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第122話の9『ここは俺に任せて先に行け』

 今、俺たちが直面しているものは、重くて大きい障害物とか、そういうレベルのもんじゃない。建物……それも、学校が勢いよく落ちてくる。君は学校を真下から見た事があるだろうか。絶対ないだろう。いやもう、死ぬくらい怖い。


 「止める……止めます」


 ゴウさんが分厚く広い光の板を作り、上空から迫る学校へと撃ち飛ばした。あれで止まるのか?とま……いや、止まらない!やや学校の落下速度はおさえたが、すぐに光の板は割れてしまった。続けざまに障壁を3枚を用意するが、全て壊れて消えてしまう。逃げようにも、学校が大きすぎて逃げ場はない。


 「……くっ!」


 空気ごと押しつぶされそうな圧迫感の中、俺は対抗策もなく目を閉じた。あまりの恐怖に、自分が死んだのかどうかすら解らなかった。学校の落ちてくるズゴゴという音が止まった。どうなったんだ?


 「……!」


 俺のすぐ頭の上で、学校が止まっている。大きく張られた光の板へと両手をつけ、ヤチャと仙人が学校を支えている。


 「ヤチャ!仙人!」

 「……ううううおおおおぉぉぉ!」

 「テルヤアァァァァァ!無事……かあああぁぁぁぁ!」


 2人が両手、頭を使って学校を止めてくれている。ゴウさんも2人が力をかけやすいよう、常に手から魔力を送り込み、光の板を補強している。だが、学校は完全に止まっていない。ゴウさん、ヤチャ、仙人の足が、どんどんと地面に押し込まれていく。ゼロさんが協力しようと動くが、すぐに仙人から声で制止された。


 「いい!勇者と行け!」

 「……」

 「わしらが潰されぬ内に、本体をやれ!」

 「……わ……わかった。テルヤ」


 ゴウさん、仙人、ヤチャ、誰か1人でも手を離しても一巻の終わりだ。今なお、学校の落下する力は増しているように見えるし、ゼロさんが加勢して助かる保証はない。ならば、仙人の作戦は的確だと俺も思う。俺は3人に呼びかけつつ駆け出した。


 「必ず、倒します!持ちこたえてください!」

 「……はああああああぁぁぁぁぁぁ!」


 もう話しているのも辛いようで、3人とも返事はできそうにない。ただ、一層の気合を入れるようにして、大きな叫び声をあげた。その声に背を押され、俺とゼロさんは学校の下から抜け出すべく走る。


 もう学校の底は俺たちの頭の上にあり、どちらに玄関があるのか解らない。いや、もう考えている時間だってない。俺は学校からあふれた光を頼りに走り出した。


 「ええと……ここは……」


 学校の下から抜け出し、真っ赤な光が漏れ出ている窓を見上げる。ここは……俺たちが校庭に出た場所に近い。だが、学校全体が2メートルほど浮いてるから、俺だけの力では登れない。


 「あの窓から入りましょう!」

 「了解!」


 すぐに了見をくみとり、ゼロさんが俺を抱えて窓のフチへと飛び上がってくれた。開いている窓を飛びぬけ、廊下へと着地する。その瞬間、ズンと学校全体が少し……下がった気がした。


 「……」


 ヤチャたち……大丈夫だろうか。心配になりながらも、俺はゼロさんの腕から降りて床をゆっくりと踏む。さあ、早く生徒会長を探してやっつけねば。生徒会長の本体がいそうな場所は……。


 「テルヤ。これから、どこへ向かう」

 

 ゼロさんから質問を受ける。図書室に潜んでいた小和井夢子は、図書委員だったはずだ。体育館で戦ったエリザベスは、確か運動部である。じゃあ、生徒会長のいる場所は……自然と答えが出る。生徒会室だ!


 「4階へ向かいます。階段は……あっちだ!」


 現在地から最も近い階段を頭の中で導き出し、俺はゼロさんを案内するようにして走り出した。今のところ敵の姿はない。階段を2段飛ばしで駆けあがる。


 「……テルヤ!後ろ!」

 「……?」


 ゼロさんの声を受け、踊り場に差し掛かった際に俺は後方を確認した。


 「……ッ!」


 階段が……いや、学校が下の方から、ブラックホールみたいなものに飲み込まれて消えていく!なんだあれは!と……とにかく、走れ!危機感を胸に、俺は考えるより先に足を動かした。

 

第122話の10へ続く

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