだ。それは解ってる。だけど……。


 「俺、もう好きな人がいる。約束したから……恋愛アドベンチャーゲームの主人公は、できない。頼めるのは、もうお前しかいない」

 「……無理だよ。俺、魔王だって上手くできなかったし……無理だ」

 「頼む……」

 

 俺が主人公としての役目を引き継げば、様々なヒロインとお付き合いをすることになる。そうしたら、ゼロさんとは恋人ではいられない。それに、ゼロさんたちキメラは元から世界にいた人ではなく、バトルものの世界になってから生まれた人だ。最悪の場合、存在そのものがなかったことにされる恐れだってある。そんなの、俺はイヤだ。


 「俺が、お前の隣にいる。お前なら、必ず主人公になれる。頼む……」

 「……」


 俺を主人公の座から押し退けたように感じたのか、大役を前に心の準備ができていないのか。友世は泣きだしそうなのを必死でこらえている。俺は友達の手を強く握って、強く願いを伝えた。


 「……やってくれ」

 「……俺に……できるかな?」

 「……」

 「……解った。解った……俺、主人公になる」


 友世の決心を受けて、俺はメモ帳を開く。そして、『主人公』と仮書きしていた部分に、友世の名前を入れた。俺が友世の代わりに、親友の役目を引き継ぐ。ギャルゲー主人公と、友達ポジションの交換。こんなのきっと、他の作品でも滅多にない。どうなるかは、俺にも予想がつかない。


 「……できた」


 1時間くらいで、メモ帳には元の世界設定が蘇った。ただ、前とは少し違う部分がある。その分だけ慎重に慎重に、友世と2人で何度も読み直し、矛盾がないかどうか確認した。完璧だ。おかしな点は、もう見つからない。


 「……」

 「……」


 俺たちは2人、無言のまま互いに頷きだけを見せ合って、メモ帳へと視線を戻した。このメモ帳を保存して閉じれば、きっと世界は一気に形を変える。最後に1つずつ、俺たちは信頼を言葉にして伝えた。


 「友世……任せたぞ。お前が新・主人公だ」

 「主人公……照也。頼りにしてるぞ……親友」


 開いたままのメモ帳を俺が手渡し、受け取った友世が深呼吸をする。そして、静かに……ゆっくりと、メモ帳を閉じた。虹色のメモ帳から発せられた光が、世界を白く染めていく。すっと意識が遠のいていく。すぐに友世の姿も見えなくなった。がんばれ。友世。それに、みんな……新しい世界で、また会おう。


     ***


 目覚まし時計の音がしてる。俺は思いっきり手を伸ばして、やかましい音を止めた。再び眠ってしまう。


 「ほら、起きなさい!お母さん、もう会社に行くわよ!」


 部屋を勝手に開けて、母さんが俺を起こしにやってきた。母さんはスーツ姿で、すぐにでも出かけるみたいだ。俺は目覚まし時計の時刻を見て、あわててベッドから飛び起きた。


 「やばいじゃん!母さん、なんで起こしてくれなかったんだよ!」

 「何度も起こしたのに起きなかったんでしょ!カギは忘れずに閉めて学校いってね」


 もう時間がない。俺も急いで支度をして、ジャムパンを1個だけかじりながら家を出た。高校までは自転車で通ってる。立ちこぎでビュンビュンとスピードを出して、近道を選んで進んでいく。今日は天気がよくて助かった。空にはクジラが飛んでいる。遠くに大きな城が見えてくれば、学校までは近い。


 「おい、どうした。パンなんてくわえて」

 「お……おお!おはよう!」


 なんとか遅刻は免れることができそうだ。腕時計を見つつ自転車をこいでいたら、曲がり角で友達に呼び止められた。こいつは同じクラスの友達の照也だ。なにせ、女子更衣室ののぞきに俺を誘うくらい気概のあるやつだから、学校では敬意を表して『勇者』というあだ名で呼ばれている。俺の一番の友達だ。


 「いや、ちょっと寝過ごしてだな」

 「そうか。この時間に、ここまで来ていれば問題ないだろう」

 

 照也と一緒に歩いているのは、少し背の高い女の子で、俺を見て軽く会釈してくれている。あんまり口数も多くないから話したことはないけど、見た目は外国人っぽい。きっと照也の彼女だと思う。俺も、こういう可愛い女の子とお付き合いがしたいな。


 「テルヤァ!先に行く……ぞおおぉぉ!」


 照也に手を振りながら、空を飛んでいく筋肉ムキムキの人物。あちらも、俺と同じクラスのヤチャだ。身長は2メートルを余裕で超えていて、とても高校生には見えない姿なのだけど、体を鍛え過ぎるとああなるのかな。魔法で空を飛べるのは便利そうだ。


 「友世。一緒に学校、行こうぜ」

 「いいのか?彼女さんと一緒なのに」

 「いいよ。まあ……これから先、ずっと一緒にいられるし」


 照也から提案を受けて俺は自転車から降り、照也と照也の彼女さんと3人で歩き出した。道の向こうに大きな校門が見える。あそこが俺たちの学校だ。生徒会の面々が、生徒の素行や服装の検査を行っている。まだ今日は悪いこともしていないし、パンだけは完食してから学校の敷地に足を踏み入れた。


 「……ちょっと!あなた、待ちなさい!」


 校門をスルーしたあと、後ろから誰かに呼び止められた。照也が悪いことでもしたのか?でも、照也は俺の背後を指さしている。


 「……え?俺?」

 「あなたよ。あなた」


 振り返ってみたら、すぐ後ろに生徒会長が立っていた。学校一の美少女と噂の彼女が、俺の顔をじっくりのぞいている。


 「……顔にジャムをつけて登校なんて校則違反!早く取りなさい!」

 「……あ。ごめん」


 俺、ティッシュなんて持ってきてない。ハンカチもない。あとで顔を洗うとして、笑ってごまかそうとしていたら、生徒会長がポケットからハンカチを取り出した。


 「あ……今、カゼ気味な友達にティッシュは貸し出しているの。これでふきなさい」

 「え……でも」

 「返さなくていいから。しゃんとしなさいよね」


 そう言って、生徒会長は忙しそうに持ち場へと戻っていった。もらったハンカチは真っ白で、金色の刺繍が入っている。もらっちゃっていいような安物には見えない。


 「よかったじゃん」

 「……」


 照也がティッシュを1枚、俺に差し出しながら笑っている。ハンカチ、返しに行こうか。ただ、今は生徒会の仕事をしていて取り合ってくれなさそうだし、俺はキレイなままのハンカチをポケットにしまった。


 「……」


 ドキドキする。これって、恋の予感なのかな。まだよく解んないけど……そうだといいな。よし!俺も甘酸っぱいスクールライフを目指して、今日も1日、がんばるぞ!


おわりかな?

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