第122話の5『罵詈雑言』
「魔弾掌!」
ゴウさんが勢いよく手のひらを押し出し、広い衝撃波を放った。俺たちを囲んでいる砂嵐をゆがませるくらいはできるのだが、穴を開けるには至らない。突破口も敵の姿も見えぬまま、風の音にまじって声が聞こえてくる。
『あなたは私。私はあなた。自分を見つめなおして……いましめなさい』
偽物のルルルの声だ。こちらへ語り掛けてくる。それと同時に、何かが砂嵐から飛び出してくる。
「……ッ!」
とっさにゴウさんが攻撃の気配を察知し、背中を盾にしてルルルをかばってくれる。ゴウさんを襲った何かは、目にと止まらぬ速さで再び砂嵐の中へと戻っていく。
「ゴウさん!」
「ぐう……」
『ほら。あなたをかばって、仲間が傷ついたわ。その人は、情けないあなたに代わって減点よ』
「……うう」
さっきのは敵の攻撃だったらしい。だとしたら、ゴウさんばかりに防御を任せてしまうと、減点が重なって危険だ。ここはダメージを分散した方がいい……とは思うが、背中を曲げてかたまっているゴウさんを見た限り、俺が生身で攻撃を受けるのは危険と見える。
「ルルル!防御の魔法とか使えないか?」
『ほら。できないわよね?いつも守ってもらってばかり……役立たずの、空気の精霊』
「……」
俺の大声を受けても、ルルルは杖を握ったまま、うつむいている。精神攻撃か?
『見てたよ。ここに来て、あなた役に立ってないよね?みんな、命がけで戦ってるのに。やる気がないなら消えれば?』
「……ううう」
『昔から、まるで成長していない。みんな、あなたなんていらないと思っているのに。なんのために生きてるの?意味あるの?生まれて誰が喜んだの?死ねば?』
精神攻撃というか、非常に辛辣な罵倒である。言いすぎだろ……そこまで言われたら、俺だってヘコむわ。ルルルが耳をふさいでしまった横で、ゴウさんが俺の肩を叩く。
「防御の魔法……は……できる。でき……ます」
「お……お願いします」
ゴウさんが手からねっとりとした光を伸ばし、それで俺の体を包み込む。どことなく肌がピリピリはするが、これで防御力が上がったのだろうか。
「テルヤ!」
「……おおっ!」
ゼロさんの声で敵の攻撃が来るのを知り、俺は両腕をクロスさせて防御の姿勢をとる。体を大きく突き飛ばされはしたが、死ぬほどの痛みは伝わってこない。まったく痛くない訳ではないが……つまようじで軽く刺された程度の痛みだ。
「テルヤ!無事か!」
「あっ……はい。敵は……」
急いで起き上がり攻撃の正体を探すが、もう砂嵐の中へと消えたようで敵らしき姿は発見できなかった。ゴウさんのバリアのおかげか、これなら攻撃にも耐えられそうだけど……攻撃を受けてしまった以上は、俺も減点を避けられないだろう。敵の減点に対する宣言を待つ。
「……」
『……』
「……?」
『勇者は減点しない。ここで死ね』
やっぱり、俺は退学じゃなくて、この場で殺処分らしい。この世界に来て何度も死ねとは言われているが、やはり女の人の声で言われると攻撃力が違う。つらい……。
「……いや、減点されないってことは」
逆に考えてみよう。俺は減点されないってことはだ。率先して俺が攻撃を受けて行けば、他の人たちは減点されないはずだ。そうして考えている内にも、次の攻撃が来る。俺はルルルをガードする形で飛び込んだ。
「……いってぇ!」
「お……お兄ちゃん」
「……だ……大丈夫!」
少し痛いが、耐えられないほどではない。これなら、砂嵐の対策を考える時間が稼げる。それはいい。いいのだが……これは。
「ごご……ゴウさん。なんだか、体が……すごくかゆいんですけど」
「ふ……副作用」
思わぬ副作用により、体中が蚊に刺されたみたいにかゆくなってきた……これは痛みよりキツイ。
『ほら、またあなたが足を引っ張っているのが解る?役立たずのルルル。役立たず』
「ううう……」
「ルルル……気にするな」
俺の声は聞こえていないのか、ルルルはうつむいたまま泣き出しそうである。俺が敵の攻撃にそなえて体をかいていると、砂嵐の外からも別の声が聞こえて来た。偽物の仙人のものと思しき声だ。
『仙人。その頭は、どうしたのだ。毛がないではないか』
「うるさい!頭以外はフサフサじゃ!」
『高校という場所では、ハゲは校長先生の専売特許。他の者がはげるのは許されない』
「うぬぬ。校長先生とは……」
仙人も精神攻撃を仕掛けられているようだが、言われ慣れているからかダメージは少なそうである。それに続けて、グロウのニセモノの声も聞こえてくる。
『読みづらい漢字の技名ばかり口にして……ここは高等学校だ。高校生にもなって、中二病を持ち込むな』
「んだと!?人のことを病気だって決めつけやがって!許さねぇ!」
グロウとニセモノは微妙に会話がかみあっていないので、あまり精神的にも問題ないと思われる。それから間を置かずして、ヤチャの偽物とヤチャの会話も聞こえて来た。
『お前は用済み。もう勇者には必要とされていない』
「そんなことないぞおおおおおおおおぉぉぉぉ!」
ヤチャも精神的に屈したりはしない様子だ。これなら大丈夫そう……。
『勇者は女ばかり気にして、お前に構ってくれないではないか。お前は、勇者に捨てられた』
「そんなことおおおおおおおおぉぉぉ……」
『友情など、その程度だ。用済みのヤチャよ』
「そん……むうう」
ヤチャの元気が急になくなった……俺、そんなにゼロさんばかり見てただろうか。この戦いが終わったら、もうちょっと優しく接するよう気をつけてあげたい……。
第122話の6へ続く






