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第123話の1『空虚』

 《 前回までのあらすじ 》


 俺、時命照也ときめいてるやはギャルゲー主人公なのだが、なぜだかバトル漫画っぽい世界に飛ばされてしまう。学校内で生徒会長との戦闘が終わり、一緒に旅をしてきたゼロさんが消えた。


 静かだ。目の前には部屋の全てをはがし取られて、何もなくなった真っ白な生徒会室。俺たちが進んできた廊下は崩壊している。窓の外には雲一つない青空がのぞいていて、4階にいるはずなのに妙に景色が低い。


 「……」


 窓から下をのぞいてみた。学校の校庭、体育館、それと……学校の1階から3階が消滅しており、4階が実質的な1階になっている。学校の周囲ぶは工事現場と見間違うような、デコボコした地面が広がる。ヤチャや仙人、ゴウさんの姿も見えない。


 窓から校庭に出て、学校の下をのぞいてみる。壊れた学校のガレキもなく、4階の下には隙間すらない。学校が壊れたというよりは、学校全体が何かに飲み込まれて沈んだ様子だ。ヤチャたちもゼロさんと同じく、どこかへ飛ばされてしまったと考えられる。


 敵もいない。仲間もいない。この空間には今、俺しかいない。まだ壊れていない廊下を通って、階段へと向かう。慎重に段へ足をかけ、屋上へ出るためのドアの前までやって来た。ドアに掛かっていた鎖や南京錠は全て消えている。この先に……本当の魔王城がある。一度だけ深呼吸をしてから、俺は大きな金属製のドアについているレバーを引いた。


 「……」


 大して力も必要なく、きしみも出さずにドアが開いた。屋上にあるはずの青い空は……見えない。ここは一軒家の入り口、一般家庭の玄関がある。クツを脱ぐ場所があり、その先はフローリングの床を敷いた廊下。2階へ続く狭い階段もある。土足で、でも物音は立てないよう進み、手前にあるトビラを開いてみた。リビングだ。キッチンもある。


 ……間取りから見て、俺の住むはずだった家ではないな。冷蔵庫を開いてみる。牛乳や卵、ハムなどもあって、賞味期限も見たところは問題ない。おいしそうだったのでいただきたかったが、人の家……魔王城で盗み食いをして、お腹を壊して魔王を倒せませんでしたでは、みんなに示しがつかない。冷気だけをいただいて、冷蔵庫をパタンと閉めた。


 「……」


 魔王の正体に、目星はついている。だとすれば、あいつがいるのは、自分のテリトリーだ。俺はリビングを出て、2階へと続く階段を踏みしめた。2階には部屋が3つある。俺は迷わず、一番奥のトビラの前に立つ。ノックはしない。足の震えが収まるのを待って、ゆっくりとトビラを開いた。


 「……」

 「……」


 室内は暗い。広さも解らない。宇宙のような場所だ。真っ赤な太陽が、黒い空間の奥に浮かんでいる。足元には灰色の床がある。俺は部屋へと踏み込み、部屋の向こう側にいる人影を見据えた。


 「……おい!」


 俺の呼びかけが部屋にエコーをかけて、遠くにいる人物が俺の方へと向き直った。黒いマントを頭からすっぽりと被って、真っ白な仮面をつけている。俺の存在に気づくと、そいつは逃げ腰な様子であとずさり、紙とペンのようなものを手に持って構えた。


 「しゅ……主人公……」

 

 若い男の声がする。そいつが紙に何かを書きつづると、宇宙空間にビーム砲やピストル、ミサイル、危険そうな射撃道具の数々が浮かび出た。それらの全てが、俺の方を向いている。でも、俺は物怖じせず、初めて会った悪友への呼びかけを続けた。あいつは間違いない。恋愛アドベンチャーゲームの世界で出会うはずだったであろう、親友と呼べる人物だ。


 「親友が、ここまで会いに来たぞ!なあ、心野友世こころのともよ!」

 「お前なんか……知らない!しゅじんこう……く……来るな!」


 魔王の背後で、国ごと吹き飛ばせそうなほどの巨大なミサイルが飛び立った。光線や弾丸が、俺に向けて発射される。俺は拳を握り閉め、全力で魔王の元へと駆け出した。攻撃の雨嵐だ。だけど、どれも俺には当たらない。あいつに人を殺す勇気はない。それが、ここまで勇者をやってきた俺には解っている。


 「き……消えろ。消えろ!しゅじんこう!」

 「俺は勇者やりとげたぞ!お前も魔王なら、俺が殺してみろおおおおおぉぉぉ!」

 「あ……あ……あああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」


 あれだけ遠くに感じていた魔王との距離は、実際は畳6枚ほどの近さだ。グッと握った右手を大きく振りかぶり、仮面を打ち破るがごとく、俺は魔王の顔面に拳を叩き込んだ。


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