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第122話の10『ゼロさん』

 『魔王城には行かせない……お前たちには、ここで退却してもらおう!』


 どこかから、女性らしい声が聞こえてきた。俺たちの走るすぐ後ろには黒い空間が追ってきており、学校が崩壊しガレキとなって吸い込まれていく。これに飲まれたら、きっと魔王には会いに行けないだろう。


 「……?」


 待てよ。さっき……誰かの声は、『魔王城には行かせない』って言ったよな?ここが魔王城じゃないのか?とすれば、この場所を全て壊してしまえば、魔王城への道のりも途絶える。早く生徒会長の本体を倒さないといけない……。


 「……ッ!テルヤ!危ない!」

 「……!」


 学校の4階へ到達し、俺たちは立ち止まらずに廊下へと出る。白いナイフらしきものが飛んできた。俺を助けようとして、ゼロさんの腕にナイフが突き刺さる。


 「ゼロさん!」

 「……目的地は?」

 「あ……あっちです!」

 「行こう」


 そうだ。後ろにも脅威が迫っている。立ち止まっている暇はない。ゼロさんは俺の指さした方向へ駆けだした。ゼロさんの腕からは、真っ赤な血が流れ出している。ナイフには血が……血が……しみ込んでいる。形もペラペラだ。何か文字がびっしりと書かれている。


 『お前はスカートが短いな。追加で校則違反、1点減点だ』

 「……?」


 ゼロさんの腕に刺さった紙がはじけ、校則違反が取られた。さっきの文字といい、これは……生徒手帳の切れはしか!ゼロさんのスカートが膝上なのが裏目に出た。俺のミスだ。いや、そんなことを考えている場合ではない!また紙のナイフが正面から飛んでくる。


 「……ッ!」


 ゼロさんが俺をかばいながら、壁の影に隠れて紙のナイフを回避する。もう、生徒会室まではあと少しだ。だが、恐らくゼロさんは残り1点で退場。後ろには全てを飲み込む暗黒空間が迫っている。どうする……あっ!


 「よし……これだ!」


 目の前に消火器の箱がある!こんなの使ったことはないけど、とにかくやるしかない。箱を開いて中から消火器を取り出し、上についているピンを外す。


 「出た!」


 水ではない。粉らしきものが、ホースの先から勢いよく噴き出す。敵の攻撃が金属ではなく紙であるならば、これで吹き飛ばせるかもしれない。


 「よぉし!いけぇ!」


 粉まみれの視界の中、ホースをメチャクチャ振り回しながら俺は走り出した。敵の攻撃が飛んで来ないよう祈りながら走るも、俺の快進撃は10秒ちょっとで終了した。消火器の粉が尽きたのだ。


 「……ゼロさん!あそこです!」


 なんとか、敵からの攻撃を受けることもなく、生徒会室前まで到着した。扉は開いている。後ろに迫っていたブラックホールは……なぜか少し離れた場所で止まっている。


 『ようこそ。不良生徒。私が……会長様だよ』


 生徒会長室の壁にはびっしりとカメラが設置されており、部屋の奥にある会長のデスクには望遠鏡にも似た形の、不気味で大きなカメラが乗っていた。声は、その大きなカメラから聞こえてくる。


 『魔王様の平穏を乱す不法侵入者。排除する』


 部屋の壁にある監視カメラから赤い光線が発射され、問題点を探すようにしてゼロさんの体に照射する。体を一通り確認し、最後に真っ赤なライトが顔を照らした。


 『髪の装飾品が派手すぎる……校則違反だ!消え去れ!』


 俺がゼロさんにあげた髪飾りが、会長は気にくわなかったらしい。また紙のナイフが飛んでくる。咄嗟に俺は前へ出て、紙切れへと消火器を投げつけた。何枚かの紙きれを落としたが、1枚が俺のほほを切った。


 「……いてぇ!」

 「テルヤ!」


 紙のナイフで首を切り飛ばされずに済んだのは幸いだが……ほほから血が流れ出ているのが解る。でも、ゼロさんは残り1点で学校から排除される。もう彼女には攻撃を通させるわけにはいかない。どうする……どうしたらいい。


 「……」

 

 ゼロさんが俺の顔についた傷……血を手で押さえる。その血の色を見たゼロさんは、あまり今まで見せたことがないような、激昂の色を露わとした。


 「ああああ……あああああああああぁぁぁぁぁぁ!」

 「ゼロさん!ダメだ!」


 デスクに乗っている大きなカメラへ向けて、ゼロさんが殴り掛かっていく。壁についている監視カメラが一斉にゼロさんへと向き、押しつぶすがごとく飛びかかった。もう、部屋の中に見えるのは黒くうごめくカメラの集合体で、ゼロさんの姿は全く見えない。


 『これで減点。お前は退学だ……』


 生徒会長の声がする。俺も駆け寄ろうとしたが……何か、様子がおかしい。大量の監視カメラが、機械のカタマリの中へと引き込まれていく。


 『……その手を放せ!』

 「あああああああああぁぁぁぁぁぁ!」


 ゼロさんの声。監視カメラの中から、ゼロさんの腕が突き出す。血だらけだ。そんなケガだらけの手でも、カメラをつかんで離さない。


 『退学処分はお前だ!私は……』

 「テルヤ……すまない」

 「……ゼロさん!」

 「……」


 生徒会室の中央に黒い穴が浮かび、その中へとカメラごと、デスク……壁紙……床板……部屋の全てが吸い込まれていく。あとに残ったのは、真っ白な部屋だ。そこには、ゼロさんの姿も見当たらなかった。


 「ゼロさん……」


 学校の窓の外には、青空が見えてくる。夜が明けて、朝がやってきた。


第123話へ続く

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