第120話の1『ミス・ミステリアス』
《 前回までのあらすじ 》
俺、時命照也はギャルゲー主人公なのだが、なぜだかバトル漫画っぽい世界に飛ばされてしまった。冒険の末、ついに到着した魔王城……の偽物に騙され、貴重なコンテニューを消費。一度のミスすら許されない状況ながらも命からがら、本物らしき魔王城へ侵入を果たした。魔王城の中は学校のようになっており、そちらの探索に当たっているところ。
にしても静かだ。今のところ、敵らしき者の姿は魔王城の中には見当たらない。試しに校庭へと出てみる。街並みや青空は遠くまで広がって見えるのだけど、学校の外に出たらどうなるのだろうか。
「……いてっ!」
大きな校門を通り抜けようとするも、俺は見えない壁に頭をぶつけて立ち止まった。景色は見えているのに、移動できる場所は学校の敷地内だけらしい。それ以上は進めないでいる俺の様子に気づき、ヤチャが腕を回しながら歩み出る。
「任せろぉ……おおおおおおおおおおおおおおお……はあああああああああああああぁぁぁ!」
掛け声をつけて、ヤチャが見えない壁へパンチを放った。ガガガンと音がして、ひび割れや拳の跡宙に残る。しかし、パンチの痕跡ができただけで、穴は開いていない。ヒビこそ入ってはいるけども、空間が崩れている様子もない。やっぱり、この先には行けなさそうだな。
「……ッ!」
みんなが一斉に、校舎の方へと目を向けた。俺は何も感じ取れなかったけど、何かあったのだろうか。続けざま、学校の上の方から、バァンと重いもののぶつかるような音がした。
「えっと……ゼロさん。今の、なんでしょうか」
「誰かが見ていた。逃げ出したようだ」
まさか……あの偽の魔王城が入ってきたのか?ヤチャは魔力を使って空へと飛び立ち、屋上に誰かいないか見に行ってくれる。俺は体育館の窓へと近づき、魔王城の入り口へと目を向けた。
「開けなさい……開けなさい……」
偽の魔王城の呪うような声は、まだ扉の外から聞こえている。とすると、あれが追ってきたわけではないみたいだな。それを知った俺の後ろにヤチャが降り立ち、特に変わった様子はなかったというふうに首を振る。そういや、俺たちが偽の魔王城に入った時、屋上へ続く扉に不思議なカギがかかっていたのを思い出した。
「ひとまず、中に戻りましょう」
校庭には特になにもなさそうなので、俺たちは校舎へと戻った。俺は率先して階段を上がり、屋上へ出るための扉を確認しに行く。やっぱり扉にはハート型のカギが3つかけられていて、黄色の南京錠からはモヤモヤした黒いオーラが発せられている。
「ふんふん……先程のは、ここに入ったな」
仙人が鼻をきかせ、扉や通路の臭いを辿りながら言う。俺たちを見ていた誰かは、急いで扉の奥へと逃げ込んだようだ。ヤチャが屋上を見てきてくれたはずなのに、それでも誰の姿も見つけられなかった。つまり、この扉の先は……どうなっているのだろうか。
「カギを見つけないとダメみたいですね。仙人、においで探せませんか?」
「入っていった人物のにおいはあるが、カギをかけた者のにおいはしないな」
言われてみれば、中に入っていったのに、こちら側に南京錠がかかっているのはおかしい。まるで密室殺人の現場だ。物理的に不可能なことが起こった場合、この世界では魔法が関与していると見るのが有力だ。
「きゃあああああああああああぁぁぁぁぁ!」
「……ッ!」
突然、遠くから悲鳴にも似た叫びが聞こえた。ここに仲間はみんなそろっている。すると、誰の声だろう……恐怖心を振り払いながら、俺たちは階段を降りて校舎の4階へ向かった。
「……?」
ろうかや学校の壁が、汚れたように白くよどんでいるのが見えた。それがヘビや虫のごとく、縦横無尽に這いまわっている。なんだあれ?
「テルヤ!」
突然、ゼロさんが俺をつかんで、強引に階段へと引き戻した。そのすぐあと、俺のいた場所を大きな白いものが、俺を押しつぶさんという勢いで通り抜けていった。
「魔王様。魔王様。すぐに邪魔者は排除するからね」
学校の廊下をふさぐほどの白い巨大なものが、野太い声で喋りかけてくる。それは体中にびっしりと目のついた、肉食恐竜のような生き物だった。攻撃目標は……間違いなく俺だ。
「みんな!敵だ!」
ただちに白い恐竜を敵だと判断し、俺たちは下の階へと逃げ出した。そんな俺たちの後ろで、化け物は大きな足音を鳴らしつつ、不気味なささやきを吐き出した。
「あなたの小和井夢子が、勇者を消してあげるから……見ていてね。魔王様」






