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第121話の4『まずは1点』

 ヤチャの体重は100キロを超えていると思われ、身長だって俺が見上げて会話しないといけないほどである。それだけの大男が、敵の打った球にしがみついて高速回転しながら、俺たちの方へとゆっくり飛んでくるのだ。しかも、寸前に2発も魔力砲を撃ち込んだ球だぞ。なんで止まらないのか疑問だ。


 「うあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ヤチャの叫び声すら、ボールに揺さぶられて振動している。このままボールごと床に叩きつけられたら、敵のポイントになってしまうとかいう問題ではない……そもそもヤチャが無事ではすまないだろう。どうする……みんなで受け止めれば、かろうじて致命傷だけは避けられるか?次の行動に悩み、俺が仙人と顔をあわせる。だが、ふとヤチャの叫び声が少し変わったのに俺は気づいた。


 「テルヤアアアアアアアアアアアァァァァァァァァ!離れろオオオオオオオオオォォォォォォォォ!」

 「……?」

 「あああああああぁぁぁぁぁぁ!岩・石・落としいいいいいいいぃぃぃぃ!」


 ヤチャのいかつい顔……頭が、ドカンと大きな岩のごとく膨らんだ。これは、オトナリの村で使った技か。ヤチャの頭が体育館の床へと達し、爆発でもするように重い音を立ててぶつかった。


 「おおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!おっ!おっ!」


 止まらない回転に抗う形で、巨大化したヤチャの頭が何度も体育館を叩く。直線だったボールの起動がブレ始めた。ドドドドドと絶え間なく打撃音が続く。その最中で、俺の顔に何か、液体が飛んできた。これは……ヤチャの血だ。


 「ヤチャ!死ぬぞ!手を離せ!」

 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」


 衝撃波と爆音に阻まれて近づけない。あいつ、攻撃が通用しなかったのが悔しかったのか、死ぬ気でボールを止めに掛かっている。ヤチャの石頭に叩かれても、体育館の床は抜ける様子がない。ボールが止まるか、ヤチャが力尽きるか、その2択だ。今、俺に出来ることは……。


 「……そうだ!ここ、ちょっと抜けます!ゼロさん!手伝って!」

 「解った」


 選手がコート外に出るのは反則ではないはずだ。体育館の用具入れ、あそこに確か……あった!


 「ゼロさん!これ!」

 「……理解した!」


 マットだ!体操用の分厚いものがある!それをゼロさんは引っ張り出すとともに、ヤチャの頭の下へ入るよう投げ入れた。


 「うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!テルヤァああああああぁぁぁぁぁ」


 一際の大きなヤチャの叫び声がして、頭を打ちつけられた衝撃でマットが破裂する。飛散したマット内のスポンジと一緒に、俺の方へと何か飛んできた。それは……頭を小さく戻したヤチャだ!すると、弾き飛ばされてきたヤチャが俺の目の前で急に止まった。


 「止めた……止め……ました」


 俺とヤチャの間に、光の壁がある。その壁を作ってくれたのはゴウさんのようだ。壁を回り込んでヤチャの無事を確かめる。だが、ヤチャは頭から血を流しながらも、無気力に空中を指さしていた。


 「たの……む……」

 「……?」


 ヤチャの指先が示すものを見つめる。巻き飛んだマットのワタで視界が悪い。その中、蛍光灯の光を受けて、大きな影が確認できた。


 「おぬしの気持ち、無駄にせん!任せろ!」


 高く飛び散るマットのワタの中に、かすかに仙人の姿と、浮き上がった小さなボールが見えた。


 「ハンマアアアアアアアァァァァ……グウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」


 仙人が両手を組んで、力いっぱいに腕を振り下ろす。ボールの叩き込まれるボゥンという音。敵のコートの中、床をボールが打ちつける。は……入った。黒コートの声が響き渡る。

 

 『1ポイント!』


 入ったぞ!ヤチャ!ま……まずは、1点!


第121話の5へ続く

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