第121話の6『バレーボール』
「テルヤ。あれは……何が起きたのか」
「簡潔に言うと、こちらの攻撃を全て無効化されました……」
「大変だな……」
ゼロさんと俺の会話を横耳にして、みんなも状況を把握できたらしい。ドロドロに成り果てた黒スーツ姿のやつらが、敵陣のコートをコーティングするがごとく覆い隠してしまった。つまり、どこへ打ち込んでも敵の体に当たるわけで、100%インできない。勝ち目があるとするならば、敵のミスを誘う他ない。
「勇者……勇者さん。次、打つのは私だ……ですか?」
「同じ作戦は使えないですね。あの……打つの、ちょっと待ってください」
一応、得点したのは俺たちだから、次のサーバーはキメラのゴウさんだ。まず、ゴウさんなら間違いなく相手コートには入れくれるだろう。で、絶対に相手は止めてくるはずだ。で、トスされるだろ?打ち返されるだろ?したら、こっちは敵のアタックを止められるか?止められたなら……こちらの攻撃だ。誰かがアタックするだろ?で、絶対に止められるだろ?トスされる。アタックされる。そしたら……このままじゃ負けそうだな。
『勇者!ぐずぐずぐずしている!』
「……あっ。すみま……くっしゅ!」
鎧を着た人……エリザベスさんから催促を受けた。すると、緊張で汗をかいたからだろうか……肌寒くてクシャミが出てしまった。あまり時間をかけると、反則を取られるかもしれない。ひとまず、1点だけは取られるのを覚悟して、ゴウさんにサーブをお願いした。
「できれば、鎧の人から離れた場所……あの角の辺りに打ってもらっていいですか?」
「はい……うん」
ゴウさんがラインに立ち、俺の頼んだ通りの場所にボールを打ってくれた。すると、コートを覆っている黒いものがボウンとふくらみ、ボールを宙へと放り出す。再度、別の床でも同じくボールを打ち上げる。ボールの動きを追って、俺は顔を上げた。
「……?」
あれは……氷か?半透明なツツ状のものが、敵陣の高いところに浮いている。その中にボールが入り込む。エリザベスは重たそうな鎧をものともせず、ツツの最後尾へ目掛けて飛び上がった。
『氷柱火走……』
ツツの先端が向いているのは……間違いなく俺の方だ。あれは戦車の主砲……それか、物を打ち出すカタパルトのように見える。やばい!俺は身の危険を感じると、とにかくロックオンされた場所から逃げ出した。
『死煉弾!』
エリザベスが氷でできたツツの突起を叩く。鉄が打ちつけられるような音がして、ツツの先より氷のカタマリが発射された。的確に、俺のいる方向へと。し……死んだ。目をつむって、腕で顔をガードする。
「鏡半月!」
俺の目の前で、バンと氷の割れる音がする。冷気が体に当たっている。聞こえたのは……グロウの声か?目を開く。長い刀を逆手に持って、それを床に付きたてているグロウの姿があった。
「ぐ……グロウ。大丈夫か?」
「……打ち返してやろうと思ったがよ。失敗したぜ」
この状況から見て、グロウが俺を助けてくれた……いや、やつのことだから、自分のせいで1点を取られたままでいるのが癪だったのかもしれない。あの球……弾をはじいたのはグロウの刀だろう。じゃあ、ボールは……。
「……」
後ろを見ると、まっぷたつに斬られたボールが床に落ちていた。まだ凍っている。球の形をたもったまま、ボールは真ん中から2つに分かれていた。
『2ポイント!』
「ええ?2ポイント?」
床に張り付いている黒スーツが、姿はそのままに叫んだ。2ポイントだって?バレーボールにスリーポイントシュートみたいなのはないだろう。そう考えたと同時に、俺は2つに分かれて落ちているボールに気づいた。
「……」
2つに分かれて俺たちのコートに落ちてるから、2ポイント……なるほど。納得はできかねるが、理解はした。
「またかよ!今日、俺もうダメだわ……おめぇらに任せた!」
1点を取り返すつもりが追加で2点も入ってしまい、グロウが刀をおさめながらふてくされている。俺としては助けてもらったので感謝の気持ちしかないが、何か声をかけようにも自責の念を深めるだけかもしれない。いや……待てよ。
「……」
もう一度、一刀両断されたボールを見る。ちぎれても斬られても、ボールはボール扱い。敵陣の守りは鉄壁。敵の主将は全身をカブトと鎧に包んでいる。でも……。
「おい、グロウ」
「ああ?」
「次で勝つぞ。手伝ってくれ」
「……はあ?」
あの攻撃からして……敵は完全に、俺を再起不能にしようとしてきた。そして、もう俺たちの点数は入らない。考えを変えるんだ。もう、これはバレーボールじゃない……これは。
「そうだ。ドッヂボールだ……」
第121話の7へ続く






