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第121話の7『ドッヂボール』

 ボールが壊れてしまったので、すぐには試合が続行できない。その隙を見て、俺はチームの1人ずつに小さく声をかけた。敵コートの中央から、まるで無より生み出されるがごとくボールが現れる。あれは……さっきまで使っていたものと同じボールだろうか。なお、割れたボールは完全に消えてなくなっている。


 『エリザベスチーム。サーバー』

 

 西洋の鎧に身を包んだ人が、ガシャガシャと足音を立てながらサーブのラインに移動する。よりによって、あの人がサーバーかよ……まあ、いい。やるべきことは同じだ。落ち着け、俺。相手がボールを上に放る。それより早く、ヤチャがネットの下を通して、魔導砲を放った。


 「はああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ヤチャの光線はネットを境に消えてしまい、敵までは届かなかった。やっぱり、ボールを介さない直接的な攻撃はできないらしい。エリザベスの頭上には既に氷の大砲が用意してあり、あれを使ってサーブを決めるつもりなのは明白だ。あえて攻撃位置を誘導するべく、俺はレシーバーとして立った。


 『死ね!勇者!』

 

 上に投げられたボールは氷の発射台へと吸い込まれ、キラキラとした冷気が砲台に集まっていく。エリザベスがジャンプして、拳でレバーを叩き下ろす。くるっ!


 『死煉弾しれんだん!』

 「壊していいんだな!勇者!」

 「頼む!」


 ガンと打ち出された氷漬けのバレーボールは、俺へと目掛けて一直線に飛んでくる。すかさずグロウは頑丈そうな刀を引き抜き、そのボールを打ち返さんばかりに刃を立てた。


 「刀魔法・一刀流奥義……百閃連摩ひゃくせんれんま!」


 刀を当てられ、凍ったボールからは火花が落ちる。その後、斬り刻まれたボールは無数の小さな氷の粒となり、コート上にバラバラと飛散した。これがコートに落ちたら、その数だけ敵の得点だ!確実に負ける!


 「ルルル!」

 「はいっ!」


 後ろに控えているルルルが杖で床を打ちつける。コートの床から強く風が吹き上がった。これで、数秒はボールが落ちずに持つはずだ。この間に、敵の主将を倒せるか。勝負だ!


 「うおお!」


 仙人が飛び散った氷の粒から大きめのものを手に取り、ゴウさんに浮かべてもらった光の床へと飛び移った。まだエリザベスは着地を終えていない。


 「くらええっ!」


 安定した足場を得て、仙人は投球の構えをとる。大きく振りかぶり投げ出された氷の粒は、弾丸とも見紛う剛速球となって飛び出す。空中では回避も出来ず、弾はエリザベスの胴体を撃った。しかし、相手は防御の姿勢すらとらず、鎧の固さだけで攻撃を弾き返してしまう。

 

 『無駄なことを!』


 あれだけの防具を着ているんだ。それだけの防御力があるのは想定済みだ。仙人の攻撃で、エリザベスが俺たちの方を見た。今だ!


 「ゼロさん!頼みます!」

 「任せろ!」


 身を避けた仙人の後ろから、ゼロさんが小さな氷の粒を握りしめ、第2弾を放つ。それは1つのブレもなく、エリザベスの頑丈なカブト……その目。覗き穴へと撃ち込まれた。


 『……ッ!』


 ガウンと金属の弾ける音がして、エリザベスのカブトが吹き飛ぶ。ヨロイの中には……体はなかった。ただ、白い霧のようなものが中から吹き出し、ガクガクと痙攣するように震えた後、鎧はバラバラになって床へと落ちた。敵のコートを覆っていた黒いものも、エリザベスの無力化と同時に消えていく。


 『勝者……勇者チーム……』


 黒コートの弱々しい声が最後に響き、点数の書いてある垂れ幕も、重い音を立てて体育館の床へと落下した。体育館に満ちていた寒さも引いていく。仙人に肩を叩かれて、やっと俺は冷静さを取り戻した。


 「……か」


 ……勝ったんだよな?みんなの無事を確かめようと振り返る。


 「……」


 ヤチャは血が出てるけど、みんなは大丈夫そうだな。それを知ったと同時に、体育館の電気が消えた。気づけば、体育館の外が暗くなっている。俺は窓へと近づき、校外の景色へと目を向けた。


 「……月だ」


 ……ついに夜がやってきた。暗い校舎と校庭が、体育館の窓から見えている。人工的な灯りは全くない。1つ勝利を決めたあとだというのに、なんとも言いようのない不安が、冷えた俺の体に押し寄せて来た。


第122話へ続く

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