第122話の7『混乱』
「……ルルル?どこだ?」
砂嵐も弱まり、もう視界はよくなってきている。だが、ルルルの姿は見えない。砂嵐から飛び出し、襲い掛かってきた敵の姿も跡形もなく消えていた。ルルルを探している俺のところへ、偽物のルルルを倒したゴウさんとゼロさんもかけつけてくれる。
「テルヤ。精霊様は」
「……消えた」
俺の代わりに、ルルルは敵の攻撃を受けて、点数が0になって退学処分になったと考えた。しかし、どこへ行ったのだろう。俺のように殺すとは言われていないのだから生きてはいる……いや、生きていてほしいが、痛い思いをしてはいないだろうか。心配だ……。
「うらぁ!魔旋流波・青嵐!」
「チョキチョキスラッシュ!」
グロウは黒い風の魔法を飛ばし、仙人も爪の刃で必殺の一撃を放ち、2人は自分の偽物をかき消した。なんとか勝利はしたようだが、2人とも体には切り傷や血の痕が見え、減点は取られていると予想される。あとは……。
『勇者は、お前を利用している!お前の方が強い!どうして気づかない!』
「オレサマは……オレサマ……そんなことないぞおおおおおおぉぉぉ!」
ヤチャが敵の声に耳をふさいでいる。我が強く何でも自己解決できるグロウや、それなりに長く生きている仙人と違って、ヤチャはゴツゴツの見た目に反して心は少年だ。ルルルも心のスキをつかれて、同じように惑わされてしまった。
「ヤチャ!」
そうはさせない。俺は苦戦しているヤチャの元へと走り出した。
「テ……テルヤ……く……くるなぁ!」
ヤチャの体から魔力の爆発が起こり、俺は後ろ向きに転がる形で吹き飛ばされた。ケガをするより先、ゼロさんとゴウさんが俺を受け止めてくれる。すぐに立ち上がってヤチャの元へ向かおうとするが、俺が見た時にはすでに敵はヤチャの体へと噛みついていた。
「ヤチャ……ッ!」
ヤチャの体が敵に取り込まれる……敵の姿が黒い監視カメラの集合体みたいなものへと変化し、ガチャガチャとヤチャの肉体に付着していく。ヤチャの力を利用しようとしているのか。
「テルヤァ……」
ヤチャにまとわりついた黒い鉄のカタマリが変形し、まがまがしいロボットのようなものができあがる。さっき俺は近づこうとして、一度はヤチャに拒絶された。それもあって、俺はかける言葉がすぐには見つからなかった。
「……丁度いい。あいつにゃ苦い思いをさせられたままだしな」
「グロウ……何をするんだ?」
「試合だ試合。命までは取らねぇよ」
立ち尽くしている俺の代わりに、グロウが服のたもとへ手を入れながら前に出た。苦い思いというか……グロウはヤチャを食べて吐いたし、天空闘技場の勇者決定戦でも2人は当たらなかったから、ここで改めて手合わせしてみたい気持ちがあるのかもしれない。
『テルヤァ……おおおおぉぉ!』
学校すら叩き潰せそうなデカい拳を振り上げ、ヤチャは俺たちにパンチを向けてきた。その大きさ……風圧だけで押しつぶされそうだ。臆することなくグロウは飛び上がり、カラスの姿に変身しつつ拳の上すれすれにすりぬける。
「空絶螺旋斬!」
『……ッ!』
刀を構えた素振りすら俺にはうかがえなかったが、ヤチャを取り込んだロボットの黒い拳が、手首の辺りからスッパリと斬り落とされ、バラバラになって校庭に落ちる。巨大化したとはいえ、ヤチャ自体が大きくなったわけじゃなくて、内部動力として使われているように見える。
グロウは宙に刀を投げ出しながら、ヤチャの周りを飛び回っている。刀は黒い風を放ちつつ空中で高速回転していて、ヤチャが俺たちに近づこうとすれば、体に付着した黒い金属が削り取られる。ヤチャの後ろには体育館がある。前と左右はグロウの刀が道をふさいでいる。
「一撃で野郎を斬り出してやる!」
完全にヤチャの逃げ場を断ち、グロウが人の姿に戻りながら上空へと高く飛び上がった。下向きに立てた大きな刀身が、赤いライトに照らされてギラギラ光っている。
「喰らえッ!魔天牢獄斬!」
一直線。監視カメラのような敵に取り込まれているヤチャの頭へ目掛けて、刀を構えたグロウを急落下してくる。
「……ッ!」
敵に取り込まれロボットの姿となったヤチャが、背後にある体育館を両腕で抱え上げる。そして……持ち上げると同時に、それをグロウへと叩きつけた。
『うああああああぁぁぁぁ!』
「なにィ!」
体育館をぶつけられ、刀が砕け散る。バラバラになった鉄の破片と共に、グロウの体がはたき落とされる。すかさず、斬り落とされた敵の片腕に大きな口が開き、グロウの体を丸のみにしてしまった。
「ぐ……グロウ!」
俺の叫びに返事をくれる間もなく、グロウの姿は見えなくなってしまった。敵に飲み込まれたヤチャが再び体育館を持ち上げている。
『テルヤァ……うおおおおおおおおおぉぉぉぉ!』
あんなのを落とされたら、俺たちに助かる見込みなんてない。ど……どうする。
第122話の8へ続く






