第121話の5『卑怯者vs卑怯者』
「よよよよ……よかったのか?あれで。勇者よ」
「ててててんすうが入ったので、たぶん……」
ヤチャを助けることにいっぱいいっぱいだったので、仙人が点数が入れてくれたことに動揺してしまった。仙人本人もバレーボールのルールが解っていなかった為か、自分の行動が正しかったかを俺に尋ねている。大丈夫……多分。
『勇者チーム!サーバー!』
そうか。こっちが点数を入れたから、サーブ権も俺たちにあるのか。敵チームの黒スーツの1人がボールを放る。それは座り込んでいる俺と仙人の上を超えて、後ろの方まで飛んでいく。そして、コートの後ろの方でしゃがみこんでいたルルルの頭に当たった。
「いたっ……」
「……えっ」
あれ……もしかして、こっちのサーバーって……ルルルなのか?なんで?
「あの……質問です。サーブの順番って、決まってるんすか?」
『並び順』
勇者チームは前衛選手が多すぎて、後ろにいたのはゴウさんとルルルだけ。それも、サーブの位置に最も近かったのはルルルだったので、自動的にサーバーも決まってしまったらしい。打つのはいいとして……あっちまで届くのか?
「ルルル。できるか?」
「な……なにを?」
「ここから球をとばして、あっちの線の中に入れる」
ルルルの体格は平均的な7歳女児くらいだ。力だって強くはない。普通に打ったらネットを超えないだろうけど、この試合はルールがゆるいから、魔法や杖を使っても許されそうである。しかし、そもそもルルルはコートに入りたくないようである。
「さっきみたいのが飛んで来たら、あたち死ぬのん」
「大丈夫……俺だって死ぬから。打つだけ打ったら、下がっててくれ」
「うん……」
ルルルは敵のアタックを心配しているらしいので、不安を解消すべく俺とゼロさんがガード役として前に立つことにした。ルルルがボールを拾おうとする。いや、待てよ。
「ルルル。ま……待った」
「ひっ!な……なんよ!」
バレーボールって確か、ボールを持ってからサーブするまでの時間が決まってるんじゃなかったっけ……その前に作戦を立てねば。まず、ルルルがサーブをして無事に入ったとしよう。それで、相手がボールをトスする。で……間違いなく、さっきの殺人シュートが来る。これは、まずい。
「ヤチャ……無理はするなよ」
「おおおおぉぉぉ!」
死傷者を出さないよう、先にヤチャへは声をかけておいた。あの重いアタックが再び襲ってきたとして、もうヤチャに止めてもらうのは厳しい。他の人たちだって、無傷でボールを止めるのは不可能だと思う。だったら、さっきのアタックを打ったやつにボールが渡らないよう注意しなければならない。
「……」
敵は……全身を鎧でかためたリーダーらしき人は真ん中に立っていて、そのまま頑として動かない。黒スーツの人たちは全員が同じ格好をしているし、背丈も肉付きも大して違いがない。さっきの攻撃を打ったのは、どいつなのか。むしろ、全員が同じ能力を持っているのか。それは考えても読めない。じゃあ……。
「ゴウさん。ちょっと、いいですか?」
「はい……」
ヤチャが魔力砲を撃った時、それはネットの上を貫通した。向こう側へ行く事はできないけど、魔法なら対抗できる。よし。
「ルルル。ボールを上に投げて、あっちに入るよう打ってくれ。ゆっくりでいいぞ」
「よ……よぉし!」
教えた通り、ルルルがボールを投げて、野球さながら杖の先で打ち出した。遅い。紙風船かと思うほどの球速だ。しかも、完全にアウトのコースなので、入れるのは厳しいか……そう思ったが、ボールは慣性的にありえない動きでネットの横を通って、無理やりにインコースへと戻された。
「……?」
後ろを見ると、ルルルが杖の先をボールに向けて光らせていた。魔法で軌道修正したらしい。よし。これだけ遅ければ、十分に時間が稼げた。
『トス!』
手前にいた黒スーツの1人が、打ち上げるようにしてボールをトス。それを追って、近くの別の黒スーツが飛び上がった。また、あの殺人アタックが来る。
『……ッ!』
トスした選手の真上でボールがはねかえり、勢いそのままに相手コートへと叩き戻された。アタックを目指して大きくジャンプした黒スーツも、攻撃がかなわずに無念そうに着地する。
『1ポイント!』
「ゴウさん!ありがとうございます!」
「ああ……いえ」
トスの威力はさほどでもないとして、上がる場所に目星をつけて魔力の板を張るよう準備してもらった。さすがの敵も、真上ではねかえってきたボールをひろうことはできなかったようである。卑怯かと言われれば、そうだけど……これしか思いつかなかったし、勝てばよかろう。これで同点だ。
『親衛隊!ふがいなき!』
『……ッ!』
突然、鎧の人が強く足を鳴らしながら叫ぶ。黒スーツたちはピリッと姿勢を正し、そちらへ顔を向けた。
『仕方なし。鉄壁の陣!構え!』
『御意!』
鎧を着た人からの指示を得ると、黒スーツたちの体が……ドロドロにとろけ始めた。完全に人の形をくずした黒いカタマリたちは、そのまま相手コートを覆いつくす。すぐに一面が真っ黒に変わった。
『勇者チームには金輪際は、点数を入れるスキはない!』
敵チーム選手の体で自陣を全て覆う。そうすると、どうなるか……すぐに俺は相手の思惑に気がついた。
「あっ。き……きたねぇ」
第121話の6へ続く






