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第122話の8『呼びかけ』

 「みんな!建物へ避難しよう!」


 提案ながらにゼロさんは俺の手を引くのだが、すでに体育館はヤチャの遥か頭上へと持ちあがっている。今からじゃ逃げても間に合わない。敵に取り込まれたヤチャの姿を見上げる。一瞬、あちらの動きが止まったのが解った。目が合った気がする。


 「……」


 ルルルが洗脳された時は、大きな音で目を覚ました。ヤチャだって、なにか切っ掛けがあれば……俺が考え始めたその時、世界は時間を止めた。目の前にウィンドウが開いた。


 『洗脳されたヤチャへ、勇者は……どうする』


 これが出たということは、きっと選択肢の能力だ。おそらく、ここで行動を誤れば、冒険はおしまいである。止まった時間の中、流れない冷や汗を感じながら、俺は次のメッセージを待った。


 『1・優しく声をかける 2・叱る 3・笑って見せる 4・怒る 5・バカにする』


 コンテニューがない今、ここで負けるわけにはいかない。それ以上に……旅立ちから、ずっと共に歩んできたヤチャが、俺を信じきれていなかった事実が。それを敵に利用されているという現状が、俺には納得できなかった。


 ゼロさんや仙人、ルルルやグロウ……ゴウさん、旅の中で出会った人たち、みんな俺の仲間だ。でも、この世界に来て初めて出会ったやつは、一緒に旅に出た仲間は1人だけだ。確かにゼロさんと出会って、俺の態度や気持ちの矛先が露骨だったのは間違いない。ヤチャが悪い訳じゃない。


 「……」


 俺に『叱る』資格はないだろう。自分の能力だって、うまくヤチャに説明できなかったし、ヤチャの力ばかり頼りにして行動したことだってある。だから、ここで俺が伝えられるのは……恋愛アドベンチャーゲームの主人公としての頭が抜けず、友情ではなく恋愛にばかりかまけていた俺への、ヤチャを利用して俺たちに敵対させている化け物への、『怒り』だと思う。


 「……」


 俺は……今までヤチャへ、気休めの冗談や、優しい言葉しかかけてこなかった。だから、ちゃんと伝えられるだろうか。少し緊張する。大きく呼吸する心の準備をして、俺の一方的な気持ちの押しつけであるのを自覚しつつ、次の行動へ向けて選択肢を選んだ。


 『4・怒る!』


 世界が動き出す。それと同時に息を吸い込み、肺が裂けるほどの声でヤチャに呼び掛けた。


 「ヤチャ……バカ野郎!」

 『……!』


 ヤチャが俺の言葉によろめいた。正直な気持ち。友情の話。それを俺は続けて叫ぶ。


 「俺とお前は……」

 『……うう』

 「この世界で一番の親友だろうが!」

 『……うおおおおおおおおおおおおぉぉぉ!』


 抱え上げていた体育館を後方へと落とし、ヤチャが頭を抱えてうろたえ始める。体を覆っていた黒い機械はボロボロとはがれ落ち、校庭に散らばって砂のように消えていく。黒いロボットの腹部から、裸のヤチャが力なく体を落とす。あんな高いところから落下したら危険だ。


 「ヤチャ……ぐっ!」

 

 一目散に駆けだした俺と仙人が、2人でヤチャの大きな体を受け止めた。いや、俺の非力は役に立ってはいないかもしれない。実質、救助したのは仙人だろう……けど、ちゃんと届いてよかった。今にも泣きだしそうな声で、ヤチャが俺に返事をくれる。


 「テルヤァ……ごめん」

 「悪いのは敵と……不甲斐ない俺だ。気にするなよ」


 これで偽物は全ていなくなった。あとは生徒会長を探して倒さねば……と俺が頭を働かせ始める。どこかで、ズガンと大きな音が聞こえた。なんの音だ?違和感……校庭が広がった気もする。なぜか、月の光が見えない。


 「テルヤ!上だ!」


 ゼロさんが上へと人差し指を向けている。俺も上を見る。そこには巨大な天井があった。でも、ここは野外だし……じゃあ、上にあるのは……何だ?


 「……?」


 体育館は向こうに転がっている。どんどん天井が近づいてくる。そういえば…ッ!が……学校がなくなってる!とすると、あれは……まさか。


 「が……学校だ!うああああああぁぁぁぁ!」


 高くへと飛び上がった学校が、俺たち目掛けて落下してくる!逃げられない!潰される!


第122話の9へ続く

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