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第123話の3『改変計画』

 「……ええと」


 俺が命を取りに来たわけでないと知って安堵したからか、更に友世の涙はとめどない。お話をしようにも呼吸がえぐついているので、それがおさまるまで引き続き俺は設定資料をながめている。


 「主人公が世界中の殺し屋と戦うバトルアクションか……」


 この世界の元となったバトル漫画の物語は、世界中の殺し屋と戦うという内容のものだ。一応、魔法というものの概念があったり、四天王の特徴がボスキャラと共通していたりはするが、かなり整合性を取るために改変されている。友世も自分なりに、うまくまとめようと頑張った形跡は見られる。


 「……ああ。魔王のポジションがいないから、友世が自分でやるしかなかったのか」

 「……そうなんだよ。勇者を殺さないといけないから、でも俺にできるわけないじゃん」


 友世自身には勇者殺しをする勇気がないから、魔王になりきりつつ俺に刺客を差し向けていたのか。考えてみれば、バトルものにしてはパワーインフレが激しくなかったし、敵対した人たちも強かったけど倒せないほどではなかった。それって、あちらの親切心だったのか……んん?


 『俺もモテたかった。女の子と仲良くなりたい』


 虹色のメモ帳に書かれている内容の片隅に、ただの友世の願望らしきものが書いてあった。こうして見ると、遺書みたいだな……なお、理想のヒロイン像なんかも書かれているけど、特徴が漠然としていて姿が想像できない。おそらく、それらは夢子さんやエリザベスさん、生徒会長のことを差しているものと思われる。


 「友世……お前、女の子大好きだな……」

 「ああ……否定できねぇ……俺はスケベだ」

 

 ちなみに、俺も人のことを言えた義理ではない。やっぱり恋愛アドベンチャーゲームの友達ポジションの人も、ヒロインと仲良くなりたい願望はあるようである。まあ、周りに可愛い子が大勢いる環境でなんとも思わなかったら、それはそれで別の目的がありそうで心配になる……。


 『……こえるか?』

 「……?」


 今、どこかから女の人の声が聞こえた気がした。この空間に、俺と友世以外に誰かいるのか?


 『聞こえるか?』

 「……」


 ぼやっとした声なのだけど、これ……俺を呼んでるんじゃないか?友世も声の主を知らないようで、どこから聞こえているのかと探している。下だ……友世の下の辺りから聞こえる。


 「……主人公。ここから声がするぞ」

 「……?」


 友世が自分の流した涙の水たまりを指さしている。そこから声が聞こえる。通信か?


 「……まさか!」


 この声……ゼロさんか?無事だったのか!俺ははいつくばるようにして、小さな水たまりの中へと目をこらした。ぼんやりとした映像が、涙の中に表示される。この顔は……。


 『おお!勇者!わらわじゃ。大・賢・者』

 「……」

 『見るからに残念そうな顔をするでない』


 魔王との最終決戦を終えたクライマックスである今この時。聞こえてくるとしたら、ヒロインの声と相場が決まっているであろう。なのに、声の正体は大賢者様であり、現れたのは呑気そうなキツネの顔。可愛いことは可愛いけど、それはまあ残念である。

 

 『みなも、ここにおるのだぞ。せっかく連絡してやったのに、そのような態度でよいのか?』

 「みんな……ですか?」

 『テルヤ!』


 今度は正真正銘、ゼロさんの声だ。キツネさんの顔が退いて、見慣れた無表情な顔が映り込む。


 「ゼロさん!みんな、無事なんですか!」

 『精霊様も、ヤチャも仙人もゴウも、あとの人も全員、無事だ。大賢者様……とおっしゃる方が、ペンダントの力を探知して通信を繋げてくれた』


 そうか。運命のペンダントの魔力を頼りに、大賢者様が通信を試みてくれたのか。ということは、あの魔力のない島にみんなは飛ばされたのだろうか。今度は仙人の犬顔がヌッと横から現れた。


 『勇者よ!魔王はどうした!』

 「魔王は……倒しました」

 『そ……そうか。こちらは緊急事態が続いている。セントリアルの衆が繋ぎとめてくれているが、世界は崩壊寸前だ。戻ってこられるか?』


 魔王が勇者に倒されて、本格的に世界がエンディングへと向かっている。このままじゃ、俺が戻ったところで、早かれ遅かれ世界は終わりだ……いや、世界を救う方法は、まだある。乱れ始めている映像の中へ、俺は最後の頼みを告げた。


 「仙人……俺、魔王と一緒に世界を直します」

 『そんなことができるのか?』

 「かなり世界は変わってしまうと思います。俺たちが次に会う時は……今とは違うかたちになる……と思います。それを世界の、みんなに伝えてください」

 『……テルヤ』


 再びゼロさんが顔をのぞかせた。


 『また……会えるのか?』

 「……絶対、戻ります」

 『……わかった』


 そこまで伝えたところで、床に落ちていた涙が乾いて、映像が途切れてしまった。やるしかない。俺はボールペンを拾い上げ、力いっぱいの声で友世に告げた。


 「友世!やるぞ!」

 「……なにを?」

 「……俺たちで世界を完璧に……元通りに書き直す!」



第123話の4へ続く

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