第37話の1『告白』
《 前回までのおはなし 》
俺の名前は時命照也。恋愛アドベンチャーゲームの主人公なのだが、気づけばバトル漫画風の世界に飛ばされていた。魔王四天王の一人であるジ・ブーンより命からがら逃げ延び、俺たちは姫様たちの故郷である王国へと急いでいるところ。
王国へ到着するまでには半日くらいかかるらしく、それまで俺たちは運転しているルッカさんの背中と、果てしない大海原を眺めている事となった。爆走しているボートの中は水浸しで、ずっと浸かっていると風邪をひきそうだったからして、俺とゼロさんはボートの後部にある平台のような場所に乗っている。
「エビゾー殿。こちらの方角で問題はないでしょうか」
「オゥケーイ」
周りに目印となるものがないのと、夜が明けていない都合から、ルッカさんはエビゾーさんが持っている方位磁石を頼りに舵をきっている。姫はジ・ブーンの騒動で疲れたのかボートの淵に突っ伏したまま眠っており、そちらをゼロさんが虚ろな瞳で見つめている。なお、ゼロさんの目が虚ろなのは、この姿になってから常時である。
「……勇者、すまない。またしても、手をわずらわせた」
「……え?いえ。むしろ、俺の方こそ助けてもらってばかりですよ」
なんだかゼロさんには謝られてばかりだが、トータルでは俺の方が謝るべき事は多い見積もりである。きっと高飛車な性格の人がヒロインだったら、俺は何度もボコボコにされていたんじゃないかと思われ、それも踏まえて……。
「俺、ゼロさんがいてくれて、本当に良かったと思ってます」
「……しかし」
「それとですね……俺も言ってなかったことがあるんですが……」
多分、ゼロさんに限らず仲間になってくれた人たち全員、俺の正体が判っていないから何を任せればいいのか、もしくは頼りにしてもいいのか、そこが理解できていないのだ。とはいえ、さすがに『俺、バトル世界の人じゃないです』と言ってみても仕方はないのだが、普通には戦えないという事だけは正直に伝えておきたい。
「なるべく、役には立とうと思いますし、みんなを助けるつもりでは動きます……けど、俺には普通に戦う力はありません」
「……えっ」
ゼロさんの中で、どのように俺の姿は映っていたのか。なんの肯定も否定もなく、ただの驚きが返ってきた。思えば、ワルダー城へ乗り込んだ際にはゼロさんもいなかったし、キメラのツーさんと戦った時もゼロさんは先に食べられていたから、俺が戦っている場面をまともに見た事がないのだ。むしろ、俺の方こそ戸惑いつつも、ほそっちょろい腕を見せてみる。
「この腕、修行してきた人間の腕に思えますか?」
「……私は良いと思うぞ」
「あの。そこは気をつかわなくていいので……」
あまりに俺が貧弱だったからか、フォローを入れられた……だが、そういう話ではない。とどのつまり、俺にできることは他にしかない。
「困ったことがあったら全部、俺に任せてください。絶対に助けてみせますから」
「……どうやって?」
「それは……その時に考えます」
「……解らないな」
そういいつつ、ゼロさんが控え目に俺の肩を抱いて、そっと寄せるように肩を押しあてる。重いな……でも、温かい気持ちだ。この期待に俺は応える。たぶん、それが俺の役目なんだと思う。
「……皆様。前方に謎の老人が」
「謎の老人……ッ!」
いい雰囲気の中にルッカさんの目撃証言が飛び込んできて、なんだか急に目が覚めた……。
第37話の2へ続く






