第122話の3『退学処分』
「誰だてめぇ!」
「ろうかで騒ぐな。大うつけ者」
俺の目の前で言い争いが起きているのだが……その様をいえば、グロウがグロウに怒られている状況である。はために見たら異様な光景なのだけど、姿は同じでも口調や態度は異なっており、どちらが本物かは一目瞭然だ。これだけ違うとなると、敵は俺たちの動揺を誘う目的じゃないのか?
「お前はあと、5点で退学処分だ」
「……訳のわからねぇことを……うせやがれ!」
蛍光管の赤い光の下、刀がかち合い火花が走った。グロウとグロウが同時に刀を抜き、同じ形の武器が同じ姿勢でぶつかっている。太刀筋すら見えない素早い抗戦の中、先に体勢を崩したのは俺たちに近い方のグロウだ。あしらうように腹へと蹴りを入れられ、刀だけは下ろさぬままに片手をついて踏みとどまる。
「くっ!」
「生徒会役員への反逆につき、お前はあと4点で退学だ」
「ちっ……」
せまい廊下では戦いづらいと見て、開いている窓から外へ出る。だが、偽物の方はグロウのあとを追わず、改めて俺たちの方へと向き直った。
「イレギュラーの排除。魔王様の命により、生徒会がお前たちを処分する」
生徒会……この学校で生徒会長といえば、ミスコンテストにも名前があった積出玲だ。すると、やっぱり最後の敵は彼女なんだろうが……あちらの偽物のみなさんは何をするでもなく、俺たちに厳しい目を向けている。なんだ?
「……」
敵側にいるのは偽物のグロウとヤチャ、仙人とルルルだけだ。どうして、俺とゼロさん、ゴウさんはいないのか。そして、当の生徒会長は見当たらないが……。
「テルヤ。あそこ」
「……?」
校内の影になっている部分をゼロさんが指さし、そちらに俺も目をこらしてみる。わずかながらに、影が水のにじみに似て動いているのが解った。影から黒い線のようなものが出ていて、それがニセモノの人たちに繋がっている。あちらが本体か。今度はルルルの偽物を使って、敵が俺たちに語り掛けてくる。
「私は、お前たちを見張るだけ」
「……見張るだけ?」
「校則を破るまで、退学処分を受けるに至るまで、ただ見張るだけだ」
グロウは相手に手を出したから、制裁として攻撃を受け、なんらかの減点をくらった。さっきグロウの偽物が言っていた退学処分というのは、魔王城を追い出されるということだろう。俺にとっては死を意味するかもしれない。
「……!」
突然、学校のチャイムが鳴った。こんな夜に授業があるとも思えず、行内には生徒や教師だっている様子はない。なんの合図だろうか。
「下校時間を超過している。現在時刻は夜8時」
ニセモノのヤチャが言う。ヤチャの姿で普通にしゃべられると、いささか違和感があるが……それは今は問題ではない。下校時間を過ぎたということは、もう校内にいるだけで校則に違反しているともいえる。
「……あ」
なんだろう……チャイムを聞くと、ちょっとだけだが偽物の雰囲気が変わった気がする。見た目に変化はないのだけど、より威圧的なオーラが感じられる。かといって、襲ってくる気配は見当たらない。
「テルヤァ……オレサマ、やる……ぞぉ!」
ヤチャの言う通り、敵を倒さなければ魔王の元へは行けない。なのに、攻撃すれば何かのポイントが減点される。このまま手をこまねいていれば、時間と共に取り締まりが強化される。どうしたらいいのか。先手必勝の線もありえるし、一概にはヤチャを止めるのも得策でない。
「ヤチャよ。待て」
「ぬぅ……」
俺が止めるより早く、仙人がヤチャの肩をつかんだ。うかつに手出しすれば、何をされるか解らない。その点、仙人も気づいているようである。どうか対抗策に迷い、俺は仙人に相談を持ち掛けた。
「仙人……どうしましょうか」
「わしがやる……」
「……?」
「わしが、先にやる」
……?
第122話の4へ続く






