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第37話の2『老人』

 ルッカさんがボートの進む勢いをゆるめつつ、明け方の大海原にある何かを指さしている。謎の老人……とすると、仙人か?眠い目を頑張って開きつつも、ルッカさんのいう老人を目撃した。


 「仙人……な……ッ!」


 う……浮いている。座禅をくんだ老人が、水面から少し上に!後光がさしている!朝日だぜ!


 「ありゃあ……神!海の神を見たぞ!」

 「エビゾー殿……落ち着きましょう。あれは人です」


 あまりにも神々しい光景だった為、俺も一瞬だけ八百万なにかしらの神様かと思った。まあ、その正体はルッカさんの言う通りである。エビゾーさんがヤリの尖っていない方を仙人に向けており、それで小突かれると仙人は少しよろけて見せたりしている。


 (やめるのだ……やめるのだ……突くのは)

 「なんと……頭の中に直接……声が!」

 「仙人……よかった。無事だったんですね」

 「お前の知り合いか!となれば、信用おけん!」

 「エビゾーさん……俺のことはともかく、彼は無害な人物です」


 さっきまで神とか海の神とか言っていたエビゾーさんが我を取り戻し、今度は一転して仙人ににもキビシイ……。


 「解らんぞ!衝撃波を出したり、空を自在にを飛んだりするかも解らん!姫様に危険人物は近づけさせんぞ!」


 「それはしますが、彼は無害な人物です……」


 「ええ!?するの!?」


 (早く乗せてくれ……早く……)


 仙人がプルプルと痙攣を始めたので、エビゾーさんとの押し問答を速めに切り上げ、仙人をボートへ乗せてあげる。仙人の体が濡れていないところから察するに、イカダを投げ出されてから延々と空中に浮かび続けていたのだろうか。その体には血管が浮き出ていて血色はいいが、したたる汗は玉である。


 「ふぁっひゃやほいいぃ」

 「実は、色々とありまして……」


 姫様たちの一行と知り合った経緯について語ると、仙人は納得した……ような声で返答する。その後、彼は安心したのかボートの後ろの方で体を横にした。仙人の話も聴きたいとは思ったが、とても疲れているのが見て取れる上、入れ歯がないから無理強いするのはやめた。


 「出発進行いたします」


 ジ・ブーンに追われている可能性を踏まえて、仙人を乗せた後もルッカさんはボートを大きく旋回移動させていたのだが、仙人が一息ついたのを見て再び王国へのルートへ戻る。その最中、俺と仙人の腹が同時に鳴ってしまい、無意識に空腹を訴えることとなった。


 「ボートの後部にあるフタを開いていただけば、幾らかの非常食がございます。よろしければ、姫様。皆様と、ご一緒に召し上がってください」


 「いただきましょう。勇者様、出していただけますか?」


 「よろこんで」


 ルッカさんの言った通りボートの後ろ側には取っ手がついており、そこを持って引き上げると中には釣り竿やらバケツやら、様々なものがキレイに整理収納されていた。その奥に何か……貝みたいなものが見え、それを俺は四つ取り出した。


 「……ルッカさん。これでいいんですか?」

 「ええ。よく熟していると思われます」


 よく熟して?魚人間用の食糧ということは原材料は海産物だと思われるが、貝って熟すものだったかな?一抹の不安をおぼえつつも、爪をひっかけて俺は貝の開封。あ……ヤバい!わずかに引っ張り開けた貝を閉じると、ボートの中に溜まっている海水へと突っ込んだ。


 「……残念ですが、これは既に食べ物ではない」

 「お前、なにを言っているか。いいから出せ!」

 「エビゾーさん!やめましょうよ……やめましょう。ね?」


 この臭い。ちょっと嗅いだだけで目まいがする。しかし、無情にもエビゾーさんは俺から貝殻を奪い取って、灰色かつデロデロの何かを中から引きずり出した。その途端、腐ったタマゴを腐らせたような臭いが広がり、俺はゼロさんをつれて風上へ避難した。すぐさまルッカさんに苦情を入れる。


 「冗談は勘弁して頂きたい……あのセメントは食べ物ではないでしょう」


 「セメントについては存じあげませんが、あちらは伝統的な保存食・ゲッチャグッチャチャでございます。希少な深海魚・グロ魚は腐敗する程にコクが増し、毒味は注入されたアテロギクサン水により取り除かれますので、安心して召し上がれ」


 「単語の一つ一つが食欲をかきたてますね……」


 もちろん、そう言っているそばから食べ物の臭いと、聞こえてくる単語単語の凄まじいアクセントで俺がかすんでいる。まあ、見た目がアレでも納豆みたいなものだと思えば気は和らぐが、既に俺はゼロさんの手をにぎることに集中しており、一種の現実逃避に励んでいる。


 「勇者様。どうぞ、こちらを」


 マリナ姫が開いた貝を俺の方へ差し出している。姫の見た目はルルルと年齢として大差ないが、とても凛として気品がある。女の子に差し出されたものは残さず食べる。恋愛アドベンチャーゲーム主人公としてのプライドにかけて、俺は貝の中身を飲み干した。


 「……」


 その後のことは憶えていない。たぶん、またアレだ……おなじみの気絶だな。


第37話の3へ続く

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